第5話
「マジか。」
地面に横たわっている追跡者たちを尋問する。
尋問といってもゲーム内でのことだ。リアルな拷問や、あの手この手を使うなんて煩わしいものはなかった。
『尋問しますか?はい・いいえ』
迷わず『はい』を選ぶと、またもやミニゲームが開始されたのである。
相手の頬部分、胸部、下腹部が赤丸にマークされ、そちらに視線を集中させると次の選択肢がポップアップされた。
『何を使いますか?杖・素手・猫』
杖は先ほどの老人方が使っていたものがそこら辺に転がっていた。
そして、素手はわかるが……猫?
猫って、どこにいる?─そう思って周囲を見渡すと、物陰や両側の建物の上階からこちらをじっーと見ているニャンコたちがいっぱいいた。
いろいろと運営に聞いてみたいことも多かったが、とりあえず自分なりに思った選択肢を選んでいく。
「にゃー。」
バリバリバリーッ!
猫を選ぶと、一匹の猫が追跡者の前に降り立ち頬を爪で引っ掻き始めた。
『尋問に失敗しました。』
「だろうね。」
どうやら、最適解はこれではなかったようだ。
「この選択肢や演出は必要なのか?」
そうぼやきながら、別の選択肢を選ぶ。
しばらくして、追跡者の顔が苦痛か快楽かわからない表情に歪むエフェクトだけが入り、すぐに望む回答を得ることができた。
因みに、選んだのは『下腹部』、そしてその後に続く『蹴りを入れる』→『痛みと刺激の中間点の強さ』→『口を割るまで続ける』だった。
このあたりは年齢レーディングを問わず、公序良俗に反する演出はスキップするのだろう。特に昨今のフルダイブ型ゲームについては、その傾向が強いものとなっている。
だったら杖とか猫とかの選択肢を出すなよとも思ってしまうが、何かしらの意図があるのかもしれない。もっとも、こういった内容までリアルな演出にすると、メンタルをやられる者や犯罪に走る者がプレイヤー内に増えてしまう。そこは統計から見ても明らかなため、問題が生じないよう演出に気を配っているのかもしれない。
フルダイブ型ゲームは少なからず脳に干渉する。
こういった規制に関して、シビアな姿勢で望まなければ、ゲーム会社としての認可が取り消されてしまう可能性も高いと聞いたことがあった。
噂では、ある国の軍部が洗脳教育に用いるため、オリジナルのフルダイブ型ゲームを開発して活用しているそうだ。日本ではもちろん御法度だと思いたいが、実際のところはどうかわからない。ただ、そういった一部の行いで、神ゲーの開発に水を差すような事態にならないよう願いたいところである。
「まあ、そんな演出は掘り下げられても見たくはないけどな。」
思わずそうつぶやいていると、次のアナウンスが発せられた。
『おめでとうございます。ミニゲームのクリア報酬をゲットしました!』
どうやら尋問を終えるところまでが、ミニゲームの終着点だったようだ。
クリア報酬を確認すると、ミニゲーム報酬『方言ナビゲーターをゲット!』の通知が届いていた。説明を見ると、『声及びポップアップメッセージをお好きな方言に変更することができます』だそうだ。
「いるかコレ?」
そう思いながらも、試しに使ってみることにする。
「えーと、出身が関西だから迷わずコレだな。」
関西弁を選択した。
『関西弁実装やで。よっしゃ、まかしとき!』
おお、マジで関西弁に切り替わった。
『次はどないするねん?』
「え?」
『はよ、選びぃや。ゲームの進行、止まっとんねん。』
関西弁らしく、せっかちなアナウンスしてくれるわ。
試しに少しの間、何もせずにいる。
『鈍いやっちゃな。はよせいや、コラっ!』
どうにもガラの悪いAIを搭載しているようだった。
これ、他の地方出身者が使ったらストレスしかたまらないだろうな。
個人的にはおもしろいのでこのままにしておくことにする。こういったものあるあるで、エセ関西弁が出てくることも同時に味わえる楽しさがあった。
さて、脱線はこれくらいにして、次の行動へと移ろう。
尋問から得た情報によると、結構めんどうくさいことに巻き込まれたようだ。
当初はホスト連中の客を盗られたというやっかみ程度と思っていたのだが、どうやらまったく別口らしい。一夜限りのアバンチュールを楽しんだ女性が、実はややこしい奴の愛人だったとか何とか。
貴族とか都市の重役なんてなまやさしいものじゃなく、尋問時のニュアンスから非合法なものを売買する反社会的勢力のトップのようだった。
これは火遊びを超え、噴火口へのダイブレベルの危険度ではないか。
騎士がどうとかいう前に、犯罪者集団と一悶着とはやってくれる。
意外性の連続というのは前作でも評判になったが、序盤からこれとは──それほど選択肢がなかったことを考えると、なかなかのビターテイストじゃないか。
個人的に望むところではあるが、肝心の武器も調達できていない。
「ま、背に腹はかえられんか。」
いまだに地面に横たわる者たちを見る。
コイツらの武器や所持品を奪うことで当面の戦闘には困らないだろう。デメリットが生じる可能性もあるが、今から装備を整える金を稼げるほど悠長な時間はなさそうだ。
剣や槍などの長物はさすがに持ち合わせていないようだが、ナイフや殴打武器はそれなりに回収できた。騎士らしくないなどとは言っていられないので、とりあえず持てる分だけアイテムボックスに入れておく。ついでに財布の中身を確認し、銀貨や銅貨といった硬貨も拝借する。
『われ、業溜まっとるぞ』
品のない関西弁でAIが俺に警告した。
ステータス画面を展開すると、赤字で業の数値が表示されていく。
やはりこれも前作から踏襲されていたようだ。
業とは、因果応報の法則に乗っ取ったステータスである。善行であれば青、悪行であれば赤の数値に傾く。その数値が一定数を超えると後のイベント、NPCやプレイヤーとの関係性に影響するためバカにできない。
善行ならともかく、悪行が多くなると犯罪者として扱われる。国や地域によっては犯罪奴隷に落とされて、その後のゲーム進行が無理ゲーのようになってしまうことから大きな足枷になってしまう。
「ふむ。相手が悪人であっても、窃盗行為としてカウントされるのは前作と同じだな。まあ、悪人相手の場合はマイナスされるのも緩やかな数値だから、まだどうってことはなさそうだ。」
窃盗としてカウントされるのは、一点ではなく一人あたりの単位のようだった。同じ相手から複数の物資を奪ってもマイナス点が変わらないのであれば、そのつもりで誰から何を奪うか選べばいい。所持金に関しては、端金は無視してまとまった金が入っている財布だけを頂戴することにした。
『なんや、騎士やのに堕ちるのが早いやんけ。このままやと盗賊堕ちになるでー。』
AIがいうように、やっていることは盗賊と変わらない。
しかし、清廉潔白で業を気にしすぎると悪党に屈する未来しかなかった。
幸いにして、現状の業数値は赤で12ほどである。前作と基準が同様なら、30までは一般人として扱われるはずだった。これが一般人相手の窃盗ともなると、一発で犯罪者堕ちとなるのだから注意が必要である。
武器を装備し、所持金も増えた。
必要な備品を買い揃えて、敵の壊滅か逃走のどちらかを計らなければならない。
このまま逃走するとさらなる追っ手が手配され、町外れや街道で命を狙われるだろう。それに増えた業もそのままとなる。
「ここは攻めの一手だろう。」
少し難易度は高いが敵を壊滅すれば報酬も高く、悪党を退治したとして業も下がるはずだ。
次の行動が決まったので冒険者ギルドへと向かった。
犯罪者集団を相手取るなら、冒険者ギルドで情報を得るのが一番いいはずだ。何なら関連している依頼があれば受けるのもいいだろう。
報酬とバックアップを受けられる可能性がどの程度あるか思案しながら、足を冒険者ギルドへと向けた。




