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八尺様2025

作者: leemero


 その女は田舎にしか現れない──。


 幼い頃、祖母はよくそう言っていた。

 背丈は二メートルを超える異様な長身。

 白いワンピースをまとい、「ぽぽぽぽ……」という声を発しながら近づいてくる女。


 出会ったら最後、魂を持っていかれる。

 だから子どもは決して一人で山道を歩いてはいけない。


 当時はただの昔話だと思っていた。

 だが2025年、その存在は再び姿を現し──しかも、かつてない形で広がり始めていた。

第一章:監視カメラの女


 都市伝説配信者の亮介は、その夜も視聴者から届いた不気味な映像をチェックしていた。


 防犯カメラの映像。

 人影のない田舎の農道。ノイズ交じりの荒い映像の奥に、奇妙なものが映り込んでいた。


 白い服を着た、異様に背の高い女。

 街灯に照らされたその影は、普通の人間よりもはるかに大きい。


 再生を繰り返すうち、亮介はイヤホンから微かな音を聞き取った。


「……ぽぽぽぽ……」


 血の気が引く。祖母の声が蘇った。

 ──八尺様。


 だが恐怖よりも、配信者としての好奇心が勝った。

 亮介はすぐに動画を編集し、自分のチャンネルにアップロードした。


 翌朝、再生数は10万を超えていた。


第二章:SNSの拡散


 コメント欄は異様な盛り上がりを見せていた。


「これガチじゃね?」

「背高すぎて草」

「最後、カメラに近づいてきてないか?」


 切り抜き動画はSNSで爆発的に拡散され、トレンド入りする。

 だが同時に、不穏な報告も増え始めた。


「動画を見た後、窓の外に女が立ってた」

「夜中に“ぽぽぽぽ”って声が聞こえた」


 最初は悪ふざけだと思っていた亮介も、やがて違和感を覚え始める。

 視聴者の中で数名が、アカウントごと消えて行方不明になるという事件が続いたのだ。


第三章:侵食


 真相を探るため、亮介は音声データをAIで解析した。

 すると、ノイズの奥から複数の声が浮かび上がった。


「見てる」

「迎えに行く」

「次はお前」


 冷や汗が背中を伝う。

 八尺様はただの“映像の怪異”ではない。

 デジタル信号そのものに干渉する存在へと変貌していたのだ。


 その夜から、亮介のPCとスマホは異常をきたす。

 勝手にカメラが起動し、彼の寝顔が撮影され、未公開の映像が自動でアップロードされる。


 そしてすべての映像の背景に──背の高い女の影が立っていた。


第四章:犠牲者


 現象は亮介だけにとどまらなかった。

 拡散動画を見た他の配信者や視聴者のもとにも八尺様が現れ始める。


 あるストリーマーは生放送中に突然怯え、画面から消えた。

 後日、彼の部屋には誰もいなかったが、配信映像には“窓越しに覗く女”がはっきり映っていた。


 SNSではこんな噂が広まった。

 「八尺様の動画を最後まで見た者は、一週間以内に姿を消す」と。


 すでに都市伝説はネットを介して感染し、現実に犠牲者を出していた。


第五章:終焉


 亮介は最後の検証として、自分のチャンネルで“八尺様に挑む生配信”を企画した。

 視聴者数は瞬く間に10万人を超え、チャットは熱狂に包まれた。


 しかし配信が始まって30分後、カメラにノイズが走る。


「後ろにいるぞ!」

「窓の外!窓の外!!」


 チャット欄が一斉に騒然となる。

 亮介が振り返った瞬間、窓ガラスいっぱいに巨大な女の顔が押し付けられていた。


 その口が動くと同時に、マイクから低く歪んだ声が響いた。


「ぽぽぽぽ……迎えに来たよ。」


 悲鳴とともに配信は強制終了。

 翌日、亮介は消息を絶った。


 しかし彼のチャンネルは削除されることなく、今も自動で動画を投稿し続けている。

 暗い道、無人の部屋、監視カメラの映像──

 そして、そのどれもに必ず“背の高い女”が映り込んでいるのだ。


 ネットでは今も噂が絶えない。

 「八尺様はもう田舎の怪異ではない。動画を通じ、都市にまで侵食してきている」と。

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