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「ない、かも……」
そんなことよりも肩の方が痛い。肩をゆっくりと治癒する時間がほしいよ。
私が肩に意識を持っていかれていると、再び耳元で悪魔の低い囁きが聞こえた。『心のない空っぽの子、仲間を捨てるなんて。この人殺し』、『血で汚れた手、触らないで。汚らわしい』、『あんたが生き残ったって、誰も祝わない』と、さっきと違い、連続で囁かれている。
…………しかし、何も変わらない。
え~~~、魔族が「これはどうだ」ってドヤ顔を浮かべちゃってるよ。これは乗っておいた方がいいのかな? ……いや、魔族に対してそんな配慮必要ないか。
「ああ~~、心が、く、苦しい。『傷を癒せ』」
心を苦しんでいる演技をしながら、私はどさくさに紛れて肩に治癒魔法をかける。……しかし、これもうまくいかない。
その1:魔族は「もう少しましな演技しろよ、この大根役者! つか、さりげなく詠唱するな!」と顔を顰める。
その2:なぜかこの傷には魔法が効かない。
「どうして魔法が効かないの?」
「私の牙は特別なのよ。言ったでしょ? 他の馬鹿な魔族と一緒にするなって。治癒魔法で簡単に治ったりしないのよ。…………てか、本当に何も効いてないの?」
最後に魔族は怪訝な表情で私をじっと見つめる。私は「うん」と勢いよく頷いた。魔族は暫く考え込んで、何か思いついたようにハッと私を見る。
「……貴女、もしかして、赤ちゃんなの!?」
「そんなわけあってたまるか」
「じゃあ、どうして!? 効かなかったことなんてないのに!」
魔族の大きな声のせいで再び赤子が声を上げて泣き始める。
「あ~あ、泣かせちゃった」
私がそう言うと、彼女は私を睨みつけて「お前なんて相手にしていられない」と言い、この家を崩壊させる。ガタガタと家が揺れて、砂ぼこりが舞う。
「一番魔力の強い邪魔者を先に倒してから、他の奴らを食い尽くす予定だったが仕方ない。……はぁ。わざわざこんなステージまで用意してやったというのに、お前は全く絶望してくれない。時間の無駄だ」
魔族はため息交じりに、それだけ言い残して、屋根を突っ切るようにして飛び出していった。私も瓦礫に押しつぶされる前に魔族を追うようにして家を脱出する。
凄まじい炎と煙に咳き込みながらも、私は無事に家の外へと出ることができた。
すぐに辺りの状況を確認すると、シャーロットの指揮により、燃え上がる家々はいくつか消火されていた。
魔族は空高くへと飛び、片手で足を持ち泣き喚く赤子を逆さにしている。宙に浮く魔族は私たちを見下ろしながら、ニヤッと口角を上げて大声を発した。
「私の名はミレッタ。この村はもう滅んだ。……今度はお前たちの絶望の顔を見せておくれ」
とりあえず、私は「この悪趣味~」と野次を飛ばしておく。
精神的な攻撃をする魔族に対して、私も精神的な攻撃を与えるというスタンスで戦いに挑んだ方がいいのかもしれない。……が、私の言葉も全く効いているようには見えない。
「うるさいわね!! もう貴女の相手は終わったのよ! …………あっ」
「あ」
彼女が叫んだ次の瞬間、スルッと赤子が彼女の手から滑り落ちた。




