49
「へぇ、かっこいいじゃん」
私はからかうようにして笑みを浮かべた。レイは「あ~~、うぜぇ、もういい。またな」と頭を掻きながら、部屋を出て行った。乱暴に扉を閉めていくのを私はぼんやりと眺めていた。
内心では言葉が出てこないほど、驚いていた。
レイって、よく分からない。
私に対しての印象が変わったのかもしれないけど、人の憎しみっていうのは簡単には消えないはず。レイとの関係は前よりは良好になったと思うけど、超マイナスからのマイナスになったぐらい。
それなのに、レイはなんやかんやで街に入ってから宿を探す私の後をずっとついてきていた……。
………………なんで?
見張られてる? いや、それでもやっぱり、私を殺すチャンスを窺ってる!?
「……私の考えすぎかも。レイのために思考を使うなんて、脳の労力がもったいない」
「おい、聞こえてんぞ」
私が独り言をボソッと呟いたのと同時に隣の部屋からレイの声が聞こえてくる。
どれだけ薄いのよ、この壁! 一緒の部屋にいるのと変わりないじゃん!!
「ごめ~ん」
私は軽く謝って、『全ての音を拒め。内からの音は許さず、外の音は通せ』と防音魔法をこの部屋にかける。
これで私は周りの音を聞き放題で、私からの言葉は何も聞き取れなくなった。
向こうの声も遮断しても良かったんだけど、周囲の音はやはり聞いておきたい。こういう安宿って治安はあんまり良くないからね。何か物音がすれば、すぐに動けるようにしておきたい。
私はベッドの上であくびをしながら、目を閉じた。
今日は折角ベッドの上で眠れるのだから、早めに寝るのも悪くない。私はゆっくりと眠りに落ちた。
♢
――ガタンッ。
大きな音の衝撃で目が覚めた。
反射的に体を起こして、窓へと視線を向けた。まだ外は真っ暗で、夜中だった。
……なに?
私は警戒しながら、音のした天井へと視線を上げた。ここは三階建ての宿で、上には客室がある。
レイのいる隣の部屋からはカタッと音が聞こえた。どうやら、レイも上の音で起こされたみたい。少しして、コンコンっと扉をノックする音が部屋に響く。私は部屋の扉を開けて、レイを中に入れた。
「おはよう」
私が小声でそう言うと、「今のはなんの音だ?」と声を落としながら、緊張感ある表情を浮かべている。
なんの音かは私にもさっぱり分からない。ただ、不吉な予感はする。
私は小さくため息をつきながら、「面倒事に巻き込まれませんように」と呟いた。
自分は面倒を起こしてもいいけど、誰かが起こした面倒事の渦中に自分もいるっていうのが一番嫌。他の人に構っている余裕なんてないもん。
「きゃあぁぁあああぁぁぁ!!」
おっと、まずい。
このままだと、絶対に面倒事に巻き込まれる。この女性の甲高い声が問題が始まる合図みたいなものだもん。
私は「逃げよっ」と言って、急いで窓の外から部屋を出ようとした。窓を開けた次の瞬間、私はレイに手を掴まれた。あまりの力強さにふりほどくことはできずに「離して」とレイを睨む。
「今の叫び声を聞いて、この場を離れるのか?」
「うん」
私はレイの言葉に素直に頷いた。
そんな怖い顔して私を見ないでほしい。か弱き女の子だったら、涙目になって声も出せなくなっているよ。レイって可愛らしい顔しているけど、なかなかの殺気を放つ。
「わざわざ揉め事に参加するメリットがないもん」
もちろん、これが任務だったら即座に行動いている。
私の言葉を聞いてレイは「お前」と声を震わせた。額に薄っすらと血管が浮いており、彼の怒りが、この場の空間を圧していた。
……これまた怖い顔ね。




