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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第六話




無名……壱……




エインはそう呟いた次の瞬間、 エインは目にも留まらぬ速さで木剣を振り回し始めた。

その速さは木剣の姿が見えなくなる程、 なのにも関わらず風を切る音が殆ど聞こえてこない……

それを見た受験者達は言葉を失う。

しかしバルキスは怯む事無くエインの方へ向かっていく。


「……流石騎士団の団長さんなだけあるね……私の知る限り、 団長さんみたいな速い人はパパを含めて二人目だよ……」

「それは光栄だ! ではこちらも相応の物をお見せしよう! 」


そう言うとバルキスは一瞬エインから距離を取り、 身を屈めた構えを取る。

次の瞬間


「ローグ流剣術……狼牙……」


そう呟くと同時にバルキスの姿が歪み、 辺りの空間が揺らいだ。

するとエインの体が何かに突き飛ばされるように吹き飛んだ。

一同はその光景に唖然とする。


「……フフフ……どうかね……我が一族に伝わる剣術の一つ……空間を揺さぶる刺突を放つ技……狼牙だ……」


バルキスは姿勢を立て直し、 手に持つ木剣を見る。

試験用の木剣は技の衝撃で柄まで裂けており、 ボロボロになっていた。


「……ふむ……やはり木剣では一度が限界か……エイン殿は……ッ! ? 」


今の技でエインはただでは済んでいないと思い、 バルキスはエインが吹き飛ばされた方を見る。

しかしそこには……


「……へぇ……世界には色んな剣術があるんだね♪ 」


壁ギリギリまで後退していたものの、 何事も無かったかのように佇むエインの姿があった。

彼女を見た一同は驚愕する。

……流石に今のは少し焦ったなぁ……危うく壁に当たって壊しちゃうところだった……

エインは自身の傷よりも壁を壊してしまう事を案じていた。


「……何を……したんだ? 」


バルキスは動揺しつつもエインに聞く。


「ん? 普通に受け身取って受け流しただけだよ? 」


きょとんとした表情で言うエインにバルキスは諦め顔になり、 木剣を捨てた。


「フッ……私の負けだ……剣を無くしてはもはや試合は成り立たん……其方の勝利だ」

「しょ……勝者……エイン! 」


エインはバルキスに勝利した。

一連の光景を見ていた一同は言葉も出ず、 ただ唖然としている事しか出来なかった。

……あれぇ……この流れ……結構まずいんじゃ……?

周囲の反応にエインはようやく自身のしてしまった事に気付いた。

一つの国を守る騎士団の団長の技を、 意図も簡単に受け流してしまった事を……

その後も試験は問題なく進められた。

が、 エインはバルキスとの試合以降、 周囲から畏怖の眼で見られるようになってしまった。

……途中から夢中になってやり過ぎちゃったかもなぁ……

彼女は会場の隅で体育座りしながら少し反省していた。


そして……

最終試験、 面接の時が来た。


「~♪」


エインは既にバルキスとは色々話していた為か、 さほど緊張はしていない様子。

鼻歌を唄いながらエインはバルキスが待つ部屋の前に来る。

そして扉をノックする。


「入れ」

「失礼しまぁす」


軽々しい態度でエインは部屋に入る。

バルキスはそんな彼女を見て相変わらずだと言わんばかりに笑う。


「ハハハ! あの試合の後とは思えんな! 」

「あんなことになるなら少しでも団長さんと手合わせして予習しておくべきだったよぉ全く……」

「はっはっは! まぁ座りたまえ! 」


そう言われエインはバルキスの前に座る。


「……さて、 まぁこの試験の結果は其方も目に見えているだろうから面接は終わりだ……ここからは少し今後の方針でも話そう」

「そうだね、 私も色々聞きたい事あるし……」


そこからバルキスとエインの雑談が始まる。


「まず一つ聞いてもいいかな? 団長さん」


まずはエインから話し出した。


「何だね? 」

「団長さんはどうしてあの時……わざわざ試験中に乱入してきたのかな? どう見てもタイミングを見計らってたし……目的は? 」

「……それは其方の階級を一刻も早く上げることを優先するよう、 陛下に命令されたからだ」


それを聞いてエインは頭を抱える。

……ま・た・あ・の・国・王~~~! !

打ち合わせくらいさせてくれと彼女は心の中で叫んだ。


「なるべく変な噂を出さぬようにするにはああするしか無かったのだよ、 変に階級を上げてしまえばそれこそありもしない噂を流され騎士団の士気に関わる、 あのような形にすれば誰にも怪しまれずに階級を上げられると思ったんだ……目撃者もいるから変に怪しまれないだろうし、 それが最善だろう? 」


見事仕向けられてしまったエインは話を聞いた後深くため息をつく。

……まぁ……もう過ぎちゃった話だし、 いっかぁ……こっちとしては階級が上がる事に越したことはないし……団長さんなりの最善策だったなら……

後悔しようにもどうしようもなかったエインは諦め、 次の質問をする。


「じゃあ次の質問だけど……アミィラ村にはいつ帰れるかな……? 」


実のところエインが一番気になっていたのはそこだった。

もう村を離れて三日以上経つ……流石に置いて行った皆が心配になってきた……

するとバルキスは不敵な笑みを浮かべ


「聞くと思っていたよ……帰れるのはそう……最短でもざっと二週間後と言ったところか……」

「……え……うぇぇ二週間! ! ? 」

「何せ其方が戦争に参加すると言ってしまったものだからなぁ……私とてそんな任務を受けては王都に帰れるのは最低でも二か月は掛かるだろうな」


……に……二か月……団長さんでも……帰るのに二か月……なんてこったい! 失敗したぁ!

エインは自身の判断に後悔する。


「はぁ……もっと詳しい話を聞いとくべきだった……」

「はっはっは! まぁこれは普通の人間であればの話だ! ……常識破りのエイン殿であれば……もっと良い結果を出せるかもしれんな……」


……何だろう……遠回しに仕事を早く済ませろって言われてる気がする……

バルキスの表情を見たエインはそんな事を思った。

すると今度はバルキスがエインに質問してきた。


「エイン殿……今度はこちらから質問してもいいか? 」

「うん、 何が聞きたいの? 」


そしてバルキスはエインの横に立て掛けてある剣を指差す。


「その剣……見せては貰えないか? 」

「え……うん、 別にいいけど」


エインは何の躊躇も無くバルキスに剣を手渡す。

バルキスは鞘から剣を少し抜き、 刃を見つめる。

しばらくするとバルキスは表情を曇らせながらエインに剣を返す。


「……エイン殿……其方のその剣……もしやそれも……」

「うん、 パパからのプレゼントなんだぁ♪ パパのお手製で刃こぼれもしないし切れ味抜群だよ♪ 」


エインがそう言うとバルキスは考え込む。

……まさか……いや……だがあの青い金属は……うぅむ……

といった感じで、 明らかに普通ではないバルキスの様子にエインは恐る恐る話し掛ける。


「ねぇ……私の剣がどうかしたの? 」

「……率直に言おう、 エイン殿……その剣は恐らくウルディメントライトから出来ている……」


……う……うる……何?

エインはそれが何なのかさっぱりだった。

バルキスは説明する。


「ウルディメントライトは世界で最も古い歴史を持ち、 幻と呼ばれる程貴重な金属だ……」


バルキスが言うにはウルディメントライトとは、 神話に登場する幻の金属であり、 それは神々の戦争時代、 戦神が持っていた剣が砕け、 その破片が地上へ散らばり深い地の底に埋まったという伝説があるそう。

実際にその金属を掘り出したとされるのは歴史上では数千年もの昔の話であり、 その金属を掘り出したとされる古代文明は既に滅んでいる。

その為、 その金属の詳細は書籍でしか残されておらず、 そもそも存在するかどうかも分からないとされる幻の金属として言い伝えられているのだ。

唯一残されていた書籍にはウルディメントライトの特徴が書かれており、 それは薄く硬い黒曜石に覆われており、 その中に夜空のような美しい色をした結晶があり、 結晶の中では星のような光が煌めいているという。

そして、 その結晶を正しく加工すると美しい青い金属へと変化し、 その頑丈さは溶岩の熱でも融解せず、 どのような武器を持ってしても傷付かず、 永き時を経ても錆びる事無く輝き続けるそう。

更にはその金属で武器を作れば戦神の魔力が宿り、 持つ者の心に応え、 その者に相応しい力を宿すようになるという伝説もある。


「私も実際には目にした事は無いが、 その青い金属という特徴は紛れもなく図書館の本で目にしたウルディメントライトの特徴だ……」

「えぇ、 でも青い金属なんて他にも探せばあると思うんだけど……」

「いや……私がそれをウルディメントライトだと思った理由は他にもあってだな……実は其方と出会ってからその剣から凄まじい魔力を感じていたのだ……私の知る限り、 その剣以上の魔力を持つ金属は無い……」


……そうなんだぁ……この剣ってそんなに凄い剣だったんだ……

イマイチピンと来ていないエインはそんな反応しか出来なかった。

するとバルキスは話を続ける。


「問題はそんな代物を其方の父上はどうやって作り出したのかだ……もしその剣の元が本当にウルディメントライトならば……一体どこでどうやって手に入れたのか……」

「……」


……古代の魔法知識に勇者を超える剣術……おまけにプレゼントされた剣が何か凄い金属で出来てたと来た……パパ……本当に何者だったんだろう……

エイン自身もバルキスもエインの父について謎が深まるばかりだった……


「……まぁいい……話はここまでにしよう、 ではエイン殿……これからは騎士団少佐としてよろしく頼むぞ! 」

「あぁ、 はい……よろしくぅ……」


そうしてエインの入団試験は終わった。

その日の夜……

エインはケイニスが用意した城の宿泊部屋で一人夜空を眺めていた。


「……」


エインは昔の事を思い出す。

日が差し込む森の真ん中にて……

エインと彼女の父である謎の男は手を繋ぎながら歩いていた。

そして二人は川沿いに出るとそこで休憩する。

その時……


「エイン……今日はお前に渡す物がある」


そう言いながら男はエインの前に立つ。

そして男はエインにあの剣を差し出す。

エインは大喜びする。


「わぁ……これ貰っていいの! ? 」

「今日でお前と出会って十年だ……修行も大詰めを迎えているし、 もうすぐお前も成人する……誕生日プレゼントみたいなものだ……」


エインは鞘から剣を抜き、 刃を眺める。


「すごぉい……刃が青いよ! 」

「特別な金属で作ったからな………………エイン……」


男は雰囲気を変えてエインに話し掛ける。


「ん? 」

「……その剣をお前に渡したのはお前への信頼の証だ……故に誓ってくれ……本当に必要な時以外、 その剣は抜かないと……」


そう言う男にエインはイマイチ分かっていない様子だったが


「うん! わかった! 」


元気よくそう返事した。

そんなエインに男は微笑みながら彼女の頭を撫でる。


「いい子だ……」



「……大丈夫だよ……約束はちゃんと守る……私はパパの子なんだから……」


そう呟きながらエインは腰に掛けてる剣の柄に手を置き、 剣を見つめた。

…………

その頃、 バルキスは自室で書物を書いていた。

そしてふとバルキスは持っていた万年筆の動きを止める。


「……」


バルキスはエインの事についてずっと考えていた。

……エイン殿のあの剣……あの後図書館の本を見返してみたが……やはりあれはウルディメントライト……だとすれば彼女の父上は……まさか……神の類か……


「……フッ……やめよう……他人を己の空想のみで詮索するのは柄じゃない……」


そう呟くとバルキスは万年筆を置き、 窓の外に見える夜空を眺める。


「……エイン殿……一体其方の父上と……其方は……何者なんだ……」


バルキスの中でそんな疑問がずっと渦巻いていた……

試験から二日後……

王城の玉座の間にて。


「旅人エイン、 汝をバルキス騎士団少佐の地位に任命する……」


エインはケイニスから騎士団の証を受け取った。

……これで私は騎士かぁ……これ、 もはや旅人じゃないのでは?

証を受け取りながらエインはそんな事を考えた。

…………

授与式が終わった後、 エインはバルキスの部屋へ向かった。


「ご苦労だったなエイン殿……いや、 エイン少佐と呼ぶべきか? 」

「やめてよぉ! いつも通りでいいよ」


バルキスにからかわれたエインは少し恥ずかしがる。

するとバルキスは真剣な表情になり


「……では早速だが、 これからエイン殿にはベリスタ帝国国境付近の戦地へと向かってもらう! 目標は魔晶石鉱山周辺区域の制圧だ、 頼んだぞ」

「りょうかーい、 さっさと済ませてくるよ」


こうしてエインはリ・エルデ王国の騎士団に入団し、 早速戦地へと向かう事となった。

続く……

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