第11話
「珍しい結果というのはどういう意味なのか聞いても?」
自分では無難な結果と思っているが、カークが珍しいというならそうなのだろう。気になることは聞いてみるに限る。
「査定はそれまでの経歴も加味される。バルバロイから聞いた君の実力や職務経歴を考えると、ランクBというのは腑に落ちない気がしたのでね。」
「査定した者からすれば、その程度に映ったということだろうな。」
カークの言葉を聞いて、何となく理由は理解していた。特に過小評価だとクレームを出すつもりもない。
「君は……」
「何か?」
「いや、余計な詮索をするつもりはない。」
実力を偽っているとでも言いたいのかもしれないが、そうではなかった。
現状のステータスを参照して冒険者のランクづけがされているとすれば、無難な結果だからだ。
俺は元騎士であると同時に剣聖でもある。しかし、その剣聖として必要な条件を満たしていないことは、ステータスを見れば理解できる。
剣聖とは、オーラを操るものである。
オーラとは体内で練られた特殊な力で、身体能力を飛躍的に上昇させ、さらに武器に流すことで攻撃力を増すことも可能だ。上位の剣聖なら距離を隔てた敵をも倒し、そのエネルギーフィールドで防御壁を展開することすら可能である。
しかし、今の俺のステータスウィンドウには、剣聖という単語もオーラに関連するスキル等の記載も一切なかった。これは何らかの事情により、コマンドが活性化されていないということだろう。それが冒険者ランクの査定に影響していると思われる。
バルバロイがどこまで俺の騎士時代の実力をリークしているかはわからない。しかし、彼より俺の方が強いというのは、オーラが使える状態であるからだと解釈できる。そして、それがこのゲームのやり込み要素の魅力と紐づいているはずである。
前作では魔術師として開花するためには魔法の無詠唱化が必須であり、そのための魔法陣や魔道具を求めて探索や探究にかなりの時間を費やした。それ以外にも、魔力を増幅するための魔薬や、制御をより洗練するためのアイテム収集に躍起になったのを覚えている。
今回もそういったやり込みは必要だろう。オーラを増幅するための霊薬を始め、オーラを効果的に流す武具や道具もあるかもしれない。
それらがミッションをクリアしてもらえるのか、それとも探索でしか手に入らないかはやってみるしかなかった。残念ながらベータ版に関するコミュニティやブログの類はほとんどないといってもよかったし、それらを閲覧できる状況下にもないからだ。
「本題に入ろう。」
カークが咳払いしてそう言った。
つきあいの浅い冒険者に立ち入ったことを言ったと、自身を諌めたのかもしれない。そう考えると好ましい男だと思えた。冒険者上がりにしてはデリカシーを弁えている。
「個人指名の依頼ということでよかったか?ならば、俺を指名する経緯も聞いておきたい。」
「その話は依頼内容を聞いてからでも遅くはないと思うが?」
「依頼内容を聞いてからだと、断りづらいかもしれないからな。」
「ふむ、一理あるな。」
カークがそうかはわからないが、情に訴えることや機密を教えたからと断りにくい状況を作られる可能性がないともいえない。デリカシーがあっても、一組織の長としてある程度の交渉術は身につけていて然るべきだ。
「君に指名依頼を出すのは、今回の標的が難敵だからだ。」
「難敵なら高ランクの冒険者が選任されるものだが、他にも要請している冒険者が複数名いるということだろうか?」
「その通りだ。」
「メンバーは?」
「バルバロイ、それと他にも元騎士が二名いる。」
「元騎士が適任というやつか。」
そんな奴ばかりを集めているとなると、難敵というのが何者なのかも想像がつく。
「お察しの通りだ。相手は騎士あがり。それもソードマスターだそうだ。」
「序列は?」
同じソードマスターでも、序列がどの程度かで実力値にかなりの差がある。
「そこまではわからない。何度か依頼を受けた冒険者が返り討ちにあい、満身創痍で逃げ帰った者の証言だ。」
「そいつが自らソードマスターだと名乗ったのか?」
「いや、オーラを身にまとい剣気を放ったとのことだ。」
剣気というのはオーラを刃として放出し、離れた相手に攻撃する術である。
オーラはともかく、剣気は非常に厄介だ。ソードマスターもピンキリだが、生半可な者では剣気を出すことなどできない。
しかし、倒せるだろうか。
今の俺はソードマスターとしての能力が活性化していない。ただの騎士が相手とは訳が違うのだ。
「前報酬としてこれを用意した。」
カークはそう言いながら、目の前のテーブルに小瓶を置く。
「これは?」
「初級霊薬だ。」
直ぐにウィキで調べた。
初級霊薬とは、その名の通りオーラを発動させるための"始まりの霊薬"といわれている。
オーラを扱えるようになるために必須というわけではない。オーラを扱うには先天的な才能が物をいう。遺伝なのか神から授かったスキルなのかはまだ明確化されていないが、少なくとも後天的に発動したという話は聞いたことがなかった。
しかし、その地盤があっても厳しい鍛錬の末にオーラを発動できない者もいる。そういった者たちがオーラを起動できるように作られたのが初級霊薬だった。
また、オーラは戦闘時や危機的状況に陥った際─アドレナリンが沸騰した状況でしか発動しないのが定説だが、それを任意でコントロールすることも可能だそうだ。既にオーラを操れる者が初級霊薬を服用することで、オーラを多少巧みにコントロールできるようになれるらしい。
「希少な薬じゃないのか?」
「まあ、そうだ。これだけで一般人なら半年くらいは生活できるだろうな。」
バルバロイから話を聞いているからか、それともゲームの進行上必要なギフトなのかはわからない。ただ、今の俺にとって重要なアイテムには違いなかった。
「依頼を受ける者全員にこれを?」
「希望者には渡すつもりだ。希望しない者には同等の金額を前金とする。」
バルバロイなどはオーラが扱えない。
そういった者には霊薬よりも金銭の方が魅力的なのはいうまでもなかった。
「わかった。その依頼、受けさせてもらう。」
俺はその場でそう返答した。
宿屋の部屋で初級霊薬を飲み干した。
苦味があり、お世辞にも口あたりが良いとは言えない。
喉を通る時から熱のようなものを感じ、胃へと運ばれていくのが手に取るようにわかった。
体がかっと熱くなる。
目を閉じてその熱に意識を集中してみた。
熱が体の中心部から細かく枝分かれして体の末端にまで浸透していく。両眼に炎が灯ったような熱気を感じる。ウィキによればオーラの発動中は片眼、もしくは両眼が属性色に輝くそうだ。
目を閉じてはいるが、その熱が濃い青に光輝いているのを感じた。
オーラには地水火風雷の五つの属性があり、それぞれ黄、水、赤、緑、群青の色を持つ。
濃い青光──俺の属性は雷ということらしい。
薄目を開け、両手にオーラの波動を集中させる。
バチッと小さな雷光が指先に集う。痛みは伴わないが、制御が不完全なことは感覚でわかった。
次の任務にあたるまでに自在にコントロールできるレベルに持っていく必要がある。このあたりはウィキやマニュアルに記載もなく、自らの感覚で磨いていくしかないようだ。ある意味でフルダイブ型MMORPGの醍醐味ともいえる事象だった。
その日は明け方までオーラと向き合い、納得のいくまで制御する術を身につけることにする。これを実戦でどう活かせるのか、そこも考えておかなければならないだろう。




