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「ふぎゃあぁぁぁぁ」という大声が村全体に響き渡る。
…………この馬鹿魔族!
私はここの中でそう叫びながら、地面にしゃがみ込み足に魔力を溜めて、その反動で落ちていく赤子の元へと飛んだ。瞬時にキャッチして、赤子を胸に抱き寄せる。宙で一度、くるりと身を翻し、衝撃を防ぐために膝を沈めて着地をする。
我ながらお見事!
誰も褒めてくれないから、自画自賛ぐらいは許してよね。
…………本物の赤ちゃんだぁ。
初めて赤ちゃんを抱いた。小さく軽い体に驚く。それに、柔らかい。
赤子は私を見るなり泣き止んで、きょとんとした表情で私を見ている。ベージュのふわふわとした髪に、つぶらな藍色の瞳。まさか戦場で赤ちゃんを抱くことになるなんて……。
「赤ちゃんに気を取られている場合じゃないわよ!」
ミレッタは青色の巨大な魔力で私に攻撃を仕掛けてくる。「危ない!」と男性騎士の声が聞こえてくる。こっちに飛んでくる青い光へと視線を向けて「こんなもので私に勝てると思わないで」と呟く。
手をミレッタの攻撃の方へと掲げて、魔力を相殺した。
この国で最強の魔法レベルをなめてもらっては困る。神に聖女として選ばれた身よ?
「は?」
ミレッタは目を丸くする。まさか自分の攻撃がいとも簡単に防がれるとは思わなかったのだろう。
「貴女、私が誰か分かってないの?」
「…………その青緑瞳の色に黒髪。まさか、お前が聖女か?」
「そうだよ」
私はミレッタを見上げながら微笑んだ。
「…………こんなちんちくりんが? 次々と魔族を倒したと言うのか?」
ちょっと、失礼ね!
私の腕の中で赤子が「あっ……う……」と私の方に手を伸ばして楽しそうな表情を浮かべている。
こんな戦場で一番呑気なんじゃないかしら、この子。
私は近くにいた騎士に「この子をお願い」と預ける。騎士は戸惑いながらも「ああ」と赤子を受け取った。
よし! これで、なにも気にせずに魔族を倒せる。
「お前だけを相手すると思うな」
ミレッタがそう言ったのと同時に私は全員に「なにも聞いちゃダメ!」と叫んだ。しかし、もう遅かった。『能無し』『足手まとい』『お前に何ができる?』という言葉が、あちこちから聞こえてくる。
シャーロット団長の方へと視線を向ける。『誰もお前を女として見てない』と微かに聞こえた。私は咄嗟にミレッタのところまで飛んで、彼女の頭に蹴りを入れようとするがかわされる。
視線を下へ移すと、騎士たちが「あああぁぁぁ」と頭を抱えて、膝をついている様子が目に入った。まだ何人かは彼女の囁きの被害には遭っていない。ショートカットの女性騎士も「しっかりして!」と周囲に呼びかけていた。
…………赤ちゃん!!
私は急いで赤子を確認する。騎士が瓦礫の影に赤子を抱えて、隠れているのが見えた。それと共にホットと胸を撫でおろす。
…………良かった。ナイス騎士。
「やっぱり、ちゃんと効くはずよね。貴女が異常だっただけで。これも聖女の力なのかしら?」
ミレッタは私の方を振り向いた。




