6話 最後の試練
「王よ、いよいよ最後の試練だ。」
グラギアの低い声が広間に響く。悠太は、重厚な空気の中で深呼吸をし、気を引き締めた。これまでの試練を乗り越えたとはいえ、心の奥にはまだ不安が渦巻いている。
「最後の試練って、一体何をするんだ?」
悠太が問いかけると、グラギアは広間の中央に立ち、両腕をゆっくりと広げた。すると、空間が歪み始め、黒い霧が渦を巻くように集まり出す。
「お前自身と向き合うことだ。」
「俺自身と向き合う?」
悠太が疑問を口にした瞬間、霧が彼の前で凝縮し、彼とまったく同じ姿をした存在が現れた。
「……俺?」
目の前に立っているのは、悠太のコピーそのものだった。しかし、その表情には不気味な笑みが浮かび、その目には底知れぬ闇が宿っている。
「そうだ、お前だ。」
グラギアが低く告げる。「これは、お前の中に眠る弱さや恐れ、そして欲望の具現化だ。この影を乗り越えなければ、お前は真の王にはなれない。」
悠太のコピー――いや、「もう一人の悠太」は口元を歪めて笑った。
「俺が本当に王になれるのか? お前が望むのは、この廃れた世界を救うこと? それとも、自分が認められたいだけか?」
その言葉に、悠太は息を呑んだ。確かに、この異世界で王になるということに覚悟を決めたつもりだった。しかし、その裏にあるのは、本当に世界を救いたいという純粋な願いなのか、それとも転生者として「特別な存在」でありたいというエゴなのか……。
「俺は……」
悠太は言葉を詰まらせた。その隙を突くように、「もう一人の悠太」が冷笑を浮かべながら近づいてきた。
「ほら、答えてみろよ。お前がここにいる理由は何だ? 本当に人類を救えると思ってるのか?」
その問いかけに、悠太は拳を握りしめた。
「俺は……確かに不安だ。自分がここで何をできるのか、正直分からない。でも!」
悠太は顔を上げ、もう一人の自分を真っ直ぐ見据えた。
「だからこそ、前に進むんだ! 確信がなくても、希望がある限り、俺は進むしかない!」
その言葉と共に、「もう一人の悠太」が手を振り上げ、鋭い衝撃波を放つ。悠太はとっさに身を低くして避けるが、その威力に背後の壁が大きく砕けた。
「口先だけで王になれると思うな!」
「もう一人の悠太」が再び襲いかかる。だが、悠太は恐怖に飲み込まれることなく、その攻撃を受け止めようと決意した。
「俺はお前だ。そしてお前に勝つことで、俺は新しい自分になる!」
悠太は前に踏み込み、拳を握りしめて「もう一人の悠太」に向かって全力で振り下ろした。拳がぶつかり合い、衝撃が広間全体を揺らす。
広間に静寂が戻った時、悠太は膝をつき、荒い息を吐いていた。
目の前にあった「もう一人の悠太」の姿は、徐々に霧に溶けて消えていく。
「これが、最後の試練だったのか……」
悠太が顔を上げると、グラギアがゆっくりと近づいてきた。その目には、わずかな尊敬の色が宿っている。
「お前は、自分自身の弱さを受け入れ、それを乗り越えた。これでようやく、お前をこの地の王として認めることができる。」
悠太はその言葉に驚きながらも、静かに頷いた。
「ありがとう……俺は、王としてやれる限りのことをやる。」
グラギアは満足げに頷き、悠太の前にひざまずいた。そして、彼の胸に手を当てると、温かい光が広がった。
「この地を、お前に託す。王としての力は、これから徐々にお前に宿るだろう。」
その言葉と共に、悠太の体に新たな力が満ちていくのを感じた。それは、ただの力ではなく、世界を導く責任と覚悟の象徴だった。
次回、第7話:新たな王国の始まり
試練を乗り越え、正式に王として認められた悠太。だが、廃墟と化した世界を再興するためには、さらなる試練と困難が待ち受けている……。