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「……本当になんでもいいんですか?」
「ああ、もちろん」
「じゃあ、エワット特別自治区へ入る許可をください」
私の言葉に王子は爽やな笑みが消えた。ジェフリーも眉間に皺を寄せた。
エワット特別自治区、かつて存在した小国のルメア国の難民が逃げ込んだ場所。私が生まれる前に滅んだみたいだから、なぜ滅んだのかという詳しいことはあまり知らない。ただ、ルメア国は地図から消えた。
生き残った国民たちは行き場をなくし、各国へと逃げた。もちろんメグナドル国にも。
彼らは「難民」ととして保護されるはずだったけれど、実際は違った。人権のない場所と言われている隔離された。それがエワット特別自治区。
周りは高い壁で囲まれていて、私たちが中の様子を知ることは一切ない。一般人は入域禁止なのよね。
謎に包まれた特別自治区がずっとメグナドル国には存在しているの。そこだけ、治安が極端に不安定とか、感染症が流行っているとか色々と言われているけれど、ただの噂。実際は誰も足を踏み入れたことはない。まさに巨大なミステリーボックス!
……という場所に私は行きたいわけ!
知らないことを知りたいと思う好奇心っていうのは大切でしょ?
「本気で言っているのか?」
「はい、めちゃくちゃ本気です」
私はまっすぐ王子の目を見つめ返す。
財や地位よりもエワット特別自治区の中に入るということは、私にとってよっぽど価値がある。
ちなみに、エワットっていうのは、ルメア国の難民のこと。私たちは彼らを「エワット」って呼んでいる。そこからエワット特別自治区という名になったらしい。
「好奇心が身を滅ぼすことになるぞ?」
「エワットに私より強い者なんているんですか?」
私は強気で言い返す。
たとえ、特別自治区に一人で乗り込んだとしても、人間相手なら勝てる。負ける気がしない。ワンパンチで勝負ありだよ。……エワットについて詳しいわけじゃないけど。
「分かった」
「え?」
「エワット特別自治区入域許可をお前にやる。だから、この依頼を受けろ。……ああ、後、エワットについて詳しく知らないだろ。勉強してから行け」
てっきり断られるものだと思っていた。エワット特別自治区は、騎士ですら入ることを許されていない場所なのに……。
私が言うのもなんだけど、そんなあっさり許可しちゃっていいの?
エワット特別自治区には、監査員がいる。この国で彼らだけがエワット特別自治区を行き来できる。その監査員の人数はたったの十数名。騎士とはまた違うエリートたち。
そんな超特別なところなのに、軽く承認されちゃったよ、私。……まだ依頼をこなしてないけど。
「てか、勉強って言っても、エワットについての書物なんて巷に出ていないじゃないですか……」
私はふと思い出して、王子にそう返した。
私たち平民はエワットについては滅んだ国の人たちという印象しか抱いていない。彼らの外見や文化、国が滅んだ経緯にさえ興味を抱いていない。エワット特別自治区は昔から「そういうもの」としてこの国に存在する。街に店があるっていうのと同じ感覚に近いかも。
……逆に私たちにそれぐらい無関心でいれるようにしてきた国が凄いのかも。
「王家秘蔵書庫の見学の許可も与えてやろう」
「へ!?」
あまりにも予想外の言葉に私は思わず目を見開いたまま、失礼な返答をしてしまう。ジェフリーも「王家秘蔵書庫……」と目を丸くして呟く。
王家秘蔵書庫に入れるの!? 私ってば、なんてついているの!! この書類の依頼を全て片付けちゃえば、王家秘蔵書庫に入れちゃうなんて……!! スーパーラッキー!!
…………いや、ダメだろ。ラッキーって陽気に言ってる場合じゃないよ。
王宮の地図にすら記されていない、王族しか入れないとこだよ?
私を入れるなんて、ダメ、絶対。有頂天になって、理性を失うところだったよ。良かった、私にまだ冷静さが残っていて。
「私なんかを国家の超機密情報が溢れている場所に放り込むのは危険です。何をお考えになっているのですか?」
「…………なんで俺が怒られているんだ?」
王子は私からジェフリーへと視線を逸らし、不思議そうに尋ねる。ジェフリーは「僕も反対です」と口を開く。
私はジェフリーの言葉に乗っかって、首を大きく縦に振る。




