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「その後、お前は一人で魔族を倒したんだろ?」
「うん、そうだね」
「あの精鋭部隊が全員かかっても倒せないほどの相手をお前ひとりでどうやって倒したんだ? そんな力があるのなら、囮作戦などしなくても良かったんじゃねえのか?」
責めるようなレイの口調に私は何も返さなかった。
ふと、思い出したのだ。あの時にいた部隊の者たちの名を……。
その中に、キール・ウッドという者がいた。
きっと、レイの兄だ。キールの身長は男性の平均な高さだったし、言葉遣いも柔らかだった。それに童顔のレイとは対照的な大人びた顔をしていたから、全く気付かなかった。……当時の私は十歳だから、そりゃ部隊の皆を大人びたと思うのは当たり前かもしれないけど。
キールの髪は栗毛だったが、ダークブラウンの瞳はレイと一緒だ。
ようやく、レイが私に対して抱いていた嫌悪と憎悪の正体を理解できた。私は、大切な兄を殺した女ってわけか。
「なぁ、黙ってないで、何か言えよ……!」
レイの口調が荒くなる。私はレイへと静かに視線を向けた。彼を見据えるように私は口を開いた。
「私は、あの戦いで死んだの」
「……は?」
「一度、死んだの」
私は顔を歪めるレイにもう一度そう言って、微笑んだ。
記録にも残されていないし、誰一人この事実は知らない。ジェフリーさえもね。
誰にも言うつもりはなかったのに、つい流れで口にしてしまった。今日の私は本当によく喋る。……きっと、どこかでレイに対してキールを感じているのかもしれない。気持ちが緩んでしまっているのかも。
私は理解が追い付いていないレイに説明を加えた。
「あまりにも未熟だった私は、魔族の魔法によって、命を落としたの。心臓を突き刺されてね」
私は左胸を指さしながら説明する。……が、レイはまだ私の話についてこれていないようだ。
「…………その時に神に会ったの」
私のその言葉にようやくレイの表情が僅かに反応した。
私が地面に一度倒れて、失った意識の中に神は現れた。……現れたっていうよりもあれは光だった。何かの姿で現れたわけじゃない。ただ、何もない雲の上のような空間に柔らかな光だけが存在していた。不思議な世界だった。
神は一方的に話をして、私を元の世界に戻した。
神に対して言いたいことは沢山あったのに、私の意見など一切聞いてもらえなかった。強制的に話を進められて、生き返った。
……今、思い出しても若干ムカつくもんね。神のお告げなんて本当に嫌になる。あんなの、権力の暴力だもん。
私は当時のことを振り返り、若干苛立ちながら、口を開いた。
「聖女に選ばれた私は『今』死ぬことは許されなかった。それだけの話」
「どういうことだ……?」
「本来なら、私も皆と同じ場所で死んでるの。ただ、私は人生の運命を自分で決めることはできなかった。神によって、決められたの。もはや、生命に対しての冒涜だよね?」
「…………でも、お前さっき、お前特別な力はないって」
「ないよ」
私はレイの言葉に被せるようにはっきりと言った。
特別な力はないけど、特別な運命は与えらえた。私は改めて、自分の状況に対して憂鬱な気持ちになる。




