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天才猫は他にもゐる

〈八丈の波荒きかな飛び魚飛ぶ 涙次〉



【ⅰ】


 カンテラ事務所にはテオ専用のトイレがある。小さな洋式便器で、水洗でありお尻シャワーも装備されてゐる。テオは人前で自らの肛門を舐め、それで清潔とするには潔癖過ぎた。

 それも日常の事となつてしまへば、なんら異常ではないのだが、實際目の当たりにしてみると、猫として畸妙な行為だなー、と少し不思議な感じがする。だからこそ、テオは、一味の「不思議な」動物たちの筆頭に自分を置いてゐて、自分を動物‐ ケダモノ、として規定してゐる。幾ら天才でも猫は猫なのだ。

 さう云ふバランス取りは大變に難しい。例へば、味蕾、それもテオは異常發達してゐる。所謂猫缶にも、生卵が載つて、溜まり醤油を一垂らしゝてゐないと食べられない。



【ⅱ】


 天才猫と云ふ他に、テオの日常には際立つた特色がある。それは彼が、月給取りである、しかもかなりの髙給取りである、と云ふ事(他に小説家・谷澤景六としての収入もある!)。カネを持ち、その使ひ道を弁へてゐる猫- これは壯観であつた! たゞ頭脳が異常發達してゐるだけぢやあ、天才猫は務まらない。

 例へばお宅の愛猫が天才だつた(IQ200)としやう。テレパスだつたとしやう。で、テレパシーで貴方に(トイレが普通の猫砂の奴ぢや、死ぬ程恥づかしいのです。ご主人様だうにかして!)と云つて來たとしやう。そして猫用水洗便所を、となつたら、そのバジェットは一體誰が持つのだ? 美食についても同じである。これらいづれも、テオがカネを生み出す每日に從事してゐる事に、裏付けられてゐるのだ。



【ⅲ】


 だからテオは思ふのである。「天才猫は他にもゐる。たゞ猫としての日常を脱け出せないだけで‐」。カネを稼ぐ環境にない事が、彼らをスポイルしてゐる‐ テオはさう信じてゐた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈日常と云へばカンテラ離れ出來ぬ私を嗤へる人などゐるの 平手みき〉



【ⅳ】


 會員制クラブ「キイ・ウエスト・クラブ」にて。野代ミイにテオはしなだれ掛かつた。「ミイちやん好きなんだ。僕の一生を捧げるよ」なんと口説いてゐるのである。だがミイは、「テオさんの天才が、邪魔だにや~ん」と身を躱す。普通に水商賣と云ふ物には「惚れた腫れた」が付き纏うものなのである。ミイには別の(人間の)客筋の方が氣になつた。實際にセックスを伴ふ戀愛が出來さうな。

 これはテオには殘酷過ぎた。暗がりでミイと人間のをつさん(テレビ・プロデューサーだと云ふ)が口づけしてゐた。

 だうせ僕は猫さ。天才だなんて、嗚呼、何て邪魔な事なんだ~!!



【ⅴ】


 テオはテオ・ブレイドを装着した。かうなりや戀敵斃して、自分も死んでやる。するとそこにカンテラが‐ すらり拔刀し、「テオ殿、一手指南仕る」。わーカンテラ兄貴が、斬り掛かつて來た! 幾らブレイドがワザモノでも、僕は身體的にはたゞの猫。天下のカンテラに敵ふ譯、ないぢやないか! 逃げ回るテオ。一頻り、追ひ駆けつ子が續いた後、カンテラは云つた。「テオ、猫でなければ、俺の太刀、躱せやしないだろ? 猫で良かつたな」テオ「あ、兄貴~!!」テオは心の奥で、涙に暮れた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈御來光見る汗惜しみジムに行く 涙次〉



 濟んでのところで、テオの玉砕作戰は決行を阻止された。本來、ミイの野心に比肩するものな筈だ、テオの天才つぷりは。たゞ、心は雨模様が續いた。そんな時もあるさ、な、テオ。お仕舞ひ。


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