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聖女は世界を救わない  作者: 大木戸 いずみ


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3

「ん~~~~! いい匂い!!」

 

 食欲を刺激するクリーミーな匂いが部屋中に漂う。

 ジェフリーの作る野菜たっぷりのクリームシチューはこの世で一番おいしい。

 私たちは兄妹二人で街はずれの丘の上にある簡素な家で静かに暮らしている。……家の中はうるさいけどね。

 木材で造られたこじんまりとした住まいだ。すごく住み心地のいい家。私もジェフリーも気に入っている。

 世で言う「あったかい家」って感じ。


「姉さん、そんな涎垂らして、キラキラした目で見てこないで。料理しにくい」

 

 エプロンをしたジェフリーは迷惑そうに眉をひそめて、私を見る。

 

「ジェフリーのクリームシチューが楽しみなの! それに、出獄してから初めてご飯よ?」

「……たった数時間しか牢に入っていなかったでしょ。それに、昨日も僕が作ったご飯食べてたし。もう少しでできるから、ちょっと待ってて」


 まるで子どもをあやすような話し方でジェフリーはお鍋の中を再びかき混ぜる。

 私は「は~い」と言いながら、テーブルに顔を付けて空腹に耐える。ぐぅぅぅぅっと大きなお腹の音が鳴り、私は無心になることにした。


 クリームシチューを食べるまでの時間、この世界のことを知らない人たち向けにこの世界のことを話しておくね。

 私は視線を上げて、あたかも観客がいるかのように何もない空間にウインクをして、心の中で語り始める。

 それでは、楽しんで話しますので、頑張って聞いてください。

 私たちの敵は魔族。魔族っていうのは魔界の住人のこと。そして、はるか昔、人間界と魔界を隔てている境界線に亀裂が入り、その裂け目から魔族が人間界へと侵入してきたのです。

 魔族は基本的には不老不死であり、容姿が整ったものが多い。私たちと同じ魔法を使うけれど、魔力の種類が違うのです。そもそも、私たち人間界には魔力を持たない者も存在する。しかし、魔族に魔力を持たない者は存在しない。

 ここで魔族と我々の魔力の種類が違うことに関して説明するね。


「あ、パンが腐ってる……。ちょっと買いに行ってくる」

 

 突然のジェフリーの言葉によって、私の思考は一時的に中断される。

 説明のいいところで……!! くぅ!! 

 ジェフリーはエプロンを脱ぎ、家を出る準備を始めながら、私に声を掛ける。


「姉さん、他に何か欲しいものある?」

「巨大ビール」

「……じゃあ、行ってくるよ」


 ジェフリーは私の要望を笑顔で無視して、買い物に出かけた。

 外でビールを飲むとなったら、面倒くさいんだよね。必ず年齢を確認されるから。どこのお店でも必ず「子どもには提供していない」とか「まだお嬢ちゃんには早い」とか言われてしまう。

 身分証を提示して、驚かれる……っていう繰り返し。常連になっている店は別だけど、それでもたまに新しいスタッフには勘違いされる。

 ジェフリーは身分証を提示しなくてもビールを飲めるっていうのに……。

 この容姿で得していることは今のところない!

 

 ……と、こんな話は今はいい。

 皆お待ちかね、この世界についての話の続きをしよう。

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