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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第九話

前回、 騎士団の仕事が終わり、 無事アミィラ村に帰ったエイン。

しかし、 彼女がいない間に村では新たな危機に襲われていた。

そしてエインとガルンは村の危機の原因となっている厄災魔獣を討伐すべく、 森の中へと進んでいった。


「はぁ……はぁ……師匠! もう少しゆっくり移動しませんか? 」

「えっ? あぁごめんごめん、 私の移動のし方は普通じゃないんだった……」


森の奥を目指していた二人。

ガルンはあまりにも速く移動するエインに置いて行かれそうになっていた。


「まぁそんなに急ぐ必要も無いし、 ちょっと休憩していこうか」

「そ、 そうですね……」


ガルンの様子を見たエインは一度休憩をすることにした。

…………

川沿いにて、 エインとガルンは釣りをしながら休息を取っていた。


「……」

「……」


二人はしばらく沈黙する。

痺れを切らしたガルンは


「あの……師匠……こういった時間にでも……稽古を付けては頂けないでしょうか……? 」


エインからの稽古をお願いする。

すると、 エインはこれも修行の一つだと微笑みながらそう言った。

ガルンは理解が出来ず首を傾げる。

それを見たエインは話す。


「釣りは反射神経と忍耐力、 そして集中力を鍛えるのに丁度いいんだよ……お魚さんは気まぐれだから、 長い長い時間を掛けて釣れる事もあれば、 一瞬で釣れる事もある……いつ掛かるかも分からない……だからいつ掛かっても反応が出来る反射神経と……掛かるまで待つ事が出来る忍耐力と集中力が必要なんだよ……」


……まぁ私の感覚で適当言ってるけど……パパも似たような事言ってたし間違っては無い……はず……

何を教えれば良いのか分からなかった彼女はその場しのぎで適当な事を言っていた。

次の瞬間、 エインの竿が僅かに反応する。

それと同時にエインは目にも留まらぬ速さで剣の様に竿を振り上げ、 魚を釣り上げた。

魚は地上に揚げられ、 びちびちと跳ねる。


「……さ、 ガルンもやってみて! 」


魚を釣って見せたエインは笑顔でガルンに言った。


「は……はい! 」


そしてガルンは釣りに集中した。


一時間後……


「……つ……釣りとは……想像以上に難しいものですね……師匠……」


ガルンは未だに一匹も釣れていなかった。

時には掛かる事もあったが、 その度にガルンは魚を取り逃がしてしまっていた。


「あははは! 最初は誰でもそんなものだよ、 私だって最初は一匹も釣れなかったもん」


対してエインはもう十匹程魚を釣り上げていた。

それを見て落ち込んでしまったガルンにエインは言った。


「ガルン……ちょっとコツを教えてあげるよ。 竿から手を離して地面に立ててごらん、 そしてしばらく息を潜めるの……」

「はい……? 」


ガルンは言われた通りに竿を手放し、 地面に刺した。

そしてしばらく息を潜める。

すると……


「……! 」


ガルンの竿が反応した。

ガルンは急いで竿に手を掛けようとするとエインは止める。


「まだだよ……もう少し……」


そしてガルンの竿は大きくしなった。


「今っ! 」


エインの合図にガルンは咄嗟に竿を持ち上げた。

すると魚が川から姿を現し、 釣り上げられた。


「お見事! 」

「師匠! これは一体! ? 」


何が起きたのか分からなかったガルンはエインに聞く。


「お魚さんはね、 何となく危険を感知する能力があるんだよ……ただ無造作に竿を持っていても『このエサは危ないなぁ』って分かっちゃうことがあるの……だからこうして竿から手を離して気配を殺す事でお魚さんに悟らせないようにするの……あとは針に引っかかるのを待って引き上げる……ちょっとした工夫でも変わるものだよ」

「なるほど! 流石師匠! 」

「まぁまずは竿を持っていても釣れるようになろうね」

「う……精進します……」


そんな事がありながらも二人は休憩を堪能した。


「ふぅ、 さて! そろそろ行こうか! 」

「はい! 」


すっかり体力を取り戻したガルンは再びエインの後を付いて行き、 厄災魔獣の捜索を再開した。

……余ったお魚さんは皆への差し入れに持って帰ろっかぁ……

余計に釣ってしまった魚を見たエインは村への土産として持ち帰ることにし、 ポーチの中へと入れた。


「師匠、 そのポーチはもしや異空間倉庫ですか? 」


何匹もの魚が小さなポーチに次々と入っていく光景を見たガルンは不思議に思い、 エインに聞いた。


「うん、 パパから貰ったんだ♪ 凄く便利だから結構使ってるよ」


そう言いながらエインは中から今まで自分が作って来た魔道具や採取した物などを取り出して見せる。

それを見たガルンはふと聞く。


「師匠は魔道具の作成も出来るのですか? 」

「パパから教わった程度にしか作れないけどね……旅に役立つ道具なら基本何でも作れるよ」

「す、 凄いですね……師匠……」


ガルンは改めてエインの凄さに感心する。

するとエインは次にポーチから何かを取り出す。

それは小さな方位磁石だった。

しかしそれには東西南北を示す印は書かれておらず、 ただ針が特定の方角を示しているだけだった。


「師匠、 それは? 」

「これは探し物がある時にそれがある方角を示してくれるコンパスだよ、 ただ一定範囲内に探し物が無いと反応してくれないけどね……」

「なるほど、 森の奥まで来たのはその範囲内に入る為だったのですね」

「うん、 それで……どうやら今日は運がいいみたいだね、 コンパスは一定の方向を指してるからその方向へ進めば目的の奴がいるはずだよ」


そして二人は方位磁石が示す方角へと進んでいった。

数十分後……

しばらく森の奥を進んでいた二人はツタに覆われた崖に当たった。

そこには巣穴らしきものは見つからなかったが、 方位磁石はその崖の方向を強く示している。


「……反応が強くなってるね……多分この崖だ……」

「しかし……何も見当たりませんが? 」

「言ったでしょ? 奴らは巣を隠すのが上手いって……ちょっと待っててね……」


そう言うとエインは方位磁石をポーチにしまい、 次に不思議な模様が刻まれたベルを取り出した。

そしてエインはそのベルを崖の方へ向かって鳴らす。

すると崖の一か所から空間の歪みが発生し、 そこから洞穴が浮かび上がってきた。


「……うん、 このベルでも見つけられたって事は今回の標的はそれ程強力ではないみたいだね……」

「そのベルは一体? 」

「これは結界破りのベルだよ、 弱い結界なら魔力を使わずに消してくれる道具なんだ」

「本当に何でも持っているんですね師匠は……」

「うん……まぁね……」


……作ったはいいけどこんなベルいつ使うんだろうって思いつつもずっと持ってたけど……まさか使い時が来るなんてねぇ……

そんな事を思いつつもエインはランプを用意し、 ガルンと共に洞穴へ入っていった。

…………

洞穴の中は獣臭がしており、 辺りには動物の骨が散らばっていた。

……森の動物たちが消えたのはここの主が食い荒らしてたからか……そのせいで動物たちは危険を感じて逃げて行ったってところか……

その光景を見たガルンは事の原因を推測する。

エインは辺りの見渡しながら洞穴の奥へ進んでいく。

ガルンは緊張感からか、 冷や汗をかく。


「……師匠……ここの厄災魔獣はどれ程の強さなのでしょうか……」

「う~ん……この前来た勇者なら何とか倒せるかなぁってところかなぁ……私も実際戦った回数は少ないし、 奴らの強さの基準はよく分からないんだぁ……」


……あぁ……師匠相手だと強さはほぼ同じにしか感じないからか……

エインの話を聞いてガルンはそう思った。

そんな事をしながら進んでいると上から光が差し込む開けた空間に出た。

するとエインは咄嗟にガルンを引きずって岩陰に隠れた。


「師匠……? 」

「シッ……いるよ……あの大きな岩の上……」


小声でそう言うエインの視線の先を見ると


「……あれが……厄災魔獣……」


光が差し込む岩の上で昼寝をする首に鎖を巻いた巨大な狼がいた。

体毛は銀色をしており、 動物を食べたからか首回りが赤黒く染まっている……その顔立ちには何処からか恐怖を感じさせる雰囲気を放っている。

すると狼は何かの気配を察したのか、 目を開ける。


「……うん……今回は大丈夫そうかな……」

「え……? 」


エインは狼を見てそう呟くと岩陰から出た。

ガルンは慌ててエインを引き戻そうと一緒に出てしまう。

狼は二人を見ると唸り声を上げながら夜空のように深い青色の瞳をこちらに向けている。


「……ねぇ、 狼さん! ちょっとお話ししてもいいかな? 」


エインは明るくそう言うと狼は何かに気付く。

すると……


『そこの女……私が何者かを知っているのか? 』


狼は女性の声で話し始めた。

ガルンは話す狼に驚く。

エインは相変わらずの様子で話を続ける。


「知ってるよ! 君達は厄災魔獣でしょ? この森から動物たちが消えた原因って狼さんのせいだよね? 」

『私の名はティーハだ……狼さんなどと気安く呼ぶでない! 』

「じゃあティーハ、 折り入ってお願いがあるんだけどいいかな? 」


エインは威圧的な態度を取るティーハと名乗る狼にも物怖じせず話をする。


『ふん、 人間如きの頼みなんぞ聞く気なんて無いわ……そこの男諸とも食い殺してくれるわ! 』


そう言うとティーハは遠吠えを上げる。

すると上から差し込んでいた光が消え、 辺りが夜の様に暗くなった。

それと同時にティーハの姿が消え、 不気味な風が辺りに吹き始める。

ガルンは大剣を手に取り警戒する。

エインは武器も構えずただ棒立ちだった。


「ガルン……釣りでの事覚えてるよね? 」

「え……はい……」


不意にエインはガルンに釣りでの出来事を話す。

するとエインはガルンの方を振り向き


「今こそ実践の時だよ……」

「! ! し、 しかし師匠……」

「ガルンなら大丈夫……落ち着いてやってごらん……」


そう言われてガルンは目を閉じる。

……魚が釣り針に掛かるのを待つ忍耐力と集中力……掛かった瞬間を逃さない反射神経……あとは……気配……

ガルンは今までに無く集中する。

そしてガルンの背後で鋭い音がする風が吹き込む。

次の瞬間


「ッ! ! 」

『何ッ! ? 』


風が勢いよく吹くと共にガルンは横に素早く移動し、 大剣を振り下ろす。

剣は空中で止まり、 金属音が鳴る。

するとそこから一直線に伸びた鎖が姿を現し、 動揺するティーハの声が響く。


『くっ……一度受け止めただけで調子に乗るな! 』

「! 」


怒りに満ちたティーハの声が響くとガルンの真横から鎖が出現し、 凄まじい速度で飛んできた。

一度目の攻撃を避けられた事で油断してしまったガルンは反応が出来ず、 もろに攻撃を受けそうになる。

しかし……


「お見事! 」


そう言うエインの声が聞こえたと同時に鎖が一瞬にして細切れになってしまった。

いつの間にかエインがガルンを守るように前に立っていた。

エインはガルンを見ながら微笑み


「釣りでの教えが活きたねぇ、 初戦で活かせるなんて流石だよぉ♪ 」


落ち着いた声でガルンにそう言った。


「師匠……」

「まっ、 あとは次の攻撃にも対応できるように油断しない事だねぇ」


そう言いながらエインはいつものトーンに戻る。


「う……すみません……つい……」

「まぁあとは練習だね……ここからは師匠の出番だよ♪ 」


そう言うとエインはティーハが立っていた岩の方を見る。


「ティーハ、 そこにいるのは分かってるよ~」

『……格上はそこの男ではなく貴様だったか……見誤ったわ……』


そう言うティーハの声が響くと岩の上にティーハが姿を現した。


「ガルンの師匠としてかっこいいところ見せたいんだ、 本気で来てくれる? 」


余裕な様子を見せるエインにキレたティーハは表情を歪める。


『いいだろう……私を怒らせた事を後悔させてやる! 』


次の瞬間、 ティーハの首に巻かれている鎖はジャラジャラと激しい音を立てながら回転し、 目にも留まらぬ速度でエインに向かって飛んできた。

しかし……


『ッ! ? 』


エインは素手で鎖の軌道を逸らしてしまったのだ。

ガルンもその光景に呆気を取られる。

そしてエインはティーハの方を見る。


「……うん! 我ながら上出来! 」


エインは誇らしげにそう言う。

ティーハは少し焦りを見せる。

するとティーハは次に鎖を何十にも出現させ、 エインの周囲を囲うように襲い掛かった。

しかしそれも……


『なっ……』


いとも簡単に軌道を逸らされ、 攻撃が外れてしまった。


「……もしかしてこれしか出来ない? ならもうそろそろ……」

『まだだ! 私の本気はこんなものではない! 』


そう言うとティーハは遠吠えを上げる。

次の瞬間、 鎖は高速回転しだし、 竜巻を発生させた。

竜巻の中では鎖が飛び交っており、 巻き込まれれば木っ端みじんになってしまいそうだ。

竜巻に吸い込まれそうになるガルンは岩に掴まる。

エインはと言うと相変わらず棒立ちだった。

そしてエインは竜巻に飲み込まれてしまった。


『は……ははは! 所詮は人間よ! 我が力に敵うはずが……』


ティーハが勝利を確信した次の瞬間……


「……う~ん……イマイチだね」


竜巻の中からエインの声がし、 竜巻は瞬く間に散開してしまった。


『……き……貴様……一体……』


驚愕するティーハがエインにそう聞くと


「私はただの旅人だよ……」


エインは微笑みながらそう答えた。

続く……

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