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ただ溺れるまま、もう少しだけ
彼の唇にキスをする。
持ち上げたかかとがけらけらと嘲笑うかのように身体の重心を揺らめかせ、わたしはなすがまま彼に身を預ける。前へ前へと、いくら胸元を圧し潰しても、彼は深く根差した硬い広葉樹のように淡としてわたしの身体を受け容れ続ける。そのままぴたりと密着したわたしたちは、他人事のように互いの命の残り時間を数え始める。静寂の中で唯一動いているわたしたちの心臓が、ひどく平坦なリズムで、退屈な事務作業のように冷たい血液を巡らせている。彼はまるで死んでしまったかのようにぴくりとも動かない。わたしに触れることもなく、肯定も否定もせず、ただそこに存在しているだけ。まるで亡霊のようだ。何度でもそう思う。わたしは掴んだネクタイをぎゅ、と握りしめ、冷たい唇の感触を確かめながら、目も開かぬまま、そこにいる人の姿をまぶたの裏に描く。
夏目水季。
わたしと同じ人。
正体不明の特別。




