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お互い空高く宙に浮いたまま、睨み合う。私は静かに口を開いた。
「聖女にそんな力はないよ」
「……心の弱い部分がないのか?」
ミレッタは目を丸くする。私は「そうかも」と微笑み、『ソード』と呟いた。私専用の大きな剣が手に現れる。ミレッタに構えるようにして、両手で握る。
メグナドル国では魔法に特化した人か剣術に特化した人の二つのパターンに分かれる。私はどっちも頂点の目指した女である。つまり、よく頑張った……! ということ。
もちろん、どっちの才もあったっていうのは先天性なものだけど、才は磨かないと輝かない。私は必死に磨いて、ようやくここまできた。……問題が多すぎて出世は全くできていないんだけどね。えへ。
「村人たちはすぐに闇に堕ちたというのに……。私の囁きで何も信じられなくなり、心は沈み、村からは笑いが消えた。人の自己否定の先にあるものは絶望。それが一番美味しい。……貴女ほどの人間を絶望させることができれば、絶品でしょうね」
「……やっぱり悪趣味」
私は小さくそう返して、思い切り剣を振りかざした。私の攻撃を避けることのできる彼女のスピードに「やるじゃん」と声を発する。
次から次へと急所を狙い、距離を詰めるが、攻撃を受け流される。ミレッタから攻撃してくることはない。彼女の攻撃の分野は心理的なものだ。私に一切効かないと分かったからこそ、再び仕掛けてくることはない。
……ミレッタとの勝負、私が圧倒的に有利なはずなのに、なかなか埒が明かない。
「あ、いいもの見っけ」
彼女は嬉しそうな声を発して、凄まじいスピードで地面に向かった。
……何!?
私は上空から彼女の様子を観察する。彼女は地面に倒れ込み、生きる気力すらも失った騎士をキラキラとした目で見つめている。
待って、まさか……!!
「あ~~ん」
彼女はそう言って、突如騎士を食べ始めた。あまりにも想定していなかった出来事に、私は目を見開いたまま固まってその様子を眺めていた。背筋に悪寒が走り、全身に鳥肌が立つ。
……なによ、あれ。
ミレッタは顎を外し、信じられにほど口を大きく開けて、ゆっくりと人を丸のみする。その気味の悪い姿は紛れもなく魔族だった。
……だから、どの家にも血痕が全くなかったんだ。
絶望しきった騎士は悲鳴を上げることなく、上半身がミレッタの体の中に入っていく、残りは下半身だけとなった。
ミレッタたちの近くにいた騎士の一人が「うえぇぇぇぇ」とその場に吐く。
…………彼って、確か私と道中で喧嘩した男じゃない? ……ジェイ!
どうやら彼はまだミレッタからの囁きを受けていなかったみたい。ジェイは私の方へと視線を上げて、大声を出す。
「おい!! 見てないで助けろよ! 聖女だろ!? やっぱり、仲間を見殺しにする噂は本当だったんだな!!」
ずっと伏せて隠れていた男が何を言ってきているの。目の前にいるんだから、あんたが助けなさいよ。この小心者。
そう心の中で言うだけで、口には出さない。
私はジェイを上から思い切り睨みつけて『大地よ、奴を覆い潰せ』と唱えた。その瞬間、ミレッタが立っている地面がガタガタと揺れる。もう既に足首まで喰われた騎士は助からない。かなりの早食いだった。
一瞬にして、ミレッタの周囲の地面から、彼女を囲むように土壁が現れる。そして、彼女を頭のてっぺんまで覆い隠し、そのまま勢いよく、土壁の中にいるミレッタを押し潰す。
まだ、気を抜いちゃいけない……!
私は瞬時に地面に下りて、クラッシュされるのと同時に土壁の中にいるミレッタに刃先を向けて、思い切り剣を刺し込んだ。




