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風が吹けば桶屋が儲かる

作者: T.K.U
掲載日:2025/12/05

これはバタフライエフェクトを起こされた結果なのか?

さっきまではビルの屋上から人生を終わらせようとしていたのになぜ今、私は名前も知らない少女を助けているのだろう?

ーーー

今日も残業だ、クソ上司が定時間際に押し付けてきた仕事はデスクの上に積み上がり終わる気配を見せない。

時刻は深夜23時

あと30分もすればビルの警備員がこのフロアを巡回する時間帯になるのだがそんなことを知っているほど自分が残業ばかりの日々だと実感してしまい心底嫌な気持ちになりつつ、いつから私は深夜勤務の仕事に転職したのか?と考える。

定時に上がれたことなど数えるほどしかない。

しかも今日は珍しく誰もいない、いつもなら自分以外にも数人、残業をしている人がいて缶コーヒーを飲みながら上司の愚痴をこぼしてガス抜きをする時間でもあるが今日は驚くほど静かだ。

少し目を瞑り数分の静寂に身を任せていると涙が溢れ始めた。

もう、やめよう、こんなブラック企業に人生を捧げて一生を終えるぐらいならいっそのこと楽になった方が何倍もマシなはず。そう思ったら何かが吹っ切れたのか、私は屋上へと上がる階段を登っていた。

屋上に出ると風で吹き飛ばされそうになる。と同時に昼間の人工的な騒がしさがまるで嘘のように静かに感じられた。

なぜかそれが心地よく感じられ何だか気持ちよく人生の最後を迎えられるかもしれないと少し気分が高揚した。

あたりを見回すと高いビルのいくつかのフロアに灯りが見え誰かの人影が動いているのがはっきりと見えた。

俺以外にも働いている人がいるんだな…そんな当たり前のことを口にしながら転落防止用の柵を乗り越えて靴を脱ぎ始める。

流れるように靴を脱ぎ始めた自分がなんだかおかしかった。

警察に即座に自殺と判断してもらうために靴を脱ぐのがマナーかな?なんて思う心はまだあるらしい。

靴を履いたまま落ちたっていいのに、ドラマの影響かもなんてことが頭の中に浮かんだ。

私は靴を揃えてビルの脇に立つ、あと一歩踏み出せば全てから解放されるこのなんとも言えない高揚感を抱きながら私は一歩踏み出そうとしたその瞬間、向かいのビルの屋上に人影が見えた。

私は落ちそうになる自分の体を支えるため柵に右手を伸ばした…ギリギリ柵を掴み転落を回避した。

少し安堵している自分に驚きながらもビルの人影がどうしても気になっていた。視線を向かいのビルに向ける。見間違いじゃなかった。そこには確かに人影が見える、自分と同じ自殺者か?そんな考えが脳裏に浮かびながら目を凝らすとその人影はどうやらセーラー服を着た学生であると気づいた。

すぐに警察に連絡すべきだと思い懐にある携帯を取り出した。

110番を入力して発信ボタンを押そうとしたその時私は躊躇した、なぜなら今ここで警察に連絡すれば私の自殺も止められる可能性があるからだ、スマホの時計はもうすでに夜中の0時を回っている。残してきた仕事はもう確実に終わらない、これはもう間違いなくクソ上司に罵詈雑言を浴びせられる未来が確定している。そう思うと恐ろしかった。だが自分がここまで追い詰められているにも関わらずいまだにクソ上司の影がちらつき人として正しい判断さえ邪魔してくるクソ上司にイラついた。「クソ、アホか俺、なんで目の前(向かいのビル)にいる人を助ける時にアホ上司に怒られるかとか考えてんだバカか?ここで助けなきゃクソ上司以下になっちまう!亅もう迷いはなかった即座に発信ボタンを押して警察に状況を説明した、そこからは早かった数分後、向かいのビルのドアに警備員らしき人が現れた警察が連絡したのかそれとも自分以外にも彼女の自殺を見ていた人がいて自分より早く通報していたのか、数分もしないうちに向かいのビルから飛び降りようとしていた彼女は説得に応じた様子で飛び降りるのをやめた。

安堵した。まさか人生の最後を迎えようとしてたその瞬間、別の人の人生最後の瞬間を見て助けるとは。

バタフライエフェクトを信じたりはしない。なぜならクソ上司に仕事を押し付けられることにさえ意味があるなんて絶対にありえない。

俺は退職届を上司の机に置き会社を出た、出入り口の警備の人にお疲れ様です。と挨拶をする。おそらく入社して以来の元気な挨拶に警備の人は驚いた様子で敬礼をしながら「お疲れ様でした」と挨拶した。

何年振りだろうこれほど気持ちのいい退社は。そう思いながら夜の騒がしさがまだ残る街を見ながら歩きはじめる。


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