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聖女は世界を救わない  作者: 大木戸 いずみ


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5

 アンハッピーマイライフだ。

 翌朝、突然連絡もなく家に人がやってきた。

 見覚えのあるその顔を思い出すまで少しかかったが、彼が「殿下が呼んでいます」と言ってくれたおかげ思い出すことができた。

 メグナドル国の第一王子アヴィン・ドリューの従者であるセナ・エーバンだ。

 深い青色の長髪を丁寧にまとめ上げて、頭の後ろで一つに括っている。顔立ちからして柔らかな雰囲気を醸し出している。細身だが、よく鍛え上げられている……らしい。……噂ね! 私はセナの体を見たことないし、興味もないからね! 

 ジェフリーは「今度はなにしたの」と怪訝な表情を私に向けてくるし、理由も分からないまま連行されるし、本当に勘弁して。

 呼び出しじゃなくて、連行だよ、こんなの。王族だからって何してもいいわけじゃないんだから!

 心の中で「強制連行されました~~~!」と叫びながら私は王宮行きの馬車に揺られる。


「そういえば、前回の魔族との対決もケイト様がご活躍されたとか……」


 思い出したようにセナは私に笑顔を向ける。うとうとと眠りかけていた私はその落ち着いた声で目を覚まし、あくびをしながら声を発した。


「そこまで強くない魔族だったからね。使っている魔法も魔力も中の下。……最近、捨て身で来るような魔族が多い。きっと、私たち人間の体力を徐々に消耗させていくのが狙いなんだと思う」

「……そろそろ最前線で戦うのをやめたらどうですか?」


 これまた突然の提案。

 予想外のセスの言葉に一瞬固まったが、「どうして?」とすぐに返す。セスはどこか深刻な口調で話し始めた。


「ケイト様にとっては今の魔族との戦いに余裕があるのかもしれませんが、実際、魔族の力は確実に強まっております。戦死者は増加しておりますし、我々は聖女であるケイト様を失うわけにはいきません。ご自分のお立場を理解した上で賢い判断を……」

 

 うわっ、出たよ。「聖女」だって。

 本当に嫌になる。私なんかを勝手に聖女にしないでほしい。…………私の敵は魔族ではなく、もはや神なのかも。


「嫌だ」


 もちろん、私はびっきりのキラキラサンシャインスマイルを浮かべる。


「い、嫌って……」

「いつも通り、聖女なんて肩書き関係なく戦うよ。勝手に期待して崇めて、私が理想の聖女と違ったら裏切られたって罵ってくる民衆のために戦いたくないもん」


 戸惑うセナに私は更に言葉を付け加えた。


「私がいなくなって、世界が滅んだところで私の心は痛まないわ」

「…………では、ケイト様はなんのために戦ってるのですか?」


 いい質問……!

「愛する人を守るためさ」と得意げな表情で口角を上げて言えたらいいんだけど、そんな人はいない。悲しいことに、大義名分などないのよね。

 ジェフリーを守るため? ……ないない。彼は私に守ってもらわなくても強い。めちゃくちゃ強い。

 

「そういうものだから?」

 

 私は首を軽く傾げながら、そう口にした。セスの顔がしっかりと険しくなるのが分かる。

 酷い答えだってことは自分でもちゃんと分かってるわよ。

 けど、私はとうの昔の心を捨てたの。戦う理由を見出して戦うようなタイプじゃない。どっちかっていうと、遊び感覚に近いかも。……ってこんなことは流石に王子の従者さんには言えないけど。

 小声で言うね。聞き逃さないで。

 私にとって戦いは、命を懸けた遊びと一緒なの。戦いが好きとかじゃなくて、勝つのが楽しいって気持ちに近いかな。「勝てる!」って分かった瞬間の興奮が最高というか……。

 

「……どうして神は彼女なんかを聖女にしたんだ」


 セスはボソッと小さな声で呟いた。

 分かる、私もその意見には同意だよ。聖女になりたいって願ってる人にその座を渡せばいいのにね。……てか、私から渡せないのかな?


「セスに譲ろうか? 聖女の座」

「寝言だと捉えるために、今から私がケイト様を寝かしましょうか?」


 急にセスからとんでもない魔力の圧を感じる。にこやかだけど、目が笑ってない。

 おっと、まずい。そんな強制的に寝かさないでほしい。


「大丈夫、もう寝た」


 私は光のスピードで目を瞑った。

 はぁ、と大きなため息が聞こえてくるのと共に魔力が弱まっているくが分かった。

 ……ふぅ、間一髪!

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