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聖女は世界を救わない  作者: 大木戸 いずみ


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「魔族の力はどんどん強まってきているんですよね?」


 ジェフリーが王子にそう質問して、赤子から話を元に戻す。


「ああ、そうだ。……というわけで、これらの依頼を引き受けてくれないか」


 どこからかドンっと机の上に分厚い書類が現れた。王子の魔法だろう。

 ……なにこれ。なんか嫌な予感する。

 私はじっと何が書かれているのか覗き込む。「ひょえ」と思わず間抜けな言葉が出てしまう。

 魔族または魔物の討伐遠征についてじゃん……。これを全て引き受けろって? 鬼畜過ぎない?


「嫌です」

 

 私は一呼吸置いて、ニコッと微笑む。

 王族相手に何度「嫌です」を言えばいいのよ~~。反抗しすぎで、そろそろ牢獄飛ばして、いきなり処刑台に立つなんて日が来る気がしてくる。……それでも、意見を変えるつもりはないけど。


「そう言うと思った」


 私の返答に王子も笑みを浮かべる。

 チェッ、読まれてた。ジェフリーはいつもの私の様子に慣れているのか、もう何も割り込んでこない。


「褒美は? なんでも言え。ほしいものをなんでもやろう。金か? 宝石か? それとも領土か? 権力だっていい。良い身分をお前に」

「そんなものいりませんよ」


 あ、また「そんなもの」なんて言ってしまった。しまったしまった、ついうっかり。私は心の中で、コツンッと自分の頭を軽く叩いて舌を出す。

 私にとっては「そんなもの」なんだもん。お金があっても、今の暮らしに満足しているし、兵の私が着飾ることもない。宝石は邪魔になるし、身に着けることはない。領土は増えれば、面倒だ。権力なんてもっといらない。


「ほぅ、全部興味ないか。難しいな。父が苦労しているのも分かる」

「もしかして、私に世界を救ってもらおうなんて思ってます?」

「いや、違う。ただ、お前の実力を知りたいだけだ。これほどの依頼をどれぐらいの期間でこなすのか」

「こんな量の仕事は受けません。ミレッタ倒したことで、一ヶ月分ぐらいの仕事をしました。聖女は休みます。ジェフリー、聖女休暇中って看板を家の前に出しておくよ」


 ジェフリーは私の言葉を綺麗に無視する。この憎き弟め!

 王子は私を不思議そうに見つめながら質問する。

 

「お前、休みはなにをするんだ? ……てか、魔族討伐以外にお前に趣味とかあるのか?」

「秘密です」


 私はまた笑顔を王子に向ける。

 そろそろ私の態度に怒って、帰ってくれないかな……って思っているのに、私の煽りは王子には一切効いていないみたい。魔族よりも攻略が難しいってどういうことよ。

 平民の私から高貴な王子に「帰ってください」って言うわけにはいかないし。てか、そもそもどうして王子がこんな場所にいるのよ~~。分不相応! ……いや、王子に対して使うのはおかしいか。


「褒美は何がいいんだ?」


 王子は真剣な口調で再び私にそう聞いた。彼の真っすぐな瞳が私を捉える。

 逃がしてくれないような視線で見られるのはあまり好きじゃない。

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― 新着の感想 ―
どんな褒美であろうと、命と引き換えにできるものなどありません。 魔族に抗するための戦力を準備できず、小さな聖女に責任を担わせるのは、たとえそうせざるを得ないとしても、残酷なことに違いありません。
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