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ん~~~、悩ましい。
「どうしたら、私を従者にしてくれるんですか?」
「自分のために生きるってことはないの?」
「無理ですね。私の身体には従者になる使命の遺伝子が刻み込まれているので」
おっそろしい遺伝子だこと。私の聖女遺伝子がましに思えてきたよ。
ミミの生きる目的が私に仕えることになるのなら、私の生きる目的もはっきりさせた方がいい。……だけど、それが難しい。
そもそも生きる目的なんて存在しないし……。目的なんて己の都合で決めた価値に過ぎない。
生きる目的も人生の目標もいまだに迷走しているなんて、私ってば救えないわね。なんて薄っぺらい人生なの。
私は大きくため息をつきながら「レイは? なんのために生きてるの?」と彼に視線を向けた。
困った時のレイくん……! 彼に話を振って、この場から逃れよう……!
「俺の兄を殺した奴を殺すため」
レイに話を振った私が大馬鹿野郎でした……。
この場から逃げるどころか、私の首を掴まれた気持ちだ。
「っていうのが少し前までの答えだった。本気でそのことしか考えていなかった。……だけど、今は……」
レイは途中で言葉に詰まる。ゆっくりと私と視線を合わせた。
殺したかった相手をそんな目で見る……!?
私はレイの目を見て驚いた。だって、哀しみを奥に潜めた瞳を私に向けていた。何故レイにそんな目を向けられているのか理解できなかったけど、茶化すような雰囲気でもないので黙っていた。色々と会話をして憎しみは薄れているだろうとは思っていたけれど、悲哀の感情が湧き出ていたなんて聞いてない。
もしかして、私が世界を救ったら死ぬって分かったから…………?
そんなに、私を自分の手で殺したかったのかな。
「今は……、俺もよく分かんねえ」
暫くして、レイはそう言った。
私もレイも人生の目標を失った者同士ってわけか。……いや、私は元々人生の目標なんてないから、失ったのはレイだけか。
人生の目標か……、少しだけ今晩はそれについて考えてみてもいいかも。
これがいい機会だ。今まで自分と向き合って、人生について考えるなんてことは避けていた。なんか哲学者っぽくて……。哲学っていうのは有閑階級の暇人がするものだと思ってるし……。つまりは、余裕のある人たちがってこと。
騎士団でこき使われる私は……というよりも、日々鍛錬のことだけに集中してきた私には無縁だった。
「明日も依頼を潰していかなきゃならないから、もう寝よっか。今日は疲れたし。ふぁああぁ」
私があくびをしながら、会話を終わらせた。
「お前さ、敵だと分かれば躊躇いなく殺すんだな」
「え?」
てっきり「おやすみ」って言葉が返ってくるかと思えば、全く違う言葉が返ってきた。てか、レイが私に「おやすみ」なんか言うわけないか。
私は目をぱちくりさせたままレイの次の言葉を待った。




