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もう溺れずとも、あと少しで
月が僕を見ている。
季節の巡りのほんの些細な一部分に下りた帳の中を、足元に広がるぼんやりとした冷気を踏み分けながら歩く。意味もなく、理由もなく、法則もなく、目的もなく。人ひとりの小さな意志は、運命の大いなる奔流の一端にだって触れることはできない。だから僕らは、想像しようもないものごとを偶然と呼び、偶然の無限の重なりを運命と呼ぶ。僕らはどこを歩いても、何度この時を繰り返しても、この日、この時間に、ここで出会うのだろう。月が、打ちひしがれた少女を見ている。記憶の空洞を滑り落ちるように、いくつかの風景が絶えず意識の隅を横切る。斜陽、雨音、灰色のパレット。耳なじみのない比喩に耳を傾け、ある日の情景を視界に収めながら、僕はそこにいる人に声をかける。
染衣雪野。
僕とは違う人。
避けては通れない運命。




