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第3章 -5話

輝かしい夏がやってきた。

七月の終わり。爽やかな風が吹き渡り、波立つ湖面が眩しいほどにきらめいている。

緑は濃く、花々は咲き、虫や小動物が活発に息づく、むせかえるほど命の気配が濃い季節。


「また防戦一方になっていますよ」

「っ……!!」


島の西側に広がる草原、そこが魔人たちの訓練場だった。

言い返す余裕などなく、ハインは連続して襲い来るハイデマリーの拳をからくもかわす。

手術からひと月足らずで傷が塞がったハインは、魔人として戦う訓練を受けるようになっていた。

現状、ハイデマリーからは体術を、ミハイルからは剣術を教えられるようになって、ひと月が経とうとしている。


身一つで十分武器になる。

ハイデマリーにそう教えられたとおり、体が魔人として安定してくるにつれ、

その常人離れした身体能力をまざまざと感じるようになっていた。

膂力、跳躍力、動体視力、何もかもが今までとは違っている。


最初のうちは力の調節がうまくできず、食器やドアノブをはじめ色んなものを壊してしまった。

今はずいぶん慣れたが、それでもクララの手を握ったりするのはまだ怖くてできない。

集中すれば鳥の羽ばたきさえゆっくりと見え、つぶさに観察することができるし、

二階建ての建物の屋根にだって軽々跳び上がれる。

初めて跳び上がってみろと言われて、半信半疑で助走をつけて跳んだら三階近くまで跳び上がってしまい、

そして何事もなく地面に着地できた時には足が震えてしまった。

ひどく殴られても投げ飛ばされて怪我をしても、翌日にはけろりと治ってしまう。


身体能力は申し分ないのだが、いかんせん心がついていかない状況だった。

だいたい今までバイオリンばかり弾いて生きてきて、戦うどころか人を殴ったことすらないのだ。

いくら心構えや基礎を教えられたところで、ハインにとっては人を殴るというその行為の壁が一番高かった。


「さっさと反撃しなさい」

「はい……!」


返事はするものの、攻撃の糸口が見つからない。隙がなさすぎる。

そもそもまだ一度だってハイデマリーに攻撃が当たったことなどない。

今も次々に繰り出される攻撃をかわす、時に受け流せればいい方で、半分は殴られている。

右から拳が飛んでくる、左腕で受ける。容赦なく左から飛んでくる拳に殴られる。

とにかく隙を見せた瞬間殴られる。訳の分からないうちに蹴られる。


「足も使えと言っているでしょう」

「わっ!?」


パン!と鋭い音とともに足払いをかけられ、無様に地面にひっくり返る。

同時に鼻の奥でツンとした鉄の臭いがし、たらたらと血が流れる。殴られすぎて鼻血が出たみたいだ。

喉に流れ込む血に噎せこんで、草の上に吐き出していると、頭上に影が差した。

今日のハイデマリーは詰襟の白い五分袖のシャツに、青いパンツ。夏だが、訓練中なのでブーツを履いている。

いつものように青い髪をポニーテールに結い、前髪は顔の左半分をほとんど隠していた。

訓練中は眼鏡を外しているので、ヘーゼルナッツのような色合いの榛色の瞳がよく見える。

太陽を背に逆光の中、眼光鋭くハインを見下ろしていた。


「いつまでもお行儀が良すぎます。そんなことでは生き残れませんよ」

「っ、はい……!」

「そうやって素直なのはいいんですが、少しいい子すぎるんですあなたは。

 ああ、そうか……だからといって、私も少し優しくしすぎたかもしれませんね?」

「はい?」

「一度、死に物狂いになってみなさい」

「へ……うわっ!?」


刹那、その場から転がって逃げる。

凄い音がして、先ほどまで自分が倒れていた地面にハイデマリーの拳がめり込んでいた。

しかも頭のあった場所に。逃げ遅れていたら、頭が吹っ飛んでいたのでは……!?


「いいですね。ちゃんと動けるじゃないですか」

「ちょ、マリー先生……!?」

「反撃しないと死にますよ」

「うわあ!」


捕まえようと伸ばされたハイデマリーの腕をかいくぐって飛び起きる。

自然と野性味を帯びた動きになっていることに、ハイン自身は気づいていない。

すかさず距離を詰めてきたハイデマリーの膝蹴りを、ほぼ無意識に膝で受け止める。

右から飛んでくる拳を左手で、左からの拳を右手で受け止める。

残る攻撃手段となったハイデマリーの頭突きを、咄嗟に同じく頭突きで迎え撃つしかなく。

すさまじい衝撃。お互いよろめいて飛び離れる。お互い額から血が滲んでいた。

さっきから鼻血が止まらない。

対するハイデマリーは口の中を切ったのか、ぺっと血を吐き出す。

血のついたその唇が弧を描くのを見て、ぞわっと鳥肌が立った。


そこからはもう、野生の応酬だった。

頭で考えている余裕などない。獣のように襲い来るハイデマリーに死に物狂いで抵抗した。

でなければ殺される、そう思うくらい彼女は鬼気迫っていた。

もはや受け身がどうとか型がどうとか言っていられない。

腕をもがれそうになり、足を折られそうになり、首を捩じ切られそうになり、

殴って振り払って暴れて逃げ回って噛みついて、なりふり構わず抗った。


気づけば、鐘楼の鐘が鳴っていた。

それはレギィネイラが魔法で動かしている、正午を知らせる鐘だ。

肩で荒い呼吸をし、睨み合っている二匹の獣は、それでもまだ戦おうとしていた。


「はいはい、そこまで! ストップ!」


パンパン!と手を叩いて、二人の間にミハイルが割って入る。

それでようやく二人は現実に戻り、拳を下ろした。

それどころかハインはがっくりとその場に両手足をついて、ほぼ倒れ込んでしまう。

今日は訓練なので動きやすい服装ということで、上下黒の丈夫な生地のズボンと半袖Tシャツだったのだが、

どちらもあちこち擦り切れたり破れたり、血が滲んだりしていた。

いつもは汚れ一つないハイデマリーの服にも、土汚れが目立つ。


「また珍しく白熱したもんね、マリー」

「……ちょっともどかしくなってしまいまして」

「これ午後からアタシの訓練できる? この子」

「どうでしょうね……」


珍しくハイデマリーの息も上がっている。

二人の会話を頭上に聞きながら、ハインは鼻血と汗を滴らせ、ひたすら酸素を貪る。

心臓が爆発しそうだ。もうこれ以上動けない、今はそう思う。


「ま、どっかでやんなきゃいけないことだったわよね。

 一つ殻を破れたじゃない、立派立派」


ミハイルが微苦笑を浮かべて、へたり込むハインの背中をポンポンと叩く。

本当に、死ぬかと思った。今さらながらに体が震えていた。


「とりあえず午後まで休みなさいな。まあ若いんだし、すぐ回復するでしょ。

 今日はアタシも厳しめにやっちゃおうかしらね!」


お、鬼ですか……? とは思ったが、おそらく、午後には動けるようになる。

己の体ながら恐ろしいことだが、少し休めばまた動けるようになるという予感がしていた。

ちなみにミハイルは平時は優しいが、訓練中はいつでも厳しい。


ハイデマリーとミハイルが行ってしまった後、ハインは草の上に寝転がった。

こんな生々しい怪我のままクララに会ったら、心配をかけてしまう。

再生能力で、ある程度傷が癒えるまで、しばらくここでじっとしていよう。

その透き通る空色の瞳に、輝かしい夏の空が映り込む。

青空に夏の雲が浮かんで、音もなくゆっくりと風に流されていく。

こんなふうにぼんやり空を眺める時間など、今思えば初めてのような気がした。

いつでも追われるようにレッスンに駆り立てられていた日々が、すでに懐かしい。


呼吸が整ってくると、ようよう起き上がる。

体中が痛い。打撲傷が体のあちこちにできていて、血が出ているところもあった。

骨折や脱臼をしていないのが奇跡のような気がする。

痛みにうめいていたその時、ふと気づいた。

今いる開けた草原の向こう、雑木林になっている辺りから、大きな獣がこちらを見ている。

銀色の毛並みをした狼だ。たぶん並んだら自分よりも大きいと思う。

もう一頭は大きな狐だということも今では知っているが、今日は狼だけだった。

あの狼は、ハインが訓練しているところをよく見に来る。

と言っても、ただ遠くからじっと眺めているだけだが。

今日も見ていただろうか? 今日は必死すぎてそんなことにまったく気がつけなかったが。


狼はハインと目が合うと、ゆっくりと踵を返し、雑木林の向こうへ消えていった。

なんだろうと思いながら顎に滴る汗を手でぬぐっていたが、自身の汗臭さに気がついて顔をしかめる。

体中、汗と血と埃でベタベタだった。体を洗い流して、午後の訓練までの間に着替えよう。

そう思い立ち、三階建ての家の裏にある井戸へ赴いた。


汗でベッタベタのTシャツを脱いで、足元に放る。

素肌の上、胸から腹にかけてあったあの大きな手術の傷は、もう跡形もなかった。

もちろん傷口を押さえていたあの文字のようなものもない。

ハインはあれから一度だけ再調整の手術を受けただけで、ひと月足らずで傷が塞がったが、

クララの方はあれから何度か手術を繰り返していて、傷口が塞がったのはつい最近のことだと聞いた。


ポンプを押して木桶に水を貯め、それを頭からかぶる。

井戸水の冷たさが傷に沁みるが、火照った肌に心地よかった。血の味がする口の中もゆすいでおく。

水を浴びるのを何度か繰り返して、犬みたいに頭を振って水気を飛ばし、ようやく生き返った気がした。

埃にまみれていた銀髪が、太陽の下で眩しいほどに輝く。


と、ふと背後に気配を感じ、ハインは振り返る。

するとそこに何か飲み物とピッチャーを乗せたトレイを持って、クララが立っていた。

半裸のハインを興味深そうに、じーっと見ている。


「うえっ!? び、びっくりした。声をかけてくれればいいのに」

「ふふ、ハインちょっと逞しくなったなって。見惚れていたの」

「いや、恥ずかしいからさ……」


そんな堂々と見せられるほどのものでも、ないというか。

均整の取れた筋肉がしっかりついたミハイルと比べたら、まだまだ貧相な体だし……。

とりあえず、干されて風にはためいている洗濯物の中から自分のTシャツを見つけてきて着ておく。

夏なので、朝干したものがすぐに乾くのはありがたい。

休憩しましょうと言われて、井戸の傍の木陰の草の上に、二人して腰を下ろした。

少し離れたところでは、ヤギたちがのんびりと草を食んでいる。


今日のクララは、スクエアネックの簡素な生成り色のワンピースだ。

ハイデマリーがどこからか手に入れてきた白いサンダルを履いている。

魔法の勉強の邪魔にならないようにか、白金の長い髪は緩くおさげに結っていた。

ここに来てひと月以上が経ち、クララはずいぶん元気になった。顔色もとてもいい。

痩せて弱々しかった体も少しふっくらとして、健康的になってきている。

その姿を見られることが、何よりうれしかった。


クララが差し出してくれたのは氷入りのレモネードで、蜂蜜の甘さが美味しかったけれど、

唇の端が切れているのでレモンがとても沁みる。


「いてて……」

「ハイン、大丈夫? 今日はずいぶん怪我してるのね」

「今日の訓練はちょっと荒っぽかったから……でも少し休めば平気だよ」


まあ、午後はミハイルに木刀でボコボコにされるのだとは思うが。

飲み終えたガラスコップを、二人の間に置いてあるトレイにそーっと戻す。

不用意に受け取ったり置いたりすると力加減を間違ってすぐに割ってしまうので、注意が必要なのだ。


「まだ力の加減は難しい?」

「意識してればなんとか。これが無意識でできるようにならないといけないんだけど」

「手を繋げるようになるまで、どのくらいかかりそう?」

「えっ? それは、えっと……ぜ、善処します」


思わぬ方向性からの質問に、しどろもどろになってしまう。

そんなハインを、クララはおかしそうにくすくすと笑って見ていた。


「ね、もう一杯いかが?」

「うん。ありがとう」


クララがピッチャーからもう一杯注いでくれる。

ガラスコップの中で、氷が軽やかな音を立てていた。……ん? そういえば。


「氷が入ってる。こんな暑いのにどうやって作ったの?」

「あら、ようやく気づいたのね? それはわたしが魔法で作ったの」

「魔法で?」

「授業で習ったの。水の精霊さんに氷を作ってってお願いするのよ。

 水の精霊さんは、わたしが一番最初に契約した精霊さんなの」

「へえ……」


頷きながら、ちらりとクララの伏し目がちな横顔を盗み見る。

このごろ確かに彼女は体が健康的に、元気になってきた。

けれどそれとは裏腹に、その心はやはりどこか沈んでいると思う。

生来の彼女の明るさは、この島に来てから……いや、あの夜から見られていない。


たぶんクララは、ハインが人ではなくなったこと、家族と会えなくなったことをずっと気にしている。

ずっと心の中で自分を責めているのではないか。そんな気がしてたまらなくなる。

クララの悲しむ顔をもうこれ以上見たくなくて、そのことに触れることもできずにいる。

不甲斐ない。でも、どうしてやればいいのか分からない。

気にしなくていいと言うのは簡単だけど、きっとそれで解決するわけじゃなくて。

自分を責めないでと言えば言うほど、きっと彼女は自分を責めるだろう。


ハインにできることといえば、とにかく落ち込んだり、弱音を吐いたりしないことだけだった。

そんな姿を見せたら、クララがきっともっと悲しむだろうから……。

……手の中でコップがみしりと軋んだ気がして、慌ててトレイにそおっと戻した。


「……クララは今日は何してたの?」

「今日はね、午前中は座学。最近は魔法陣の構築理論を教わっているわ。

 午後からは魔力を練るのと、コントロールする練習をするの。魔法で氷を作ったり、

 水をコップからコップに移し替えたりね。どっちも最近ずっとそればかりなの」

「ふうん。コントロールって難しい?」

「難しいというか……とても集中力がいるの。でもそれを自然にできるようになるまでやらないと。

 ふふ、ハインと同じね。ハインは? どんなことをしているの?」

「俺は……マリーさんとミハイルさんにひたすら戦い方を教わってるよ」


ひたすらボコボコにされてる、とは言えない。

具体的に説明したらクララは真っ青になるに決まっている。

これ以上心配させたくなかった。


「二人とも真剣に教えてくれるんだ。俺はどうしても戦い方を身につけなきゃいけないんだと思う。

 たぶん、それが自分たちを守ることになるから。とにかく、一生懸命やってみるよ」

「あまり無理はしないでね」

「……うん」


正直なところ、その言葉は守れる気がしなかった。

少々、いやそれ以上、無理をしないとできないと分かっているからだ。





・・・ + ・・・ + ・・・ + ・・・





その日の午後。

ハインはミハイルとの剣術の稽古に向かっていき、

クララはレギィネイラの研究室の、地下室にいた。

部屋の真ん中に大きな机を置き、レギィネイラと向かい合う形で掛けている。


机の上には、ガラスのコップが二つ並んでいた。

水の入ったコップと、何も入っていないコップ。

水の入った方に両手をかざし、クララは一心に集中している。

レギィネイラは椅子を前後逆にして、背もたれに身を預ける感じで座り、

その様子を黙って眺めていた。

クララが見つめる水が、しだいにコップの中で波立つ。

かと思うとまるで意志を持ったように、ぐぐぐと持ち上がってきた。


「えいっ……!」


力を込めると、水が丸い球体となって、一気に空中に浮き上がる。

波打つその水球を、今度は空のコップの方に慎重に持っていき、そおっと入れていく。

ぱしゃっと音がして、コップに水が満たされた。

それだけでどっと疲れてしまい、詰めていた息を吐き出す。


「昨日より早いじゃないか。自主練習したのか?」

「ええ。寝る前に少し」

「いいね。向上心のある子は好きだ」


レギィネイラがニヤッと笑う。

研究室にいる間は眼帯をしていないことが多いので、今日はあの魔法陣のある黒い右目が見えている。

あの目がクララはどうにも苦手だ。どうしたってあの日のことが脳裏をよぎってしまう。

それでなくとも、この人の体は父のもので、この人といると父にも見られているような、

どうにも居心地の悪い感じがする。そんな人に好きだとか言われても反応に困ってしまう。

だが苦手な人物とはいえ、こうして律儀に時間を割いて教えてくれていることには、

素直に感謝すべきだとは思っている、のだが……。


「ところで、氷の魔法はさっそく役に立ったようだねえ?」

「!? 見ていたの?」

「この島は私の庭、否、私の一部のようなものだからな。

 君たちがどこで何をしていても視ているぞ?」

「本当に悪趣味な人ね!」


少しは歩み寄ろうと思った端からこれだから!

驚いて怒るクララを見て、レギィネイラが楽し気にニヤニヤと笑う。


「最高の誉め言葉と受け取っておこう」

「つける薬がないわ……」


もはや言い返す気力もなく、溜息をつく。

まあそもそもが、『おまえたちの愛を見せろ』などとのたまう魔女である。

このくらいは想定しておくべきだったのかもしれない。

ハインに言ったらどんな顔をするだろう?

もしかしたら薄々気づいていて、あまり驚かないかもしれないが……。


「ベルベットローズの魔法のこと、よもや忘れてはいるまい?」

「……忘れるわけがないわ」


そのためにハインは巻き込まれたのだから。

じっと睨むようにしているクララに、しかし魔女は笑みをまったく崩さない。


「魔法は機能している。それは間違いない。この前君の体を診たとき、種は芽吹きかけていた。

 君と彼の薔薇はリンクしているからね、どちらかを見れば今の状態が分かるのだ。

 まあ、君が自我を失わずに存在できているのが何よりの証拠だが……経過はまだなんとも言えないな。

 とっくに芽吹いていると思っていたんだが。二人の仲は順調なのかね?」

「…………」

「まあいい。重ねて言っておくが、くれぐれも彼にこの魔法のことを話したりするなよ?

 一度知られたら、この魔法を二度とかけることはできないからな。

 そんな結末は許さんぞ。最後まで見せてもらわないと困る」

「……あなたって本当におかしな人ね。わたしたちなんか見ていて楽しい?」

「それはもう! 彼は私の見込んだとおりの男だったろう? クララ。すべてを捨ててまで君を選んだ。

 彼は本当に君を愛しんでいる。今後どう成長するか実に楽しみじゃないか」


すべてを捨ててまで、君を。

嬉々として魔女は言うが、クララにとっては聞くたびに心を引き裂かれるような思いがする言葉だ。

なぜこんなことを楽しむことができるのか、本当に理解ができない。

聞かないふりをして、再びコップの水を移し替えるために集中しようとする。


「なあ、クララ。君は私のことが嫌いだよな?」

「え?」


出し抜けにレギィネイラが聞いてきて、集中力が霧散してしまった。

その質問の意図もよく分からず、眉根を寄せる。


「突然、何を言い出すの?」

「いいから答えてくれ」

「……わたしは別に、あなたのことが嫌いというわけじゃないわ。

 ひねくれた人だとは思っているけれど……」

「ふはは、そうかね。まあ今はそれでもいいだろう」


レギィネイラが何か含みのある言い方で、クックと喉を鳴らして笑う。

いったい何を考えているのだかまったく分からない。嫌われたいとでもいうのか?

魔女が自分に何を求めているのかが分からず、クララは訝しげに眉をひそめるのだった。

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