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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

死に戻り魔王は破滅ルート回避のため、前世で自分を討伐した(今はへっぽこ)少女パーティーを飼い慣らしてやった──【無限魔獣生成】と【濃厚キスバフ】でダンジョン蹂躙!

作者: しま猫じま
掲載日:2025/12/22

「狡猾で不道徳こそが魔王だ」と考えている少年の物語です。

倫理観を揺さぶる展開もあるかもしれませんが、それも含めて楽しんでいただければ幸いです。

魔王の俺は、かつて人間族(ヒューマン)どもに討ち果てられ──10年前に、死に戻った。




──そしていま、“まだ俺を殺していない”少女たちが俺の後ろを、ちょこちょこと歩いている。


身体も頭も未熟で未発達なちびっこ令嬢。

見た目以外に取り柄のなさそうなメイド。

無駄にけしからん身体の、トロい田舎娘。


10年後では「大魔導師」「剣聖」「白銀聖女」となっているこの三人に、俺は命を奪われた。


前世で自分を殺した奴らのパーティーに加わって、これからダンジョンの最下層を目指そうとしてるんだから、悪い冗談みたいだろ?


──まあ、今の三人は、自分の餌すら調達できない子猫みたいなものだがな。



……とはいえ、俺も今はこのとおり。

見た目だけなら痩せて背も低い、ただの黒髪で赤い目をした少年とあって、実力を知らないバカどもに舐められ放題だ。


「おい坊主、お前が護衛か? なぁ、お姉ちゃんたちよぉ、こんな弱っちいのと旅してたら危ないぜぇ、カハハッ」


ほらな、さっそくチンピラどもだ。

ダンジョンがあるゼクリオの街へ向かう道で、四人の男たちが絡んできた。


そのうちの一人が俺の肩に無遠慮な手を置いた。


「ボクちゃんはママにところに帰ろーね、俺らはこれから大人の時間だから……あ……へ?」


馬鹿の腕は逆方向に折れ曲がっていた。


「あぎゃぁぁ! 腕がっ! 腕がぁぁぁ!」


俺は何もしていない──少しだけ“威圧”を漏らしただけだ。


虫を殺さずに痛めつけるのは、加減が微妙で思ったより難儀だな。

だが、無闇に殺して目立つのはよくないから仕方がない。



とにかく、目的はただひとつ。


──かつて俺を殺すために使われた《魔王殺しの魔法具》をダンジョンで回収すること。


そのために、この三人の小娘を飼い慣らし、“俺仕様”に調教してやるだけの話だ。

いずれ《魔王殺しの魔法具》を回収したら、魔王専用の慰み場にでもして、俺の種で孕ませればいい。


そして──目的を果たすうえで、これは僥倖(ぎょうこう)と言うべきだろう。

死の間際に、俺はあるスキルを手に入れていた。


無限魔獣生成(アビス・ブリード)


幾千ものおぞましい眷属(けんぞく)を生み出せる──まさに魔王にふさわしいスキル。


上等じゃないか。

人間族(ヒューマン)領内最大最強のダンジョンとやらは……俺が蹂躙してやる。



しかし、このときの俺はまだ知らなかった。

俺はダンジョンに入る前に《無限魔獣生成(アビス・ブリード)》を披露することを。

さらに魔族(デモンズ)式のバフをかけてやるために、赤面する三人の少女に──接吻(キス)を……しかもそれなりに“深いやつ”をすることを。



「ルー兄様、さっきの兄様に触れた男性が、地面をのたうち回ってますけど、どうしたのでしょう?」


「そういう遊びでも流行ってるんだろ……というか、その“ルー兄様”ってのは……なんだ?」


「ルー兄様は15歳で2歳年上なのですから、お兄様みたいなものです。もしかしてシンプルに、にぃ様のほうが良かったですか? いっそのこと、にぃに?」


「どれも却下だ! お前とは血縁じゃない!」


「ですが、ルーシア……グ……なんでしたっけ? 呪文だって私は覚えるのが苦手なのです……」



ルーシアルグロスムスメリフという名前は本名を短くしたものだ……人間族(ヒューマン)っぽい名を名乗ったつもりだったが、まだ長かったのか? というか呪文苦手で大丈夫なのか?



「なのでルー兄様でいいのです! このパーティーでルー兄様より年下は私だけ……ということは私専用の特別な呼び方になりますし……うふふ。ダンジョンがあるゼクリオの街まであと3日! こんな直前にお兄様ができるなんて幸せです」



そう言って笑うこいつの声は、小鳥みたいに軽やかで、妙に耳に残る。

金色の髪は、丁寧に手入れされたやわらかな巻き毛で、ひと房ごとに光を弾くように揺れている。

令嬢の品性と幼い愛嬌が合わさった顔で、その顔の上には──どう見てもでかすぎる三角帽子。

つばが顔の半分を覆っていて、本人は気にしてないようだが、帽子に着られてるようにしか見えない。


肩の出た真っ白な服は、胸元には花模様のレースがあしらわれ、その下にのぞくのはまだ成長途中らしい、ささやかなふくらみ。


大きなリボンがやたら短かいスカートのお尻のすぐ上にくっついていて、歩くたびにひらひら揺れる。


ヒール付きのブーツを履いても俺よりかなり背が低く、でかい杖を両手でぎゅっと抱えて黒曜石のように澄んだ瞳でこちらをじっと見上げている。


この魔法使いと令嬢が混ざっているような格好の少女は、フローリス。


──将来の《大魔導師》だ。


なにか妙になつかれているが、俺にとっては、冷静な表情で“煉獄の業火”を詠唱し、灰も残さず焼き尽くしてくれた張本人だ。



「あの……私からも、お名前に関してひとつお願いがあるのですが」


「ん? まさか“お兄様”とか呼びたいってわけじゃないよな。あんた、俺より2歳年上だろ?」


「私はフローリス様の専属メイドです。フローリス様が“お兄様”とお呼びするのでしたら、お仕えする私にとっては、ルーシアルグロスムスメリ様は、私のご主人様のような存在……」



彼女の表情はとぼしいが、少し目を伏せて恥ずかしそうなのが伝わる。



「なので、“”ご主人様”とお呼びしても……よろしいでしょうか?」


「待て、何だその理屈!? ちょっと飛躍しすぎじゃないか!?」


「……その……街で助けていただいた時のご主人様は、本当に凛々しくて……私の中の“理想のご主人様像”に、ぴったりでしたし……もしも私に失態などございましたら……どうか気兼ねなく、お叱りくださいませ」


「……お……おう……」



恥じらうように伏せたそのまつげの影から、ちらりと蒼色の瞳が揺れる。

顔は……たとえに出すのが嫌だが、人間族(ヒューマン)が崇める女神のような造形美を誇っている。


長身でスラリとした肢体に合わせて作られている彼女の着るメイド服は、無駄のない戦闘仕様だ。

背中は大胆に開かれていて、肩甲骨から腰にかけて、陶器のような滑らかな白い肌がすっかり露わになっていた。

一本の紐で結われた腰まである黒髪は、揺れるたび背中を撫でるように流れた。

スカートは膝上までで、ふと視線が吸い寄せられるのは、その下──艶のある黒タイツに包まれた太もものラインだ。

肌の質感が想像できるほどぴたりと張りつき、歩くたびにわずかに浮かぶ布の陰影が、やけに生々しい。


この黒髪の長身美人メイド剣士は、エドゥネ。


──未来では《剣聖》と称されている最強の剣士だ。


俺のことを“理想のご主人様”などと言っていたが、前世では“理想の宿敵”に対するような目で、俺の心臓をためらいなく剣で貫いた事は忘れない。



「え? ルー兄様とか、ご主人様とか、みんなそういう感じなの? ど、どうしよう! 私も決めないと……じゃあルーシくんはどうかな? ……だめ?」


「無理に決める必要は……ルーシくん……まあ、今までで一番まともかもしれないが……」


「それにしても、街で助けてくれたときのルーシくんかっこよかったなー。もしかして神様だったり……これからは神様じゃなくて、ルーシくんにお祈りしよっと」


「いや、神じゃないし……聖なる祈りとか、やめてくれ……」



見る角度で虹を宿す銀の髪が、絹のように艶めきながら揺れた。

肩をすこし越えるセミロングの髪は、光を受けて柔らかく光り、左耳の下で編まれたゆるい三つ編みが、俺と同い年なのに、どこか年下の少女のような雰囲気を漂わせていた。


うっすらと頬に紅がさしたその顔立ちは、美しいというより……可愛らしい感じだ。

はつらつな見た目のわりに性格は少しトロいというか……抜けている。


身に纏っている聖職者用の清楚なローブは、布がかなり張っていた。

なめらかな素材のせいで、柔らかで大きすぎる膨らみを隠しきれていない。


腰回りも同様だ。

俺の前を歩くとローブ越しに形の良すぎる尻が、どうしても視界にこびりついた。

禁欲を掲げる神殿で、よくこんな身体を野放しにできたな。


肉感的な大人の身体の上に、あどけない美少女の顔が乗っかっているこの娘は、アザリィ。


──10年後は《白銀聖女》と崇拝されていた。


現在はどこにでもいそうな元気な少女という感じだが、俺と戦ったときは、自分を犠牲にする献身性に溢れ……悲しみも怒りも超えたその瞳は、この世の苦しみすら受け入れているようだった。



俺の前にフローリスが飛び出てきた。



「ねえ……なんでエドゥネがルー兄様のとなりを歩いてるの? 距離近すぎじゃないかしら?」


「え? フローリス様……これは……たまたまで……」


「じゃあ場所変わって! なんだかふたりが恋人どうしっぽくて、嫌なの!」



腰の大きなリボンを揺らしなが、フローリスが割り込もうとしてくる。



「恋人どうしって……私とご主人様って、そ、そんな風に見えるのですか? フローリス様……それをもっと詳しく……あっ! あぶない!」



アザリィが丁字路にある木製の古びた道標に、見事に頭をぶつけた。

そしてうずくまっている。



「あたたた……えへへ、またボケっとしながら歩いちゃった」


「おいおい……大丈夫かよ」



アザリィの手を取って立たせると、アザリィはそのまま甘えるように俺の腕にしがみつく。



「私ってドジだし……ちゃんと戦えないかもって、ちょっとだけ思ってたんだ。だから……ルーシくんみたいな強い男の子がそばにいてくれるなんて、うれしいなってぽわっと考えてたら、頭ぶつけちゃった」



ありえないほど柔らかな感触が、俺の腕に押し付けられた。そして2つの山の間の谷に、俺の腕が包まれるように埋まった。

基本的に無防備なのだろう。



「あ! 今度はアザリィが恋人みたいに! お兄様を独り占めは許しません!」


「そんなつもりはないのにぃ。ルーシくんは立つの手伝ってくれただけだよ。ルーシくんって優しいね、昔からなの?」


「い……いや……別に俺は優しいとか……」



なんなんだ。

こいつらと一緒にいると……どうも調子が狂うな。



なぜ孤独を好む俺が、この喧しい三人と一緒にダンジョンがある街に向かっているのか……語るなら、あの忌々しい魔法具から始めねばならない……思い出すのも嫌になる。



(あの日──俺は、こいつらに殺された)



城の最上階、玉座の間。

まずは銀の聖剣が、俺の胸を貫いた。


「な……なぜだ……この俺が……力負けしただとぉ!?」


胸を貫いた銀の剣。剣聖・エドゥネが突き立てたそれに、俺の血が伝わってぽたぽたと床に落ちる。

折れている剣を見下ろす──俺の剣だ。なぜ……負けた?


「魔王……これで終わりだ」


冷えきった声とともに、エドゥネは剣を手放し、静かに後退した。


冗談じゃない。俺にはまだ魔法が……。


すると轟音と共に、炎の柱が下から突き上がる。

大魔導師・フローリスが詠唱を終えていた。俺は魔力で対抗しようとするが──燃える、消せない!


「がっ……ああああああッ!」


「状態異常と魔法の耐性、解除されてますの。そして能力値は全部半減」


「……なんだと?」


俺を包む炎の向こうに、白銀聖女・アザリィが手にした小さな燈火のような聖具が光る。


「ゼクリオのダンジョン最深部に封じられていた“魔王殺しの魔法具”……これはあなたを亡き者とするためにあるのよ!」


「ま……魔王殺し……ぐ、ぐぅぅ……おおおおおお!!!」



(そして若き魔王だった俺は──25歳で死んだ)



最後のアザリィの言葉は、死に戻ったあともしっかり覚えていた。


魔王自らが魔法具の回収に動いた理由は……そんなヤバいシロモノを配下に持たせたくなかったからだ。


俺がいうのもなんだが、魔族(デモンズ)は抜け目ない。

魔法具を使って俺に牙を剥く可能性もある。


そんなワケで俺は、頭の角をローブのフードで隠して人間族(ヒューマン)領内に侵入し……ゼクリオのひとつ手前の小さな街で数奇な運命に遭遇した。


裏路地で男たちに乱暴されそうになっていた女たちを、俺はただ気まぐれに助けた。

ああいう小物は虫唾が走るからな。


俺と同じようにゼクリオのダンジョンに向かっているという少女たちを見て、俺は驚愕した。

当然だ、“俺を殺した三人”が、10年前の姿でそこに立ってたんだから。



あたりまえだが、憎しみの気持ちはあった。

しかし怒りにまかせてぶち殺してしまうのは……“魔王のやり方”ではないとすぐに思った。


魔王とはもっと狡猾で、不道徳な存在なのだ。


この三人は人間族(ヒューマン)の中で最上位の実力者となる素質があるのは証明されている。

そんな女たちは、ぜひ手に入れたい。


俺は正体を隠して導き、心酔させ、鍛え、成長させる。

そして封印が解けたら、《魔王殺しの魔法具》を献上させればいい。


前世で俺を殺した英雄を、今度は俺の手で“調教して”、最後は魔王軍の従順な幹部……そして魔王専用の慰み者とする。


それこそが、最高の皮肉だろう?



かつて俺の家族は和平交渉の名の下に裏切られて、両親は廃棄物と一緒に“処分”された。

命乞いをした姉上は“娯楽として”処刑された。あの場にいた全員が笑ってた。


──そんな世界では、むしろ俺は慈悲的ですらないか?



「そうだ! ルーシくんのステータスってどんな感じなの? きっとすっごく高いんだろうなってのはわかるけど」


「ステータス?」



そういえば人間族(ヒューマン)は自分の成長や能力を数値化して確認する文化があったんだったな。

魔族(デモンズ)はそういう数字には頼らない。



「ちなみに私は、レベル5の聖女だよ! スキルは《回復術》と《聖防術》と《鑑定》なんだよ!」


「私はレベル4剣士です。《献身受け》と《掃除開始》と《賭刃一閃(とばくいっせん)》を持っています……レベルが低くて、お恥ずかしいです。いくらでも罵りのお言葉を……」



アザリィのスキルは、いかにも聖女っぽい感じだ。


エドゥネのスキルは……剣士というよりは、なんとなくメイドっぽさがある。

賭刃一閃(とばくいっせん)》は……賭けか博打のような技か? どちらにせよ、ヤケッパチというかずいぶん危ういスキルを持っているな。



「私はレベル8の魔導師で、スキルは……《火炎術》《魔力制御》《詠唱短縮》だったかしら……たぶん! 魔法は《ファイアボルト》《フレイムランス》が使えますわ」



なるほど。

人間族(ヒューマン)の魔法は、まず《火炎術》のような属性スキルを持たないと、その系統の魔法が扱えないということか。

フローリスの《火炎術》以外のスキルは補助的な効果があるのだろうな。



「俺は……あ〜と、なんだったかな?」



適当に誤魔化そうかと思っていると、アザリィはポーチから小型の水晶玉を取り出した。



「えへへ、《鑑定》スキルあるから、ステータスオープン!」


「ちょ……おい、勝手に……」



円形の魔法陣が空中にふわりと浮かび、青白い光の文字が宙に刻まれていく。

表示されている文字をエドゥネとフローリスも覗き込んでいる。


★鑑定結果★


名前『≠λΓƵ*¤†=∵†∴§‡◎』

年齢『15』

職業『表示対象外』

レベル『552』

スキル『???』『???』『???』『???』『???』



「あれれ? 名前……文字が壊れてる? 職業は表示対象外? レベルは……552!? えええ? どういうことぉ?」


「これがルー兄様のステータスですの? レベル552なんて、さすがですわ!」


「いやいや、フローリス! これは、ありえないよぉ……」


「ステータスは神様が管理しているとお聞きします。失礼ですが……アザリィ殿の信心が足りないのではないでしょうか?」


「そんなっ! 私だって……聖女としてそれなりにやってるつもりなのに……お祈りだって! ときどきはサボるけど……」



表示がおかしいのは俺が読み取れないように魔力で防御したからだ。

もし職業に“魔王”なんて表示されたら、こいつらは殺すしかないのだからな。


しかし一部は間に合わずに表示されてしまった。

まさか急に自分のステータスを見られるとは思ってなく油断していた……やはりこいつらは俺の気を緩ませる。


このレベルは、どういう計算をしているのかは知らんけど、俺の体力や魔力から算出されたのだろう。

552……か。

自分の成長は覚えている。こいつらと戦った10年後は、おそらく2000くらいになっていたはずだ。


表示されてないスキルは、生まれつき持っている《魔王恩寵》《魔障消滅》《死者蘇醒》《沈黙発動》と、そして新しく増えた《無限魔獣生成》で間違いない。



そして次の日も、またその次の日も、ゼクリオへ向かう道中でゴロツキに絡まれた。

もちろん俺がひねった。


一緒に旅をしながら、ふと思った──もし俺が魔王ではなかったら、同世代のこの女たちと、恋愛や友情の関係になったのだろうか?


いや、そんなものは存在しない。


俺は魔王だ。

そしてこいつらは、かつて(未来の方が正しいのか?)俺を殺した人間族(ヒューマン)の英雄だ。


その関係性こそが、俺たちの唯一の接点。

歪んでいて、美しいのだ。



ようやく俺たちは3日かけて、ついにゼクリオの街に到着した。

よく整備された石畳の大通りを進むと、大きな建物が見えてくる。



「やっと着きましたわ! ダンジョン宮です!」


「わぁ! 大聖堂みたい……キラキラしてすっごく綺麗……」



ダンジョンから産出される貴重な鉱石や魔石……そして封印されている宝を目指して各地から冒険者が集まり、ゼクリオは現在は人間族(ヒューマン)領の主要な街のひとつになっている。


ダンジョン宮内の中央には、古代の祠のような小さな遺跡があった。

これがダンジョンの入り口だ。


冒険者たちがそこらじゅうで情報交換をしたり武器のチェックをしたりしている。



「なにか面白いものないか、ちょっと見学してくるー!」



アザリィは勝手に早足で歩き出し、フローリスとエドゥネもそれについていった。


なんという緊張感のない連中なんだ。

もっと色々と先にやることあるだろが! 水や携帯食の準備とかさ、装備の確認とかさ!

……本当に最下層まであいつらだけで行ったのか?



「あ……あの……やめてください!」


「いいじゃねえか、エロい身体した聖女様よ。俺たちダンジョン帰りで疲れてんだからさぁ、癒してくれよぉ」



しばらくフラついていると聞き覚えのある声がした。アザリィたちが、ベテラン冒険者の風格がある四人の男たちに壁際に追い詰められている。


あきれたような顔でその様子を他の冒険者たちが見ていた。



「あ〜また《銀獅子ファミリー》だよ」


「今夜はあの子達でお楽しみってわけか」


「30階到達者だからなあ。抵抗なんてできないだろう」



三人娘たちは冒険者として見るからに未熟で、しかもあの容姿だ。

それがろくでなし者どもをどれだけ惹きつけるか、まだ理解していない。


ダンジョン内で危険なのは──モンスターだけじゃない、場合によっては人間の方がモンスターより厄介になる。

だが、女たちのレベルが上がるまで、俺が四六時中護衛するのは不可能だし、面倒くさい……なんとかしないとな。



「……お前ら何やってるんだよ、そんな雑魚と遊んでないで行くぞ」


「あン? 雑魚だとぉ? ……なんだ、ひょろひょろのクソガキじゃねえかよ」



《銀獅子ファミリー》のリーダーらしき髭面の大男に強く押された俺は床に倒れた。



「兄貴ぃ! このちびっこ魔法使い、俺が貰ってもいいでしょ?」


「ったく、相変わらずの変態野郎だな、勝手にしろ」



さてと、今後のあの三人のためにはじめるとするか。



この空間の魔素は……光属性寄り、硬質、精密。

大理石とクリスタルで組まれたフロアじゃ、肉弾戦向けの魔獣は出ないだろうな。

せいぜい“反射系の番人”か“浮遊型の防衛兵”あたりか……まあ、なにが出てきてもいいさ。


俺は立ち上がり、《沈黙発動》を使った。

これは口に出さずに魔法やスキルが発動できる、不意打ちに便利なスキルだ。



((産声をあげよ、深淵の胎動──無限魔獣生成(アビス・ブリード)!))



ダンジョン宮内のクリスタルの柱が砕けて、床に破片が散らばった。

その破片は吸い寄せられるように3つの大きな塊を作り、そしてまぶしく光る。

光が消えると、そこにモンスターが現れた。


ダンジョン宮内は突然現れた3匹の大型モンスターに騒然としている。



「な……なんで、ダンジョン宮にモンスターが!?」


「クリスタルでできたトカゲだ! しかも、なんてデカさだよ!」



なるほど、クリスタロリザードか……ちょうどいい相手になりそうだ。


無限魔獣生成(アビス・ブリード)はテスト済みだ。

たしかに無限に何体も生成できるが、俺が制御できるのは2体までだと判明している。


だから3体生成した。ただ暴れさせるために。


《銀獅子ファミリー》のリーダーが筋骨隆々な腕をこれみよがしに見せつけ、大きなオノを高く掲げる。



「女にモテるには、やっぱ派手に決めねえとなぁ! この手柄、ギルドのやつらに報告しとけよ!」 



リーダーは1体のクリスタロリザードへ向かって一直線に走り、オノを叩きつける。


砕けた──バカでかく頑丈そうなオノの方が。


巨体のリーダーはクリスタロリザードの尻尾で軽々と吹っ飛ばされた。

攻撃を受けたことで、トカゲたちは《銀獅子ファミリー》をターゲットと認定したらしく残った3人の男たちに迫ってくる。



「くそっ! 紅き(ことわり)よ。焼き尽くせ──インフェルノ・ブレイズ!」



魔導師は、杖から炎の塊を放った。塊は水晶のトカゲに当たり四散する。傷もコゲ跡もついていない。



「以前、クリスタル系には炎がよく効いたのに! なんなんだ、こいつら!?」



他の冒険者たちは悲鳴をあげたり、腰が抜けて動けなくなったりしている。

フローリスが俺の腕をひっぱった。



「お兄様! 早くここから逃げましょう!」


「しかし、一箇所しかない出入り口の前にモンスターが立ち塞がっていますね。ご主人様……我々はいったいどうしたら……ご指示を……」



アザリィは完全にベソをかいている。



「ど……どうしよう、足が震えて……でも、ルーシくんがきっとまた守ってくれるから……」


「いや、今回は守らないぞ。これはチャンスだからな」


「え……守らない? チャンス?」


「お前らがあのモンスターを倒せ。ここで他の冒険者たちに強さを見せつけるんだ。そうすれば、あの連中みたいな鬱陶しいのが今後寄ってこなくなる」



そう。これが俺がここで無限魔獣生成(アビス・ブリード)を使った理由だ。

自作自演の三文芝居をやろうってワケだ。



「戦えって……そんなの無理無理だよ、ルーシくん!」


「アザリィの言うとおりですわ、ルー兄様! さっきのインフェルノ・ブレイズは私の炎魔法の数段上位なのです。それがまったく効かないのですよ!?」


「ご主人様のご命令……けれどフローリス様を危険な目に合わせるわけには……ああっ、私はどうしたらよいのでしょう……」


「いまからお前らに強化(バフ)をかける。俺の強化(バフ)は特別だ。すべての能力値が10倍に向上する。アザリィならレベル50の聖女になると思ってくれ」


「私が……レベル50!? ルーシくん、それホント!?」


「効果時間は60秒くらいだけどな。口移しで効果発動となる──さあ誰から俺とキスをする?」



転送と活性化を“口内経路”で行う構造だ。人間族(ヒューマン)の方法とは違うが、我ら魔族(デモンズ)の方が理に適っているだろう。


三人は固まっていた……ん? どうした?



「ええと……ルーシくん……」


「ルー兄様……そんな強化(バフ)の方法って一度も聞いた事が……」


「俺の故郷(※魔族領地)だと、こうなんだよ……俺が信じられないのか!?」



エドゥネが一歩前に出てきた。美しい顔をこわばらせている。



「では……わ……私が……してみます。お願いいたします、ご主人様」



エドゥネは俺のすぐ前に立った。

俺は少しだけ顎をあげて、長身の彼女を見上げている。



「あの……私……この歳ですが、はじめてで……その……」



俺は強引にエドゥネの身体を引き寄せ……厚みのあるエドゥネの唇と、俺の唇が重なった。


ちらっと横を見ると、フローリスとアザリィは口や頬に手を当てていた。

エドゥネの吐息が漏れる。



「ん……はふ……」



俺は《沈黙発動》で、エドゥネに強化(バフ)をかける。



((魔王恩寵(ロード・ブレス)))



そのまま口づけが続く。

なかなか反応がないな……時間がかかりそうだ。

人間族(ヒューマン)だからか? それとも元のレベルが低すぎるからか?


角度を変え、何度もお互いの唇が触れ合い、呼吸が荒く乱れる。

俺はエドゥネが唇を離さないように、彼女の頭を押さえつけるように触った。耳に触れた瞬間、エドゥネの身体がビクンと反応する。



「ふぁ、ん……っ、んっ」



エドゥネの体が一瞬光る──これで完了だ。

最後にちゅっと唇を吸うようにして離れると、普段は整い過ぎているせいで無表情にも見えるエドゥネの顔は溶け、目がとろんとしていた。

しかしすぐに、自分の手を顔の前で握ったりひらいたりしている。



「力が……ご主人様、たしかに私は力を感じてます……」


「よし、行ってこい。必ず勝てるから自信を持て」



エドゥネは深く頷くと、クリスタロリザードに向かって走っていった。

さっきのリーダーが吹っ飛ばされた尻尾の攻撃がエドゥネを襲う。

エドゥネはそれを跳んで避け、剣を持った腕をまっすぐピンと伸ばしてクリスタロリザードに突き刺した。


俺が……刺されたときとソックリだ。


クリスタロリザードは剣が刺さった場所からひび割れが起き、そして粉々に砕け散る。



「エドゥネがあんなに強い剣士に……ル……ルー兄様! 私にも同じのをしてください!」



次はフローリスが来た。

バカみたいにでかい魔法使いの帽子は後ろ手で持って、少し爪先立ちになり、目を閉じて唇を軽く突っ張らせている。



「ど……どきどき……して……ええと……」



フローリスの腰に手を置いた俺は、膝をちょっとだけ折って、微妙に震えている彼女にキスをする。エドゥネの大人の唇とは違う、小さく幼い唇の感触だ。

フローリスの首筋から上品で甘い匂いが鼻に届く。



「……ん……ちゅ」



ちゅっちゅと二度、三度、ついばむように口づける。

フローリスは呼吸のタイミングがわからなくなったのか、甘い吐息を漏らした。



「はにゃ、ふ……ぁ…………」



フローリスは帽子を落として、細い腕をしがみつくように巻きつけてきた。

そして腕の力がぎゅっと強くなったと同時に、彼女の体が発光する。


最後に少しだけ唇を舐め、俺は顔を離した。

口づけの余韻で力が入らないフローリスの体をもたれさせる。



「は……はひゃ、お兄様とこんな……禁断の関係に……ど……どうしまひょう……」


「急げ、自分が使える中で一番強い魔法をトカゲに当ててやれ」


「は、はい……やってみますわ!」



フローリスは杖の頭に埋め込まれている水晶をクリスタロリザードに向けた。



「焦熱よ、貫け──フレイムランス!」



杖から一直線に炎の槍が飛び、クリスタロリザードに当たる。

魔力の量も増えているフローリスは何発も雨のように炎を浴びせた。


俺が燃やされたときの色を思い出させる炎に包まれたクリスタロリザードは、活動を停止した。



「やりましたわ! ルー兄様!」


「よし……最後は……ああ、でもアザリィは攻撃はできないよな? じゃあお前はしないでいい」



俺が振り返ると、目の前には唇をきゅっと噛み、頬を紅潮させたアザリィがすでに立っていた。

そして目線が絡んだ次の瞬間、何も言わずにアザリィから唇を重ねてきた。


柔らかくて、熱い。


──!?


しかしそれは一瞬だけで、すぐに彼女の舌が割って入ってきた。

こうすれば効果の発動が早くなると思ったからか?

視界にはアザリィの長いまつ毛が映っている。


アザリィの舌が、ぬるりと俺の中に入ってきて──まるで感情を流し込むように、濃密に絡めてくる。


くちゅ……と、水分の音が耳に届いた。

喉の奥がかすかに鳴って、思わず彼女の肩を掴んだ。



「……ん、ふ……ふぁぁ」



息の混じった声が漏れて、鼓膜に触れる。

うるおいのある唇の感触と、胸元にあたる柔らかすぎるふくらみの感触が、押し寄せてくる。



「はふ……くちゅ」



これは──あくまで強化(バフ)の儀式だ。

そう、ただの魔族式の接触で、なんでもないことだ。


だというのに、どうして身体が熱い?

気を抜くと理性が焼き切れそうだ……人間族(ヒューマン)ごときになんという失態だ。

……まったく、こいつはどこまで無自覚に、魔王の欲を煽ってくるのか。


妙に時間がかかっている。聖女ゆえに魔王の力を拒んでいるのか?

ならばもっと口内経路による伝達を強めるまでだ。

俺もアザリィと同じように舌を伸ばして、さらに激しく絡ませた。


……さあ聖女よ、魔王の力を受け取れ!



「んっ! んっ! んんっっ!!」



アザリィは身体を痙攣させながら発光して、離れる──唇と唇には細い糸が渡されていた。

彼女は冷たい床にへたりこんだ。



「ル、ルーシくん……本当はもっと……」



と言葉の途中で切ってから、アザリィは顔を真っ赤にした。



「そそそ、そうだった! 行かなきゃ!」



アザリィは立ち上がって走った。

彼女が向かっていったのは、壁際で今まさに噛み殺されそうになっている《銀獅子ファミリー》の連中だ。



「汝が光、盾となりて──セイクリッドシェル!」



《銀獅子ファミリー》の前に立ったアザリィは魔法陣型の防御シールドを出した。おそらくは初歩的な魔法なのだろうが、バフの効果でサイズが大きく頑丈で、クリスタロリザードの攻撃を防ぐには十分だった。


そうかアザリィは助けに行きたかったのか。

しかし、あんな連中であっても、苦しんでいたら見捨てることはできないのだな。

なるほど……これが白銀聖女アザリィ……か。



「エドゥネもフローリスも効果時間は過ぎている……最後は俺で締め、だ」



俺はアザリィの防御シールドに体当たりをしているクリスタロリザードの方へゆっくりと歩いた。

俺を見つけたクリスタロリザードは目を光らせる。


俺はふわりと高く跳び、ホールの天井近くから見下ろす。


そして重力のままに下降し、黒き刃を振るって定めを断つ。

つるりとした真っ平な切断面を残し、トカゲの首が舞った。


クリスタロリザードの体は砕け、銀の鈴のような音がダンジョン宮内に響き渡る。

あっけにとられていた冒険者たちは隣と顔を見合わせている。



「し……信じらんねぇよ。あの《銀獅子ファミリー》がまったく歯が立たなかったモンスターを、あんなにアッサリと全滅させやがった」


「な……なんだ、あの姉ちゃんたち……とくにあの少年……ヤバすぎだろ……」


「さっきの跳躍じゃなくて飛んでたよな? それにあんな無駄のない剣さばきを見たのは……はじめてだ」



俺はダンジョン宮内にいる全冒険者に届くように大きく声を張り上げた。



「見たか、か弱き冒険者たちよ! これが我らパーティーの力だ! 我らに手向かうと、どういうことになるか、肝に銘じて忘れるな! 今こそ声高に讃えよ、我らの勝利を! 我らの存在を!」



拍手がまばらに起こり……そして「凄かったぞ!」「顔見知りにもあんたたちのことは言っておく!」と声があがったのをきっかけに、大きな歓声と拍手に包まれた。


俺が作ったモンスターだとも知らずに愚か者どもが……ふん、拍手も歓声も、俺にとってはただの道具だ。



そしてエドゥネはスキルの《掃除開始》でダンジョン宮内に散らばったクリスタルのかけらを一箇所に集めはじめた……まさか名前そのまんまなメイドのスキルだったとは……。

あらかた片付けが終わると、ひとりの身なりの良い青年がエドゥネに近づいてきた。



「あなたの美しさと強さに心を奪われてしまいました。ぜひ妻としてお迎えしたいのです! 私はいくつもの船を所有している貿易商で苦労はさせません!」


「ありがとうございます……けれど私はフローリス様の専属メイドです。それと私は……もうご主人様に……身も心も捧げてしまって……いるのです」



そう言ってエドゥネは、俺のことをじっと見つめてきた。

フローリスは《銀獅子ファミリー》を一列に座らせて、説教をしている。



「未熟っぽいとか見た目で舐めてると、痛い目みますわよ! 女の子にああいうことはもう止めなさい! おわかり?」


「へ……へい! 申し訳ありませんでした! もういたしません!」


「それと……私のことをちびっこって言ったのは、どなたでしたっけ?」


「ひいぃぃぃぃ! ご……ご勘弁を!」



後ろから俺の服の端が、クイックイッと引っ張られた。

振り返ると、そこにはアザリィがなにかを言いたげな顔で立っていた。



「どうした?」


「やっぱりルーシくんって同じパーティーっていうには実力が違いすぎるよね……だけど、私ももっと頑張るから、これからも一緒にいてもらえるかな?」


「そりゃ、もちろんだ。それとな、お前らは絶対に強くなる……それは本当だ。だから精進するんだな」


「わあ! 頑張ったら褒めてほしいな! そしたら私、もっと頑張れるから! それか頑張ったら、ご褒美にまたさっきのを……」


「さっきの?」


「……唇……とか……その……もっと長く……」



アザリィの顔はとろけていた。そしてハっと我に返り、ブンブンと手を振った。



「ななな! なんでもないよ! でもでも、もしかして私が強くなったら、キスしなくてもよくなっちゃうのかな……ふぃぃ、それは悲しすぎる!」


「お前……焦ると心に思ってること、そのまま口に出しちゃうんだな……」



なるほど、あの“儀式(キス)”の効能は、強化(バフ)だけじゃないらしい。

覚えておこう。



さっきまで拍手と歓声に包まれていたダンジョン宮の広間で、俺は目を閉じる。

瞼の裏に浮かぶあの光景──俺が作り出したモンスターを倒させ、あいつらの名声を広めさせ、賞賛を浴びせさせる。


“英雄”とは、力だけでなるものじゃない。

“そう見えるように演出してやる”──それが魔王の支配術だ。



「ルー兄様! 皆が私たちのことを“未来の三英姫”だなんて言ってますわ! わたくし、これからもっと頑張ります!」


「ご主人様……次にバフをいただける時のために、体調管理も徹底いたします。どんな躾でも、お申し付けくださいませ」


「おかしいな……男の人って、ちょっと怖かったはずなのに……でもルーシくんは全然平気……というかむしろ、甘えん坊になっちゃってる……」




くくっ、いい子たちだ。たっぷりと、飼い慣らしてやる。


三者三様の笑顔。

俺のために尽くしたいと願い、俺を信じ、俺に甘える。


お前らは、俺の手のひらで踊っていればいい。

前世での英雄たちは、今世では俺の眷属(けんぞく)なんだよ──何もかも俺のものだ。


いずれこいつらが、どんな目で、どんな声で、どんな体勢で俺を求めるようになるのか。

その瞬間を思うだけで、退屈はしない。


もし真実を知れば、こいつらは俺を憎むだろうか?

それでも構わない。

たとえ憎まれたとしても、俺は奪う。


狡猾で不道徳な──“まさに魔王”というやり方で。


無邪気な顔で三人が俺に近づいてきた。




──俺は、とびっきりの“優しい笑顔”を返した。



(完)

読んでくださってありがとうございました!


全力で「歪みまくった魔王」を書いてみました。

ドン引きされそうですが、倫理はとうに投げ捨てました。

……とはいえ彼女たちも“飼い慣らされたまま”で終わるとも限らないかも。


いつか続きも書けたら、また読んでもらえると嬉しいです!


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