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ケイトが早く眠った後に、ジェフリーとレイが家の外で夜風を浴びながらを立ち話をていた。
「今日は悪かった……」
レイが小さな声でジェフリーに対して謝った。ジェフリーは何も答えない。暫く沈黙が続く。怒りに任せて酷いことを言いすぎたという自覚はレイにあるようだった。
ジェフリーとレイはかつて同じ騎士団に所属していたのだ。
「いつまでも被害者ぶるな」
ようやく発されたジェフリーの言葉にレイは片眉をピクッと僅かに動かす。レイは「は?」とジェフリーを睨む。だが、ジェフリーはそんなレイを無視して話を続けた。
「お前だけが苦しい思いをしていると思っているのか?」
鋭い視線がジェフリーからレイに向けられた。言葉は静かだったが、その瞳には冷たく、怒りが潜んでいた。その殺意にレイは固まってしまう。
ジェフリーは重い口調でゆっくりと記憶を掘り起こすように話を始めた。
「姉が初めて戦場に足を運んだ日を僕は今でも鮮明に覚えている。……僕は当時六歳で、恐ろしい敵を倒しに行った姉の無事を祈りながら家でずっと待っていた。そして、無事に帰ってきた。血まみれでね。びっくりしたし、怖かったけど、姉が戻ってきてくれたことが何よりも嬉しかった。……姉はうつろな目でボーッとしていて、僕が『おかえり』と飛びついても無反応だった。何があったのかと問い詰めると、姉は『私のせいだ』とその場に崩れ落ちた。……家に帰ってきた安心感でも、ずっと張り詰めていた緊張が解けたわけでもない。己の無力感と仲間を捨てた罪悪感が姉の心を苦しめたんだ」
「……苦しむ? あいつの判断のせいで」
「レイはあの日の出来事をなによりも知っているだろう? あの日、お前たちが言う『仲間を見殺し』にしなかったら、確実に負けていた。この国が魔族によって滅んでいたんだ」
レイの言葉に被せるようにジェフリーは強く声を発した。ジェフリーにしては、今夜はかなり口数が多い。それほど、感情が高ぶっているということだ。
いつもなら、ケイトが無視している悪口を自分も無視していた。ジェフリーが過去にケイトに対しての悪口に反発しようとすると、ケイトがそれを止めた。「私は聖女だから」と。
こういう時だけ、聖女としての立場を受け入れるケイトにジェフリーはひどく心を締め付けられた。
ジェフリーはかつてのケイトの言葉を思い出しながら、話を続けた。
「皆、主観だけで被害を捉える。今、こうして生活できていることは当たり前で、騎士たちが戦場で死んだのは異例だと嘆く。……そうじゃない。魔族の奴隷として人生を送っていたかもしれない。もしかしたら、魔族に命を奪われていたかもしれない。…………姉は、遺族の抱えきれない悲しみや怒りをぶつける相手じゃない。責めるべきは魔族だ」
「……………………あの女が戦場で笑ってたって。初めての戦場を楽しんでいたって」
「お前は見たのか?」
「え?」
「姉が泣いているところを見たのか?」
ジェフリーは容赦なくレイを睨みつける。その様子にレイは目を逸らして「いや」と弱々しい声で答えた。




