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あ~あ、最悪。見誤っちゃった。
肩、めちゃくちゃ痛いし。止血するにも、今彼女から目を離すことなんてできないし……。
折角、おかしいな~~って思ってたのに! 演技派魔族め!
「てか、魔力一切感じなかったんだけど」
私はふと疑問に思ったことを口にした。少女の表情が一瞬歪む。
「私を馬鹿な魔族と一緒にしないでくれる?」
急なキャラ変。まだついていけてないよ、私。肩はヒリヒリ、空気はピリピリ。
「さっきのように泣いている方が可愛げがあったよ」
「じゃあ、こっちの姿でいい?」
女の子がそう言った瞬間、彼女の容姿が一瞬で変化した。小さな角が額から二つ現れ、艶やかな腰ほどにまで伸びた青髪、身長は高くなり十代の体つきになる。……胸も膨らんでいる。顔はほとんど変わらず、鋭い牙を消した。………ただ、胸はでかい。
消化しきれないこの気持ちを心の中で最大限に叫ばせてもらう。
顔は童顔なままなのに、胸は大きい……!!
こんなの不公平だよ、神様。私があまりにも可哀想だとは思わないのかい。何故か、赤子も泣き止んでいるし……。
私は軽くチッと舌打ちを打って、ニコッと魔族に微笑む。
「見逃せない大変身だね」
「馬鹿にしてるの?」
私の言葉に苛立ったのか、ピクリと僅かに眉を上げる。「そんなことないよ」と私は首を横に振る。なんたって、彼女が大変身してくれた一瞬で魔力で肩の止血をすることができた。まだ熱を帯びて、痛みは消えないけれど、大量出血で倒れることはない。
「その赤ちゃんは? 実は魔物とか?」
「この赤ちゃんは本物。まだ食べ頃じゃないからね」
「……もしかして、村人全員喰ったの?」
眉をひそめて、私は彼女にそう尋ねた。魔族は一呼吸置いて、不気味な笑みを浮かべた。
「ご名答」
「……わぉ」
衝撃のあまり「わぉ」しか出てこなかった。恐怖よりも驚き。
だって、聞いたことがないんだもん。魔族は人を殺すけれど、食べたりなんかしない。それに、魔族は普通魔力を隠したりなんかしない。最初に察知した邪悪な魔力は私をおびき出すためのものだっただろうし……。
「絶望した人間が一番美味しいの。それに、私の力となるのよ。ただ、赤子はなかなか絶望してくれなくてね。食べ頃になるまで待つのよ。それまで私が希望を沢山与えて育ててあげるの」
魔族は軽やかに明るくそう言うが、私は「怖ッ」と引いた顔で声を発した。魔族は私をじっと見つめながら、口の端を小さく上げた。
「本当に恐怖を抱いているものはそんな表情をしないのよ」
次の瞬間、彼女の低い囁き声が耳元で聞こえた。『残念な子』と。
…………は? なに? 今の。
私は魔族に何をされたのか訳が分からず、「え?」と眉間に皺を寄せて目を合わせる。そんな様子の私を見て、魔族も「は?」となっている。
……なんか気まず。
このお互いなにも理解できていない状況なんなの。もっと、「してやったり」って顔でも浮かべといてよ。貴女が仕掛けたんでしょ!
「心に突き刺さるような痛みとかは……?」
……だから、その戸惑った感じで聞いて来るのやめて。




