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「く、来るな……」
地面に尻餅をついたまま、怯えた様子で後ずさる男を私は見下ろす。
なんとも情けない姿。命乞いをしても無駄って言ってたのはどこの誰だったかしら。
この部屋を一瞥したところ、一人扉に背もたれを付けながら若い男性が一人いびきをかいたまま眠っていた。きっと、さきほどの衝撃で扉の場所まで飛ばされたのだろう。ベッドは酷い形に変形している。
てか、この状況で起きないんだね……。眠り深すぎない? 私が暗殺者とかだったら死んでるよ?
短所なのか長所なのか分かんないけど、今は別に彼のことを心配しなくていっか。
「殺す前に一つ聞いておきたいんだけど、どうしてスネークマンがここにいるの?」
髭なし男はカタカタと恐怖で体を震わしている。私の蹴りによって、鼻血は出ているし、口からも血が出ていた。
こんなに派手に暴れるつもりはなかったのに……。
情報を聞き出したかったから、サクッと殺せなかったんだよね。痛めつけようと思ったら、壁を破ることになっちゃった。しょうがない、薄い壁が悪い。
「ねぇ~、早く答えて~~」
私は面倒くさそうに口を開く。私の煽りに男は「あ、あ……」と言葉をかろうじて発するが、何を言いたいのかさっぱり分からない。
「はぁ、四肢を切り落とそうか? そしたら、さっさと喋ってくれるかな?」
「は、話すから! ……あ、あいつは、とある男からもらったんだ。詳しくは知らねえ。いい品があるって、突然大きな箱を渡されたんだ。それに、金は要らねえって……。怪しいとは思っていたけれど、箱を開けてみりゃスネークマンだったから」
「男の見た目は?」
私は話を遮って、質問する。
「裾の長い大きな黒いマントを被っていて、顔は分かんなかった……。なぁ、信じてくれよ。俺らはただ奴隷売買しているだけで本当に何も知らねえんだ。ただ、生きているスネークマンを手に入れたから調教しようと」
「ああ、もう黙っててくれていいよ」
私は意識を彼の首元を向けて、手を払った。魔力が彼の呼吸器官を鋭く切り裂いた。一瞬にして、彼は泡を吹き出し息絶えた。
魔力は神聖なものだから、できるだけこんな下品な連中に使いたくないんだよね。
それに、殺しはできるだけ短く終わらせたい。四肢を切り落とすなんていう悪趣味はない。
「たいした情報を得られなかったな~~」
私はため息を小さくつきながら元の部屋へ戻ろうとすると、ドタバタとこっちへと人が向かってくる音が聞こえた。
……こんな場所でこれだけの騒ぎを起こして、皆が気付かないわけないよね。……あ、この部屋の人を除いて。
なんで、彼はいまだにぐうぐうと無防備に寝息を立てながら寝ていられるの?
もはや、大物なんじゃないかって思えてきた。赤髪の短髪くん、あんた凄いね。
「この部屋だ!! ドアを壊せ!!」
男性の野太い声が扉の外から聞こえてきた。
まずい……! 三人でえっちらおっちら逃げている暇なんてない。




