第3章 -6話
時は流れ、八月。
爽やかな夏の朝、ハインは小さなかまどでパンを焼いていた。
早朝起きて生地を作り、発酵させている間にランニングと筋トレをして、
またキッチンに戻ってきてパンを焼く、というルーティンにもすっかり慣れたものだった。
だいたいいつも、成形の手間がないリュスティックと呼ばれる類の田舎パンだ。
隣の大きなかまどでは、ハイデマリーがスープを作っている。
大きな平たい石の上に薪を置き、石の上で直接火をくべるタイプのかまどで、大小の鍋が鎖で吊るされている。
ハイデマリーはそれを味見したり、目玉焼きを作ったり、お皿を並べたり、忙しく立ち回っていた。
そこに裏口から、ミハイルがヤギの乳を搾って戻ってきた。
後ろからは一緒に乳搾りに付いていったクララが、ニワトリの卵を入れた籠を抱えて入ってくる。
牧歌的な朝の風景。
パンとスープと目玉焼き。それと畑で採れる野菜のサラダ。ヤギの乳で作るヨーグルト。
すべてが大きなダイニングテーブルに並ぶ。
だいたいいつも同じメニューだが、不思議と飽きない。
「リシャ、朝ごはんだよ」
キッチン&ダイニングから続きになっているリビングルームを覗いて、ハインは声をかける。
そこは暖炉とソファのある、この家の団欒の場所だ。
真ん中に応接セットがあり、壁伝いにもソファがいくつも配置されている。
住んでいる人間より座るところが多いのが、このリビングルームの特徴だった。
この部屋の東側には、窓が壁から張り出すように設えられていて、そこにもソファが作りつけられている。
ちょっとしたサンルームのようになっており、そこがリシャのお気に入りの場所だった。
今も朝陽を燦々と浴びて、猫のように丸くなって居眠りをしている。
彼女はどうにも寝起きが悪く、起きて来てはどこかで二度寝をするのが慣例だった。
およそ家事というものは、そもそもまったくしない。
「おはよう」
「……おはよう」
ソファの上に身を起こしたリシャに挨拶すると、一応の挨拶を返してくれた。
まだ向こうから話しかけてくることはほとんどないものの、こちらから話しかければ返事はしてくれる。
それがここ二ヶ月ほどの間で分かったことだった。
真っ赤な髪はまだ櫛を入れていないようで、寝癖もそのままだ。大きなあくびをする。
そしてその小さな体に見合わない、大きな剣を抱えて歩いてきた。
剣というか確かあれは、太刀という種類の刀というものだと教えられた。
眠っている時にも抱いているし、起きているほとんどの時間も、彼女は刀を手放さない。
癖のようなものだとミハイルは言っていたけれど。
「やあ諸君、おはよう」
ぺたぺたと裸足で、レギィネイラが螺旋階段を下りてきた。
いつもは別棟の研究室のソファで雑魚寝していることが多いのだが、昨日はこっちで寝ていたのか。
黒のスリップドレスにガウンを羽織っただけという、相変わらずだらしのない格好だった。
全員、リシャですらきちんと着替えているというのに、朝から風紀を乱しまくりである。
「ちょっと、ちゃんと着替えてきなさいよ!」
ミハイルが言い、ハイデマリーがレギィネイラのガウンの前をしっかりと閉じさせる。
されるがままになっているレギィネイラを見ていると、
世話を焼いてほしくてわざとやってるんじゃないかとすら思えた。
何もしていないレギィネイラが一番に食卓に着き、その両脇にミハイル、リシャ。
向かい側にハイデマリー、クララ、ハインが座る。
「神よ、今日の生きる糧をお与えくださり、感謝いたします」
食べる前に神様にお祈りをするが、誰よりも意外な人物である魔女が祈りの言葉を言う。
初めのころ驚いてそれを聞くと、魔女は「だってこの世には魔法でも作れないものがあるだろう。
それを作ったのが神だよ」と、さも当たり前のように言われて二重にびっくりした。
お祈りが終わると、和やかな朝食の時間となる。
が、リシャだけは食べている時ですら刀を手放さない。
肩に立てかけたまま、気のなさそうな様子でフォークでサラダをつついている。
「リシャ、刀。食べてるときは置いときなさいっていつも言ってるでしょ」
「……これがないと落ち着かない」
「知ってるけど。ここは騎士団じゃないんだからね?」
リシャは渋々、刀を身から離して、食卓から見えないように長椅子の上に寝かせた。
ミハイルが注意するのも、もはや見慣れたいつもの光景だ。
しかし、騎士団というワードは初めて聞いた。
「騎士団って、教会の騎士団のこと?」
「ん? ええそうよ。あら、マリーは何も話してないの?」
「そうですね。聞かれませんでしたので」
「あなたらしいわねえ。あのね、アタシたちは皆、教会の対魔族騎士団出身なの」
「え、ていうことは、魔族と戦ったことがあるってこと?」
「もちろんよお。こう見えて強いのよ、アタシたち」
ミハイルが力こぶを作って見せ、垂れ目がちの甘い顔でウインクする。
ちなみに敬語や尊称はいらないと言われて、最近はずいぶん気軽な口調で彼らと話すようになっていた。
レギィネイラとハイデマリーを除いては。
魔女はともかく、ハイデマリーに関してはもう五年も敬語で話していたので、
今さらそれを変えるのが難しかったのもある。
変わったことと言えば、マリーさんがマリー先生に変わったくらいか。
「強いのは知ってるけど……身をもって……」
「あはは、あんなの強いうちに入らないわよ? まだまだ手加減してあげてるんだからね?」
「五体満足で稽古を終えられてるうちは、優しいもんだよね」
「そうよねー! 手足がちぎれちゃったりしてないもんね、まだ」
「ちぎれ……!?」
「もう、食事中にするお話じゃないわ」
「あっは、ごめんごめん」
クララが眉をひそめてたしなめ、ミハイルがフワフワした癖っ毛の金髪をくしゃくしゃと掻いて笑う。
いや、笑ってるけどこれから先、手足がちぎれる可能性があるってこと?
とそこで、それまであくびをしながら話を聞き流していた魔女が、ふと聞いてきた。
「それで、ハイン君の方はどんな感じなんだ?」
「そうねえ。体術と剣術は、まだまだだけど見込みはあるわね。元々身体能力は悪くないのよ。
それで今日から本格的に魔力の使い方を教えようと思ってるんだけど」
「なるほどな」
確かに昨日の稽古の終わりに、彼から魔力の使い方を教えると言われていた。
魔力と言われてもピンとは来ないのだが……そんなハインに、魔女はニヤリと笑った。
「きっと君は苦労するだろうよ。何せ先天的な魔力を一切持っていなかったわけだからな」
「そういうものですか」
「そういうものだ。クララは魔力を持って生まれているが、君は違う。まったくの只人だった。
そもそも君みたいなのが魔人になること自体、レアケースだからな」
「なぜですか?」
「はっは! むろん一般人が魔人になるなんて前代未聞だからだ。
魔人とは本来、教会に属する者がなるものだ。教会の騎士とか聖職者、魔法使いとかな。
そもそも常人とは違って彼らは魔力持ちが普通なのだよ」
それを聞いても、なるほど!と言うより、そういうものなのか……という感じだった。
つまりハイデマリーやミハイル、リシャは元々魔力を持っていたということなのか、と。
それがどんなに大変な差なのかを、この時のハインはまだまったく分かっていなかった。
・・・ + ・・・ + ・・・ + ・・・
「魔力っていうのはね。本来は血統で受け継がれるものなの」
晴れた空の下、島の西側にある訓練場。
その草原で、ハインはミハイルと立ったまま向かい合っている。
リシャは少し離れた場所で刀を抱いて石の上に座り、興味なさげにあくびをしていた。
「魔力を持つ者は、叡智の都市の魔法使いを祖先に持つと言われているわね。
アタシの家もそうで、代々魔力があるわ。魔法使いになれるほどじゃなかったけどね。
だから生まれつき魔力があるのが当然だったから、あなたみたいに後天的に魔力を得た人に
うまく教えられるかイマイチ自信はないんだけど……」
ミハイルは腕組みをして、しばし考え込むようにハインを見下ろす。
癖っ毛の柔らかそうな金髪が、風でふわふわしていた。
今日もスタンドカラーの白い長袖シャツで、腕まくりしている。黒のスラックスに、丈夫そうな革の運動靴。
稽古中に彼の服が汚れた所は、まだ見たことがない。
対するハインはいつも稽古着として着ているTシャツと丈夫なズボンだが、だいぶくたびれてきている。
「体の中に、今までになかった感覚があるかしら? 血のように力が体の中を巡っている感覚よ」
「ああ、うん。手術を受けた後から、何か体の中に今までにない感覚があるのは分かるよ」
「てことは、ちゃんと自覚はできてるみたいね。問題はその使い方よ。
いいこと? 魔力の使い方には、大きく分けて二通りあるわ。
まず一つは、契約している精霊に魔力を渡したりして魔法を使う、魔法使い・魔女的な使い方。
これはクララみたいな、魔法特化型ね」
「うん」
「二つ目は、魔力を自身にまとって体を強化する・瞬間的に爆発的な力を生み出すっていう、
エネルギー的な使い方。俗に言う兵士型で、ハイデマリーやあなたは完全にこっち。
アタシやリシャも基本的にはそうだけど、ちょっと違っててね。アタシは魔法も少し使えるの」
「そうなんだ」
頷くものの、さすがにピンとはこない。
首を傾げ、そのままミハイルに質問することになる。
「魔力を、まとう? って、どうやればいい?」
「魔力を薄く体全体にまとう感覚よ。これだけで単純な物理攻撃はほぼ通らなくなるわ。
今は木刀で稽古してるけど、この先はいずれ真剣を使うことになるからね。
その時にこれができてないと、いくら魔人が丈夫にできてても痛い目をみることになるわよ」
「な、なるほど……」
「逆に一点に集中させれば、岩でも砕けるわよ。拳や刀に魔力を集中させる感覚ね。
応用で、一点集中で鉄壁の防御として使うこともできるわ」
「へえ……」
「とりあえずまず、木刀でやってごらんなさい。
木刀に魔力を集中させて、思いっきり殴ってこれを破壊すること。リシャ」
「ん」
ミハイルが呼ぶと、それまで暇そうに座っていたリシャが立ち上がる。
そしてそれまで腰を下ろしていた一抱えほどもある石を、ひょいっと抱き上げた。
ふらつくこともなく軽々と運んでくると、ハインの目の前にドスンと下ろす。
足元から結構な衝撃があったので、かなり重いはずだ。
「……これを壊すの?」
「そうよ。魔力をちゃんと木刀に集中できれば楽勝だからね」
「あの、魔力ってどうやって集中すれば?」
「それを説明するのが難しいのよねえ。アタシたちにとっては感覚でしかないんだもの。
だからまあ、習うより慣れろ的な?」
てへっ!とミハイルが笑う。いや、この説明じゃぜんぜん分からない。
ただ、理論とかじゃないんだ……ということだけ理解した。
とりあえず、やってみるしかないようだ。草の上に置かれている木刀を手に取る。
足を肩幅に開いて立ち、深呼吸。両手で掴んで、じっと木刀を見つめる。
魔力というものが体を巡っているらしいことは、なんとなく分かっている。
今までにない感覚をもたらす、この力。
集中……魔力を集中させる。木刀に。
「はっ!」
木刀を石に向かって振り下ろす。がつっ、という鈍い音がする。
思い切りやったけど割れるどころか、欠けもしなかった。
「どう? って聞くまでもないっか!」
「手がしびれる……」
「そうよね、ほぼただ殴っただけだからね」
「びっくりするくらいできてないな。魔力がなかった人ってこんな下手なんだ」
「こらっリシャ。初めてなんだからしょうがないでしょ」
リシャがものすごく辛辣に聞こえる……! 悪気のなさそうなところがさらに。
はいはい気を取り直して、とミハイルが軽く手を叩く。
「でも、まったくできてないわけじゃないわよ。どんどんいきましょう!」
「はい……!」
実感として分かるまで繰り返しやるしかないみたいだ。ハインは素直に頷く。
反復練習が必要なのは、バイオリンだって同じだ。
汗を拭き、ハインは今一度、体に巡る魔力に意識を集中させようと試みた。
正午を知らせる鐘楼の鐘が鳴る。
あれから二時間ほど挑戦したものの、石は相変わらずまったく割れなかった。
手は痛いし息は切れてくるしで、さすがにもう限界に近い。
ミハイルの言うようにたぶん、まったくできていないわけではないにしろ、その先に進めない。
「うーん、これは別のアプローチにした方がよさそうね?」
「そうだね。この調子だと何十年もかかるよ」
ぐさり。地面に片膝ついてへたり込むハインを、リシャの容赦ない言葉が突き刺してくる。
だが言い返す言葉もない。ただ木刀に魔力を集中する、というだけで汗だくで疲労困憊だった。
手も震えて力が入らないし、少し休まないとこれ以上はできそうにない……と思うのだが、
そんなハインの前に、リシャが立ちはだかった。
「追い詰められた方が力を発揮するタイプなんじゃない?」
「ちょっと、リシャ?」
怪訝な顔をするミハイルに対し、リシャはいつも離そうとしない自分の刀を押しつけた。
いつの間にか彼女は木刀を手にしている。
ちなみにこれまでただの一度も、彼女から稽古をつけてもらったことはない。
……嫌な予感がした。
「立て、ハイン。僕が稽古をつけてやる」
「はい……」
やはり。呼吸も整わないうちから、言われるままに木刀を握って立ち上がった。
否も応もない。どんなに苦しくとも、弱音は吐かないと決めている。
「ほどほどにね?」
「僕はまどろっこしいのは嫌いだ」
ああもう、という仕草でミハイルが天を仰ぐ。
リシャがやや腰を落とす。対するハインも、苛烈な打ち込みを覚悟して身構えた。
「木刀全体に魔力を込めて、僕の打ち込みを防いでみろ。行くぞ」
予告してくれただけ優しいと言うべきかもしれない。
が、次の瞬間にはリシャの姿をほぼ視認できなかった。
ほとんど本能だけで、リシャの木刀を木刀で受け止める。
木刀とは思えないすさまじい音がした。衝撃がびりびりと手を伝う。
「うっ……!」
「できてない。次」
次々にあらゆる角度からリシャの木刀が振り下ろされる。
ただ防ぐだけで精いっぱいで、だんだん後ろに押される。魔力など込めようだとか、意識している暇もない。
そのうち痺れてきて手が緩み、弾き飛ばされた木刀が宙を舞って背後に落ちた。
もちろんのこと拾う時間などくれないリシャが、容赦なく追撃してくる。
体のすぐ側をかすめる剣先にヒヤッとしながら、地面を転がるようにしてなんとか木刀を拾う。
そこにさらに頭上から振り下ろされた一撃。確実に頭を狙っている、絶対にただでは済まない強さで。
ぞわっと鳥肌が立ち、地面に片膝ついた状態でただ必死で受け止めた。
すると重い一撃を覚悟したのに、なぜかあれっ?と思うくらい軽い。
「今できたな」
リシャが動きを止めてそう言った。
が、ハイン自身は狐につままれたような感覚だった。今の、どうやったんだ?
「まぐれかどうか確かめようか」
「ちょっ……リシャ!」
ミハイルの焦った声がする。
はっとして顔を上げると、リシャが木刀を捨ててミハイルの手から刀を奪い取っていた。
小柄なリシャと同じくらい大きな刀だ。刀の鯉口を切り、鞘を払うというより刀を振り回すようにして抜く。
放り出された黒塗りの鞘が草の上に転がった。
ずらりと抜かれた太刀の白刃が、夏の陽光にぞっとするほど照り輝く。
むろんのこと本物の刃、真剣だ。
「アンネッテ!」
リシャの唇が鋭い声で誰かを呼んだ。
刹那、リシャの体から炎が立ち昇る。それはリシャの髪のように真っ赤な炎だった。
炎は一瞬激しい音を立てて燃え上がり、そして何かの形を成していく。
見る見るうちにそれは、燃える炎のようなドレスをまとった真っ赤な髪の少女の姿になった。
そのいたずらっぽくきらめく瞳もまた赤だ。
少女は宙を泳ぐように舞って、リシャの背後からするりとその首に抱きつく。
『お呼びですか、リシャさま?』
「アンネッテ、僕らの力を少し見せてやろう」
『はい!』
リシャの言葉に、炎の少女がうれしそうに破願した。
ぼうっと音を立てて燃え上がり、その姿は炎となって刀に宿る。
リシャが初めて、にやりと笑った。
「ああもう! ハイン、死ぬ気で防ぎなさいよ!」
何が起きたのか分からずぽかんとするハインに、ミハイルの檄が飛ぶ。
リシャが炎をまとった刀を構える。
つまり……あれを防げって!? 木刀で!?
焦った刹那、リシャのその姿が、出し抜けに掻き消えた。
次の瞬間、どこから来るかも知れない一撃をどうして防げたのか、後になっても分からない。
胴を横薙ぎに狙ってきた刀を、無我夢中で受け止めていた。
だだの木刀が真剣を受け止められるはずがないのに、その瞬間、確かに受け止めていたのだ。
だがそれも一瞬の均衡だった。
「う わ あ あ っ!?」
突如ものすごい力で、どんっ!と体を吹っ飛ばされた。
体が、放り投げられた人形みたいに、天高く投げ出される。
「でえっ!?」
気づいた時には湖の上にいて、島の地面が遠く見えていた。体が宙を舞っている!
そしてそのままなすすべもなく落下して、ハインの体は湖に叩きつけられた。
ドパァン!という派手な音とともに水柱が高く立つ。
体は湖に深く沈んでしまい、水泡で一時何も見えなくなるほどに視界が真っ白になる。
ゴボゴボという音が耳を聾する。水泡の隙間から、きらめく水面が無性に怖いほど美しく見えた。
もう、ただただ夢中で水を掻いて、水面へと浮上する。
「ぷはあっ! ゲホッゲホ! は、はあはあ!」
「ハイン、大丈夫ー? 生きてるー?」
桟橋のところまで駆けつけてきたミハイルが呼んでいた。
その後ろから当のリシャが、刀の峰を担いでゆったりと歩いてくる。
炎みたいな少女はもう姿が見えなかった。
なんとか桟橋まで泳いでいき、掴まって酸素を貪る。
ハインが上げた水しぶきとともに降ってきたらしい魚が、何匹もその辺で跳ねていた。
リシャが桟橋まで来てハインを見下ろすと、悪びれもせず頷く。
「まぐれだね。あれは」
「もう、マリーといいリシャといい、どうしてこうやることが性急なのよ!?」
「マリーの気持ち分かるよ。見てるとじれったくなるよね」
「もう! 大丈夫? 今のはあなたの魔力がコントロールしきれずに暴発しちゃったのよ。
ほらしっかり、掴まって!」
ミハイルに桟橋に引っ張り上げられ、周りの魚たちのように震えながら咳き込む。
死ぬかと思ったのはもうこれで何度目だろうか。
「ハ、ハイン? 何があったの?」
丘の上からクララの驚いた声が聞こえた。
昼の休憩になっても戻ってこないから、探しに来たのだろうか。
その傍らにはハイデマリーの姿も見える。
そしてあの大きな狼の姿も、遠く離れた場所に見えた。
頭がくらくらする。どうやら失神しかかっているようだと、どこかで冷静に考えていた。
ちなみに打ち上げられた魚は、ムニエルとしてその日のおいしい夕食となり、
怪我の功名だなと魔女に大層笑われた。




