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「助けて……」
ところどころ避けているボロボロのワンピースを着た五歳ぐらいの女の子が赤ちゃんを抱き抱えながら私をじっと見ていた。細い腕で色あせた布に包まれた赤ちゃんを必死に抱いていた。暗い茶髪はパサパサで、いかにも「可哀想な女の子」だ。
子供が閉じ込められている? ……いや、でも子どもだからって気を抜いちゃダメ。
私は慎重に女の子に近寄りながら「何があったの?」と聞く。正直子どもは苦手だけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「ふぇえええっ……」と赤子の悲鳴に近い泣き声が空気を震わせる。
代わりに答えてくれたのかな……。全く理解できない。私は女の子をじっと見つめる。彼女は怯えた目を私に向けながらゆっくりと口を開いた。
「パパもママもみんな死んじゃったの……残ったのはこの子とわたしだけ……」
……どうして二人だけが生き残れたの?
大粒の涙を絶え間なく流す女の子を前に私は冷静にそんなことを考えていた。クリッとした薄茶色の瞳が私をじっと見つめる。
魔族が彼女たちだけをここに閉じ込めていた? 他の村人たちは全員殺したのに?
本来なら、ここで二人に近寄って「大丈夫!? 怪我はない!?」と安全を確かめるべきなのだけど、私は一向に警戒を緩めないままゆっくりと足を進める。
こういうところが「薄情な奴め」なんて言われる由来なのかも、……だけど、魔族は人間を欺くのが得意。それを私はよく知っている。
「おねえちゃんは味方……?」
「ええ。魔族を討伐しに来たのよ」
二人からは少しも魔力の気配を感じない。赤子は泣き続けているし、女の子は恐怖でずっと震えている。本当にこの村の生き残りかも……。
「おねえちゃん、助けて。わたしたちを助けて!」
助けを求める女の子が赤ちゃんを抱えながら、私の方に駆け寄って来る。
…………流石に子ども相手に探りすぎたかな。私も二十二歳だし、もっと大人の余裕を見せとかないと。
私は警戒を解き、女の子の目線に合わせるように屈む。その瞬間だった――。
「…………ッ!!!」
肩に重みがのしかかり、激痛が走る。鋭く尖った圧迫感が肩に深く食い込む。痛みと同時に血の気が一気に引くのが分かった。
女の子が私の肩に容赦なく嚙みついていた。反射的に私は女の子を引きはがし、遠くへと飛ばした。女の子は見事な運動神経で泣き叫ぶ赤子を抱いたまま空中で体を捻じり、地に降り立つ。こちらを睨む瞳は青紫の瞳に変わっており、鋭い牙に血を滴らせていた。
「このガキ……」
私は噛まれた方の肩を抑えながら、そう呟いた。




