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半ば強制的にレイに連れられて、街まで来てしまった。
ここは王都からかなり離れているから、私が聖女だということは認識されていない。マントを被らなくても大丈夫。
嫌な目で見られることも騒がれることもない。バレなければ、ごく普通に過ごせる。
「早く宿探して、休も~~」
私はそれなりに栄えている街をスタスタと速足で歩く。
「ちょっとぐらい遊ばねえの?」
「遊ぶってなにして?」
レイの声に反応して、私はその場に立ち止まり、彼の方を振り向いた。私の真面目な表情にレイは少し驚いた表情を浮かべる。
「街を散策したり、買い物したり……、街で遊んだことねえの?」
「ないよ」
私の返答にレイは目を見開いたまま「嘘だろ」と呟く。
ジェフリーに頼まれた買い物とかは遊びって言わないよね? ……それを含むなら、街で遊んだことはある。けど、友達と気楽に買い物するなんてことはしたことない。
休みの日は……って、休みの日なんて今までほとんどなかった気がする。……そう思うと、聖女って年中無休の最悪な職業ね。
「……俺と一緒に回るか?」
わ~~おっ。皆聞いた?
今、私に憎き目を向けていたあのレイが私を遊びに誘ってる……!? なにこれ、罠……?
夕日に照らされた街に、私とレイが向かい合っている。周囲の人々の動きがスローモーションに見えて、こういう時ってやけに子どもの声だけピックアップされて耳に響いてくる。
まるで運命的な瞬間……!
「やめとく」
私はにっこりと口角を上げた。
レイとなんかいい感じの雰囲気になんて絶対にさせない。私が阻止してやる。
まさか私が断って来るとは思いもしなかったのか、一瞬でその場の空気が崩れた。「あ?」とレイはすぐさま眉間に皺を寄せる。
「嬉しいお誘いをありがとう。……けど、私はひとりでブラブラするよ」
私はそのまま前を向き、再び歩き始めた。後ろからレイの叫び声が聞こえた。
「おい!! なんで、俺がフラれたみたいな感じになってんだよ!! 可哀想なお前を俺がしょうがなく声かけてやったんだ! つか、なんだよお前!!」
後ろからついて来るレイの言葉に私は思わずフフッと小さく笑ってしまった。
王子に連れられてきた時は、あんなに私と関わりたくなさそうだったのに~~。憎めないタイプの男ってレイみたいな人のことを言うんだと思う。
そんなに私と一緒にいたいなら、必死についてきなさい。
♢
「わ~~~!! 安宿だ~~!!」
私は明るい口調でそう言って、ベッドに頭から突っ込む。埃がブワッと部屋中に舞い、レイが咳き込む。今にも床が抜け落ちそうな軋む音が響く。
良い子は絶対真似しちゃダメだよ!! 宿の二階でベッドにダイブスタイル!!
「ここでそんなこと言うな」
レイは私を見下ろしながら、強い口調で注意する。
それはそう。こんな薄い壁だと、私たちの会話も隣の部屋に筒抜けだ。蹴とばせば、壁などすぐに壊せてしまう。
「じゃあ、俺は隣の部屋でくつろいでいるから、何かあったらいつでも呼んでくれ」
「……何かって?」
「え、あ~~、なんか助けが必要な時とか?」
レイは疑問形で答える。彼の視線は落ち着かず、どこか困った表情を浮かべていた。
この私に助けはいらないということをレイが一番知っているもんね。むしろ、助けを呼ぶのはレイの方かもしれない。
けれど、私はそれを口には出さずに違う言葉を発した。
「助けを呼べば、来てくれるの?」
「…………ああ、行くよ」
少し間があった後に、レイは私の目を真っすぐ見つめて口を開いた。




