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私が食卓へと現れたのと同時に「ぐうぅぅぅぅ」と盛大にお腹の音が鳴った。
……王子の前だよ、静かにしておきなさい! 空気が読めない腹ね!
ジェフリーと王子は二人とも目をぱちくりさせながら私を見る。私は恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かった。
しょうがないじゃない、何も食べてないんだから! 必死に戦った後、気絶してたんだから!
「姉さんのアップルパイ作っておいたよ」
少し笑いながらジェフリーは席を立ち、キッチンへと向かう。大きな皿にかかっていた白い麻布を取ると、美しいアップルパイが現れる。
アップルパイ…………! 私はあんたが見たくて、頑張って帰ってこれたんだよ。
私は王子がいることをすっかり忘れて、アップルパイに気を取られる。ジェフリーの切るアップルパイをじっと見つめながら、まだかまだかと小さな皿に移されるのを待っていた。
魔族との戦いから帰ってきた時は必ずアップルパイと決まっている。
「はいどうぞ」
ジェフリーはフォークと共に私に一切れの大きなアップルパイを渡す。
甘いリンゴの香りがふわっと漂う。……ああ、幸せ!!
「アップルパイを拝む前に、席について。殿下がいらっしゃるんだよ」
「あ、ごめん」
私はアップルパイのお皿を両手でしっかりとホールドして、急いで席に着いた。ジェフリーの隣に座る。前には輝きオーラを放っているハンサム王子。
「俺よりもアップルパイの方が惹かれるのか」
「はい、それはもちろん」
そう言った瞬間、頭の後ろをパチーンっと凄まじい勢いで叩かれた。ジェフリーが「すみません、まだ姉は夢の中にいるみたいで」と付け足す。
「ちょっと、ジェフリー」
「そうだよね? 姉さん」
私が反論しようとすると、ジェフリーの凄まじい圧で制される。「はい」としか言わせない空気じゃん。恐怖政治だよ……!?
「ね?」
ジェフリーの追い打ちの圧に負けて、私は縮こまって答える。
「はい。まだ夢の中でした。アップルパイより殿下の方が魅力的です」
私は一体何を言わされてるんだ……。
少しの間沈黙が流れ、王子は目を丸くして私を見つめる。ジェフリーは無表情で、私はしゅんとしている。そして、すぐに王子は声を上げて笑った。彼の明るい笑い声が部屋に響く。
私もジェフリーも驚きながら、楽しそうに笑う王子を黙ったまま見つめた。
……めっちゃ笑われている。心の底から笑われている。
王子の無邪気な姿を眺めながら、美形の破顔っていくらでも見れるなと思っていた。正直、アップルパイよりも見ていられる。
私は王子の顔から目を逸らさず、アップルパイをフォークで一口サイズに切って、口に運ぶ。
さくっとしたパイ生地に林檎とバターが溶け合い、とろりと口の中で甘酸っぱさが広がる。舌に残るシナモンも最高!
「ちょっと、今、アップルパイ食べるとこ……?」
ジェフリーは眉をひそめながら私を見る。
「いつも通り絶品アップルパイだよ」
私は親指をグッと立てて、ニコッと笑う。その様子にさらに王子が笑った。
え~~~、王子のツボが分からないよ~~。変な王子。
私はもう王子のことなど気にせずに、パクパクとアップルパイを平らげた。ジェフリーはもうどこか諦めた様子で「美味しかったなら良かったよ」とため息をついていた。




