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えっと、私たちが使う魔力と魔族が使う魔力の違いの話だったよね……。
コホンッと軽く咳ばらいをして、再度存在しない観客に向かって語り始める。
人間の魔力は世界を傷つけないけど、魔族の魔力は傷を刻む。どういうことかと言うと、魔族によって大地は焼かれ、空気は汚染され、水は濁り、草木は枯れる。つまり、生命の循環が崩壊しちゃうってこと。自然は滅び、それによって人間の世界は蝕まれる。
私たち人間は自然との調和っていうのを重んじている。内なる己の力と自然の力を融合させて使う魔法に比べて、魔族は外の精気を奪い取って魔法を使う。そりゃ、自然が滅んでいくわけだ! ってなる。
人間の魔力は良質で魔族の持つ魔力は悪質。……これはあくまで人間目線の話だけど。
魔族は人間界に侵入してきた結果、人の世界は削られ、秩序は乱れた。魔族による悪逆非道により、共存という道はすぐに閉ざされた。
そして、今も平和条約を結ぶことなく戦い続けている。長き戦いは大昔からずっっっと続いているのである。
魔族は決して人間と相容れることのない理解不能な存在と恐れられている。おしまい。
……いや、まだ話忘れてることがあるかも。
個人差はあるけど、魔族は常人を超える魔力と身体能力を備えていて、定期的に私たち人間を襲ってくるの。村や街の均衡を崩しに来るのを止めるために私たちは戦ってる。ちなみに、この国で一番安全な場所が王都ね。
魔族が現れて唯一良かったことと言えば、この世界の国同士が手を取り合ったってこと。隣国同士助け合おうって結託意識が強まった。
「ただいま」
ちょうどいい時にジェフリーが帰ってきた。
それでは観客の諸君、またいつか!
私はパチンっと片目を閉じて、またしても何もない場所にウインクをして一人語りを終えた。
「おかえり~~って、何その荷物!?」
ジェフリーを見るなり、私は目を丸くして声を上げる。ジェフリーは大きな茶色の紙袋を両手に抱えている。袋からはバケットがいくつかはみ出ている。
私が手伝う間もなく、ジェフリーは紙袋をテーブルに置き、順番に中身を出していく。さほど大きくないテーブルに食材がどんどん並んでいく。果物に野菜、肉に缶詰まで。
「なんか、沢山もらったんだ」
「……誰に?」
私は眉間を寄せながら、訝し気にジェフリーを見つめた。
どこのだれか分からない人からのプレゼントなんて危険だ。ましてや私は民に嫌われている。毒とか盛られている可能性も考慮したほうがいい。
「ブレナンさんから」
「ブレナンさん!」
私は明るい声でその名を呼び、安心する。
ブレナンさんというのは、私たちがいつもお世話になっているモッカト食堂の店主――ブレナン・モッカトだ。体型はやや肥満型、背は低く、赤毛のワイルドな髭が特徴的な優しい独身の中年男性。
なかなかの強面だけど、すっごく温かい人。私に対しても優しく接してくれる。
「でも、どうしてこんなにも?」
「たまたま街で会って、『食材を持ってくか?』って。新鮮じゃないから、もう店で使えないんだってさ」
よく見ると、確かに果物や野菜は若干痛んでいた。それでも、そこを除けばまだまだ食べれる。
「ブレナンさん~~!」
私はバナナを抱きしめながら、感謝のあまり叫んだ。ジェフリーは「それはブレナンさんじゃないよ」とバナナを私の腕から没収してキッチンに戻る。
……なんとも冷たき弟。
ジェフリーはエプロンをして、再びクリームシチューの最後の仕上げにとりかかった。
ああ、いい匂い!! この匂いだけで、空に羽ばたけそう。
ジェフリーは木材の丸みの帯びた底の深いお皿にクリームシチューを入れ、私の前に置いてくれる。大きなお皿にはまばらに切られたバケットが。
「どうぞ」
ジェフリーがそう言って、席に着いた瞬間、私はクリームシチューを口に運んだ。野菜の甘みが溶け込んだまろやかな味に頬が落ちそうだ。
「あ~~~、最高ッ」
「姉さんには作り甲斐があるよ」
私の反応にジェフリーはそう言って柔らかく微笑んだ。
どれだけ民衆に嫌われていたとしても、こうして弟と食卓を囲むことができるのなら幸せだ。
ハッピーマイライフ!




