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「明日も早いし、もう寝よう」
定型文みたいな言葉を発して、私は火を起こした元へと速足で戻った。
訓練していたところ、見られていないよね? 見られたら、どさくさに紛れて息の根を……。
「魔法の特訓か?」
止めよう!!!
後ろからついて来ていたレイの方を振り返り、「見てたの?」と口元だけ笑みを作って聞いた。レイは口を閉ざし、何も答えない。その反応だけで大体分かる。
私は小さく息を吐いて、彼を無視して足を進めた。最初に腰を下ろした場所へと座り込んだ。木の幹に背をつけて、目を瞑る。
こういうのは、寝たもの勝ち……!
気まずくなったら、寝たふりをしておくのがいい。なにも聞かれないし、なにも答えなくていい。
少し離れた場所で、レイが腰を下ろすのが分かった。
……寝たふりをしているといえども、なんか緊張感漂う。静寂の中で、パチパチと炎の音だけが響く。
こういう寝たふりをしている時って、呼吸の仕方忘れちゃうんだよね……。途中でうまくできなくなるというか、わざとらしくなるというか……。鼻息多めじゃないと、嘘寝ってバレちゃうし……。
「…………お前さ」
私が必死に熟睡を演じようとしていると、レイが口を開いた。
このタイミングで話しかけてくることってあるんだ……。私は思わず「なに」と目を瞑ったまま答えてしまう。
「嫌にならねえの?」
「……何が?」
「毎日コソコソと訓練してるけど、ずっと失敗しぱなっしじゃねえか」
「そりゃ、私は失敗作の聖女だからねぇ」
私は皮肉を込めて返す。
てか、バレてるってことは、毎日後をつけられていたんだ……。気が緩んでいたのかな、全く気付かなかった。人の気配を察知する能力には自信があるのに。
何も言い返してこないレイが気になり、私は目を開けて彼の方を見た。レイは眉間に深く皺を寄せて、険しい表情で俯いていた。
…………どんな感情なのよ、それは。
あ~あ、私の寝たふり大作戦は失敗しちゃった。
「できるか分からないことにずっと挑戦し続けてるって馬鹿に見えるでしょ」
私は自分から話を続けた。レイは私の方へと視線を向けた。彼は何も言葉を発さない。
「成功があるって確かじゃないのに、突き進んでるんだよ? とんでもないよね~~、道のり長すぎて嫌になっちゃう」
ほとんど私の独り言だ。……だけど、それでいい。別にレイのことを根掘り葉掘り聞いているわけじゃない。
レイは少し間を置いて、口を開いた。
「聖女としての意識はねえんじゃないのかよ」
「ないよ」
私は静かに答える。いつも通り、緩く軽い口調と表情で。「だけど」と私は話を続けた。
「抗えない運命だと知ってるよ」
「は?」
顔を顰めるレイに私は口角を上げる。
「私はね、クソみたいな運命を与えらえたんだよ。神託になんか従いたくない。世界なんて救いたくない。私にそんな気高い志なんてない。こうして魔族や魔物を討伐しているのは、任務を与えられているから。わざわざ世界のために自発的に動いたりなんかしない。……けど、分かってるから。私が「聖女」ってことは嫌でも知ってるから。ちゃんと分かった上で、私は聖女としての自覚を持たないでいるの。…………だからさ、もう私に期待しないで」
自分でも言っていることは無茶苦茶だなって思う。けど、私はきっと「聖女」と思われることに疲弊している。
どうか、神が私に愛想を尽かして、別の者を聖女にする日が来ますように。……そんなの無理だろうけど、私は願ってる。
「じゃあ、どうしてお前はそれほど努力をしてんだよ。なんでその姿をもっと周りに見せないんだよ。分かんねえだろ」
私を責めるというより、自分自身を責めるような口調でレイは話す。私は黙って、彼の話を聞いた。
「……今まで何も知らずにずっとお前のことを非難してきた俺が恥ずかしいじゃねえかよ。ジェフリーの言ってた通り、お前の戦闘能力の全てが先天的なものではなく、命を削って得たものだということが近くでサポートして初めて分かる。洗練されていて非の打ち所がない完璧さに、傍から見れば『聖女だから、特別だ』と思われるのが分かった。……なんで言わねえんだよ。周りの非難に反論したって」
「みんながそうさせたんでしょ?」
私は静かにレイの言葉を遮った。レイは目を丸くして、私をじっと見つめる。




