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聖女は世界を救わない  作者: 大木戸 いずみ


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「なんだ?」

「私に預かってほしい人? が、もし依頼中に命を落とした場合は責任はとりません」


 私は面と向かってはっきりとそう言った。

 一国の王子がただの平民である私に人を預けるんだもの。その人が命を落とせば、私は大罪人となる。……それはすごく困る。

 陰で人々に「優しくない聖女」などと悪口を言われていることはまだいいんだけど、自分の命を奪われるとなるのは話が大きく変わってくる。


「分かった。そいつが死んでも責任は負わなくていい。……これで、交渉成立か?」


 王子はそう言って、私に手を差し出す。満面の笑みで「はい」と答えて、私は王子と握手を交わした。

 エワット特別自治区の構造や制度について知るチャンスがこんなにも早く手に入るとは思わなかったわ! ……まぁ、まだ依頼を終わらせてないんだけどね。

 この依頼を受けながら、より一層強くなれるように自分の腕を磨いておかなければならない。私とミレッタの力が互角だったということは、彼女より強い魔族には負けちゃう可能性があるということ。

 負けるのだけはぜっっっったいに嫌だもの。

 もっと強くならないと……! 

 私はメラメラと心を燃やしながら、この任務に対しての決心を固めた。



「こいつだ」


 王子が家を出たのと共に、その人は紹介された。見送りに玄関前に立つ私とジェフリーは目の前に現れた男性へと視線を向ける。セナと共に王子を待っていたようだ。隣でセスが穏やかに笑みを浮かべながら軽く私たちに一礼する。

 成人男性……、にしては、私より少し背が高いぐらい。……身長が低く、華奢な身体。

 私たちは彼のことをじろじろと見つめる。

 愛想が…………悪い!! ものすごく悪い! というか睨まれている。隣に立っているセナとは正反対だもん。空気感が違いすぎて、全然違う物語をくっつけちゃったみたいになってる。

 私を睨む男性は随分と可愛らしい顔をしているのに、表情は全然可愛くない。私を憎んでいるような凄まじい形相だ。ダークブラウンの瞳に茶色い柔らかな髪質に右目の下にはほくろがある。

 ジェフリーが「彼は……」と少し目を見開く。私は彼のその様子に「知っているの?」と小さな声で聞いた。ジェフリーが頷いたのと同時に、男性は口を開いた。


「お前がクソ聖女様か」


 うそ~~~~。こんな口悪い人と一緒に依頼に行けって言うの~~!?

 私は顔を引いて、眉をひそめる。明らかに私に対しての敵意を感じた。

 高貴な王子様が「預かってほしい」って言うものだから、もっと上品な人が来るのかと思ってたのに、まさかのクソガキだったなんて。


「口に気をつけろ」


 代わりに王子が男性に注意をしてくれる。男性は「申し訳ございません」と小さな声で謝る。

 私も怒ったの方がいいのだろうけど、特に腹は立たないんだよね。いつも通りの国民の反応って感じ。


「やっぱり、預からないってことは……」

「交渉は成立したはずだが?」


 私が王子の方へと視線を向けると、強い口調で返された。

 ……何かあると思っていたけれど、こういうことだったのね。私にヘイトを向けている人間だと言えるわけないもんね。

 王子にはめられた気がする……。

 私は小さくため息をつきながら「このガキの面倒を見ないといけないってこと?」とボソッと呟いた。


「クソガキって、こいつお前よりも年上だぞ?」

「え……?」

「二十八歳」


 私を睨み続ける男性を親指で指さしながら、王子が代わりに答える。

 にじゅうはっさい……? 嘘……、見えない。……いや、私もなんだけど。童顔同士仲良くしていこうねってこと? 全然嬉しくない共通点……! 

 王子はこの雰囲気と顔立ちで年下だったし。この国はおかしいよ。私の感覚が麻痺しちゃいそう。


「クソガキはてめぇだろ。お前が聖女としての自覚を持たないせいでどれほどの人間が苦しんでいると思ってるんだ? 世の中の不安を煽って楽しいか? この国に対しての愛国心を持たない馬鹿な女。お前は期待外れのゴミなんだよ」


 …………は? 

 依頼中に殺してやろうかしら。事故死ってことで隠蔽してやるわよ。何なら、今殺してやるわよ。

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― 新着の感想 ―
国が聖女の悪評を放置しているのって、実は責任を押し付けるために、画策してるんじゃないかという気がして来ました。 もしくは、意図的に孤立させようとしているとか
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