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「そろそろ本題に入りましょう」
王子の笑いも止まり、ひと段落したところでジェフリーが口を開いた。王子は私へと視線を移した。神秘的な赤い瞳と目が合う。
「よく戻ってきた。ご苦労だった。報告書によると、かなりの上位魔族だったそうだな。暫くはあのレベルの魔族は暫く現れることはないだろう。……が、警戒を怠ることはないように」
「中位魔族だと思いますよ」
私は静かに王子の言葉を否定する。王子は「え?」と固まったまま私を見る。
「私と戦ったあの魔族――ミレッタよりも、もっと強い魔族はうじゃうじゃと魔界にはいます」
確かにミレッタは相当強かった。私がぶっ倒れるほどなんだから。……けれど、彼女は魔界の中ではまだ下っ端だろう。
…………もっと、私が強くならないといけない。ミレッタと同等では、魔界ではすぐに殺されてしまう。
「なぜ分かる?」
「上位魔族の殺気は隣村の人間をも立てなくするほどです。ミレッタは確かに今までの魔族とは違って、少し特殊でしたが…………、上位魔族とはいえません」
私は上位魔族の殺気を知っている。一度だけ経験した。幼い頃に、ジェフリーを連れて森の中で隠れていた時だ。……動けなかった。恐怖で指ひとつ動かすことができなかった。
あの殺気に触れて、私たち人間は魔族に負けるんだ、と思ったのを今でも覚えている。
まぁ、なんとか逃げ切ったんだけどね。私とジェフリーだけ。
「お前が言うのなら、そうなのだろう」
王子はそれ以上私に何も追及してこなかった。
意外と空気読める王子で助かったぜっ。私は心の中で王子にウインクを飛ばしておく。
「あ! 赤ちゃん!!」
私はハッとミレッタから奪った赤子のことを思い出す。すっかり失念してしまっていた。
私の大きな声にジェフリーが顔を顰めた。
「え、姉さん、まさか子どもいたの?」
「んなアホな」
私は即座に返答する。
もし仮に私に子どもがいて気付かなかったのなら、ジェフリーの鈍感さに頭を抱えるわよ。一緒に住んでいたら隠しきれないでしょ。
「ポジー村の唯一の生き残りの赤子だ。どうだ? お前が育てるか?」
「無理です。弱い奴は嫌いなので」
「理由、酷ッ」
私の隣でジェフリーは蔑むような目を向ける。
気軽に戦場に行けなくなっちゃう。赤ちゃんを世話している暇なんてないもん。
「実はな、シャーロットが育てたいと言っている」
「シャーロット団長が!?」
私の驚きの声に「ああ」と王子は静かに頷く。ジェフリーも目を丸くしていた。
まさか彼女が赤子を引き取るとは思ってもみなかった。そもそも赤子と関わっているイメージが一切ない。優しい人よりも厳しい人の印象しかない。
シャーロットの怖い顔で赤ちゃんが泣くでしょ、絶対。……けど、良い母になりそう。
「不満か?」
「……いえ、その、シャーロット団長なら安心です」
シャーロットの母の姿が想像できなくて戸惑ったけど、王子に返した言葉は本心だった。
一体どんな子に育つのやら……。
シャーロットには似ませんように……! 私と仲良くできる子でありますように……! 愛嬌たっぷりでありますように……!
私は心の中でそう願っておいた。




