1話 人類がいない世界
「……ここはどこだ?」
気がつくと、木村悠太は見知らぬ場所に立っていた。重厚な石造りの天井と割れた窓から差し込む淡い光。床には瓦礫が散乱し、まるで廃墟のようだった。
「俺、死んだんじゃなかったか?」
数秒前の記憶――横断歩道、鳴り響くクラクション、そして鈍い衝撃。それらを思い出し、悠太は震える手で自分の体を確かめた。血も傷もない。着ているのは見慣れない異国風の服だ。
「……もしかして、これが転生ってやつ?」
疑問を抱きながら周囲を見回すと、正面に奇妙な装置が目に入った。玉座のように高い位置に設置された半球状の物体。それが静かに輝き、機械音が響き渡った。
「ようこそ、王よ。」
女性の声――だが、人間らしい温かみは感じられない。冷たく正確なトーンだった。
「あなたは新たなる管理者として、王国の再建を命じられました。」
「……は?」
状況が理解できない悠太に、声の主は続けた。
「私は王国管理システム・アスター。この王国の機能を維持し、管理するために存在しています。」
悠太は困惑を隠せなかった。AIだと? ここはどこで、何が起こっているのか、さっぱり分からない。
「まず聞かせてくれ。ここはどこなんだ?」
「ここはかつてのアルクレア王国の王城です。しかし、人類が千年前に滅びて以来、王国は機能を停止しました。」
「……人類が、滅びた?」
その一言が悠太の胸に深く突き刺さった。
「そうです。あなたは、王国再興のために召喚された最後の希望です。」
悠太は唖然とした。転生どころか、人類がいない世界に放り込まれるなんて、誰が想像しただろうか。
「待てよ、なんで俺なんだ? そんな責任重大な役、普通もっと適任がいるだろ!」
「あなたが選ばれた理由は不明です。しかし、王である以上、責務を果たす義務があります。」
投げやりな返答に、悠太は頭を抱えた。自分が王? 責務? この状況から抜け出す方法はないのか?
「……ちょっと考えさせてくれ。」
アスターは応じた。「どうぞ。ただし、時間は有限です。」
その言葉が、悠太の中に薄暗い不安を生じさせた。この廃墟のような場所で、彼は一体何をするべきなのか? それを考える暇もなく、遠くから不気味な音が響いてきた。
――ゴォン……ゴォン……
「何の音だ?」
「確認中。侵入者が接近しています。」
侵入者? 悠太の胸が一気にざわついた。
「待て待て、戦う準備なんてしてないぞ!」
「心配ありません、王よ。私が防衛装置を起動します。」
アスターの冷静な声と共に、周囲の瓦礫が音を立てて動き始めた。悠太はただ立ち尽くし、これから訪れる未知の危機に備えるしかなかった――。
次回、第2話:廃墟の来訪者
侵入者の正体とは? 悠太の運命が動き始める!