5話 知恵の試練
「次の試練では、お前の知恵を試す。」
グラギアは悠太を鋭く見据えながら言葉を続けた。
「力を持つ者は多い。しかし、知恵を備えた者は少ない。人間がこの地を支配していたのは、その知恵によるものだったのだ。」
悠太は息を整えながら立ち上がり、問いかけた。
「知恵の試練って、一体何をするんだ?」
「簡単だ。お前がこの廃墟の中に隠された『真実』を見つけることができるかどうかを試す。」
「真実?」
悠太が首を傾げると、グラギアは静かに頷いた。
「この城には、かつて人類が築き上げた知識と歴史が眠っている。それを読み解き、お前が王として何を目指すべきかを示せ。」
その言葉に、悠太は焦りを感じた。廃墟に隠された知識や歴史など、どこにあるのかも見当がつかない。しかし、ここで退くわけにはいかない。
「……分かった。やってみる。」
そう言って覚悟を決めた悠太に、グラギアは城の奥へと続く扉を指し示した。
「扉の向こうに『答え』がある。その先でお前が何を見つけるか、私には分からない。だが、それを見つけ出すのは、お前自身だ。」
悠太は扉を開き、薄暗い廊下へと足を踏み入れた。
廊下を進むと、やがて広い部屋に辿り着いた。その部屋の中央には巨大な石碑が立っており、その周囲には無数の本棚や古びた装置が並んでいた。
「これが……真実を探せってことか?」
悠太は石碑に近づき、表面に刻まれた文字を読み取ろうとした。しかし、その文字は彼が知っている言語ではなく、まるで古代の象形文字のようだった。
「全然読めないじゃないか……」
途方に暮れる悠太の耳に、アスターの冷静な声が響いた。
「王よ、その石碑には、この王国が辿った歴史と滅びの理由が記されています。」
「えっ、アスター、お前これ読めるのか?」
「私は城の管理者として、この石碑の内容を把握しています。しかし、この試練では、王自身がそれを解読し、答えを見出すことが求められます。」
「つまり、自分でどうにかしろってことか……」
悠太は溜息をつきながらも、部屋の中を見回した。石碑を理解するためのヒントがどこかにあるはずだ。
「よし、とりあえず手がかりを探そう。」
彼は古びた本棚に近づき、一冊の書物を引き出した。その表紙には、石碑に刻まれた文字と同じものが描かれている。
「これだ! この本なら石碑の文字を解読できるかも。」
悠太は急いで本を開き、中身を確認する。しかし、そこに書かれている内容もまた複雑で、すぐには理解できなかった。
「くそっ、こんなに難しいのかよ……!」
時間が経つにつれ、悠太の焦りは募る。しかし、彼は諦めずに読み進め、少しずつ石碑の文字と本の内容を照らし合わせていった。
「分かった……これって、人類の滅びに関する記録だ。」
ようやく一部を理解した悠太は、石碑に刻まれた文字の意味を解き明かし始めた。そこには、人類が高度な文明を築き上げたものの、その技術を誤った形で使用し、魔物たちとの戦争を引き起こしたことが記されていた。
「人類が自分たちの手で滅びを招いたってことか……」
その真実に、悠太は言葉を失った。
部屋から戻った悠太は、グラギアの前に立つと、静かに口を開いた。
「石碑には、人類が魔物たちとの戦争で滅びた理由が書かれていた。高度な文明を持ちながら、それを正しく使えなかったからだ。」
グラギアはその言葉を聞いて、わずかに目を細めた。
「なるほど。それを理解した上で、お前はこの世界に何をもたらすつもりだ?」
その問いに、悠太は深く息を吸い込んだ。
「人類は確かに過ちを犯した。でも、だからって未来が閉ざされたわけじゃない。この滅びた世界に、新しい希望を築く。それが俺の役目だ。」
その答えに、グラギアは満足げに頷いた。
「お前の答え、確かに受け取った。王としての知恵を認めよう。」
そう言ってグラギアは悠太に背を向けた。
「だが、最後の試練が残っている。それを乗り越えた時、お前は本当にこの地の王と認められるだろう。」
悠太はその言葉に緊張を覚えながらも、前を見据えた。
「やってやるさ。どんな試練でもな。」
次回、第6話:最後の試練
悠太に課される最後の試練。それは、彼自身の存在を根底から揺るがすものだった……。