第四十一話
前回、 全国魔試にて二次試験が終わり、 残すは三次試験となった。
三次試験開始までの間、 受験者達は各々の時間を過ごしていた。
・
・
・
フィエレンテの酒場にて……
エインとウルの二人と分かれ、 雑談をしながら時間を潰していたガルンとカミツグ。
そこに、 二人の男が歩み寄ってきた。
「そこのアンタら、 ちょっといいかい? 」
声を掛けられた二人は振り向く。
そこにいたのは青い瞳で隻眼の男と、 頭に傷跡がある中年の男。
デフィートとヴェイロである。
ガルンは何用かと問うと、 二人は突然ガルンとカミツグの身体を凝視し始めた。
しばらくすると、 何か納得したように頷き、 話始めた。
「俺達これから魔物討伐に行くんだが、 前衛を任せられる奴がいなくてな……」
「ほぅ、 それで俺達に手伝ってほしいと……だが何故俺達を? 」
「アンタら、 見たところかなりの手練れだろ? 相当な訓練と経験を積んでるのが分かる……そこらのボンクラとは雰囲気が違うからな……」
それを聞いたガルンは、 路銀稼ぎも悪くないと考え、 二人の話に乗る事にした。
討伐対象はフィエレンテ付近の洞窟に住み着いた毒竜。
相手は鋼鉄の盾も溶かす酸性の毒を吐くらしく、 魔物狩り達はその能力に幾度も撤退を余儀なくされているのだそう。
……強力な酸を吐く毒竜……まさか命崩竜か……
命崩竜、 それは毒を持つ竜種の中でも上位に分類される毒竜である。
その脅威は厄災魔獣に匹敵する。
前例として、 その竜が住み着いた事で生態系が崩壊し、 最後には毒沼が広がる荒地となってしまった地域があり、 討伐後もその被害は残り続けている。
また、 命崩竜自体の戦闘能力も高く、 鋼鉄をも溶かす酸を吐く能力に加え、 背中から突き出ている管状の器官から毒の煙を振り撒くため、 王国騎士級の魔物狩りでも討伐には犠牲を強いられる。
故に世間では『命崩竜が現れたらその地を諦めろ』とまで言われている。
……いつか見た本で見た事がある……今の俺に勝てるだろうか……
命崩竜の脅威を知っていたガルンは、 不安を抱きつつも、 自身の実力を確かめたいという好奇心が芽生えた。
そうして四人は毒竜がいるという洞窟へと向かう事にした。
…………
道中、 四人は自己紹介も兼ねてお互いの事について話をしていた。
「そういえば、 あなた達の名前は」
「デフィートだ、 どこにでもいる普通の魔物狩りだよ」
「俺はヴェイロだ、 同じく魔物狩りをやっている」
聞いたところ、 デフィートとヴェイロは数年程前からの知り合いだそうで、 今回の全国魔試で偶然再会したという。
そこで再会の記念に一つ、 とびっきりの討伐依頼でも受けようという話になり、 今に至るそう。
ここまで話を聞き、 以前は同じ魔物狩りをしていたガルンは二人について少し興味が湧いた。
「二人は魔物狩りになるまでは何を? 」
その質問にまず、 デフィートが答えた。
彼は魔物狩りを始める前までは大陸北方の普通の田舎に住んでいたそう。
生活は決して豊かではなかったが、 それなりに幸せに暮らしていた。
しかし、 ある日に魔物を率いた魔族の軍勢に集落が滅ぼされ、 両親も友人も失ったという。
その時は運良く瓦礫の下で難を逃れた彼は、 後に魔物狩りをしつつ魔法の修行を重ね、 今では『大喰らい』と呼ばれるまで有名になったそう。
ただ正直、 富も名誉も彼にとってはどうでもよかった。
親も友人も殺され……死の恐怖を味わったあの日から、 彼は生きる意味を見失っていたのだ。
忘れもしない……瓦礫の隙間から見えた火の海……鼻にこびり付くような人の焼ける臭い……
子供ながら大きな絶望と、 魔族に対する憎しみを抱いた。
その時から、 彼に『大体何でも貫く魔法』が宿った。
「じゃあ、 今も故郷を滅ぼした魔族を……? 」
話を聞いたカミツグは、 自分と似た境遇のデフィートに対し少し心配している様子。
しかし、 彼の心配とは裏腹に、 本人はさほど復讐に執着はしていなかった。
「最初こそはそうだった……だが、 そこのオッサンに会って解かったんだ……復讐したって何もならねぇってな……」
「俺も若いころに女房と子供を亡くしてな……街を襲撃した魔族に殺されたんだ……」
話の流れに乗り、 今度はヴェイロが過去を語り始めた。
彼は以前、 ベリスタ辺境の街に住んでいたという。
当時は妻も子供もおり、 稼ぐために魔物討伐を専門とした軍隊で働いていたそう。
月に数回ほど家族に会い、 それなりに幸せに暮らしていた。
しかしある日、 どこからか現れた魔族の軍団に街を襲われた。
当時、 偶然帰省していた彼は家族を守るために応戦するも、 妻と子供を失った。
当然妻と子供を殺った魔族は殺した……
だが、 何も変わらなかった……
残ったのは自分の命と、 戦うために身に着けた魔法だけだった……
それから流れに流れ、 彼は貴族の護衛やお遊び感覚で出された依頼を受けたりと、 今の自分に残されたモノで出来る限り生きているという。
「復讐ってのは気分は晴れるだろうが、 失ったモンは戻って来ねぇし……何かが手に入る訳でも無ぇ……人生何を得ようが失おうが、 結局は残ったモンで生きていくしか無ぇって事だ……」
「それで俺もオッサンに習って生きてく事にしたって訳よ……」
皆、 人生の中で何かを得て、 何かを失う……
そこで生きる事を諦める者もいれば、 憎しみに生きる者もいる……
中にはデフィートとヴェイロのように、 残されたモノで精一杯生きる者もいる……
……生き方も人それぞれなんだな……
二人の話を聞いたカミツグは、 世の中の広さを実感した。
そんな事を話している内に、 一同は毒竜がいる洞窟に到着した。
・
・
・
その頃……
街を散策しながらウルと行動していたエイン。
その時、 ふと見覚えのある人物が目に入る。
「あれ、 水の魔法使いのお姉さん……と……お兄さんは誰? 」
「ジードじゃねぇか、 お前ら知り合いだったのか? 」
二次試験にてエインと一緒だったラファーテと、 ウルと一緒にいたジードがいたのだ。
予想外な組み合わせに二人は驚きつつ、 四人で暇つぶしをする事となった。
話を聞くと、 ラファーテとジードは同じ魔法学校を卒業した仲だったそうで、 卒業後も時々二人で出掛ける事もあるという。
……ほぉ~……つまり付き合ってるって訳だぁ……
二人の関係を聞いたウルはそんな想像をしながらニヤニヤしていた。
一方で、 エインは魔法学校という場所に興味津々の様子。
「ねぇねぇ、 魔法学校ってどんなところなの? どんな魔法を教えてるの? みんなは学校でどう過ごしてるの! ? 」
「え……えっと……」
「好奇心旺盛な子だな……」
質問攻めをする彼女に二人は動揺しつつも、 魔法学校での事を聞かせた。
話を聞いてる間、 エインは子供のように目を輝かせながら手記にメモを取っていた。
そんな相変わらずの彼女を横目に、 話を聞いていたウルはある質問をする。
「なぁ、 二人って学校ではどうだったんだ? ジードはまぁ優等生だったんだろうが……ラファーテは? 」
ウルの質問にラファーテは少し恥じらう様子を見せつつも、 口を開く。
「その……私はあまり成績が良くなくて……いつもジード君に教わってたんです」
「へぇー、 貴族って言うからてっきり頭がいいモンだと思ってたが」
「貴族は常に高い水準を目指してますからね……それ故に子供が身の丈に合わないような学校に入れられる事もあるんです……」
昔、 入学したばかりのラファーテは右も左も分からず、 成績的に進級できるかも怪しかった。
成績の悪さで両親に怒られる日々が続き、 耐え切れず一人で泣いている時もあった。
そこに、 偶然彼女を見かけたジードが手を差し伸べ、 勉強を教えてくれたのだという。
それから、 ラファーテに勉強を教えている内に、 自分と同じように成績が優れない生徒を助けたいという思いを抱くようになったジードは、 将来魔法学校の教師になるのが夢なのだそう。
そんな心優しい彼にすっかり心を惹かれていたラファーテも、 現在彼と共に教師になるための勉強を頑張っているという。
「私以外にも、 勉強で困ってる生徒が大勢いるはず……だから今度は、 私が助けてあげられるようになりたいんです……」
「それで実績と経験のために全国魔試に参加する事にしたんです……」
「じゃあ、 二人は資格や特権が目的って訳じゃねぇんだな」
「資格は……できれば欲しいですが、 教師になる上で必須という訳ではないので……」
皆、 それぞれ理由があって全国魔試に臨んでいる。
資格の為、 腕試しの為、 経験の為……中には魔法使いの質を見極める為などと、 様々だ。
エインはそんな人々の人生談を聞き、 目を輝かせていた。
彼女にとって他人の人生を覗くのは、 まるで別世界を冒険するようなモノなのだろう。
そんな事がありつつ、 四人は引き続き時間を潰した。
・
・
・
同刻、 街の図書館にて……
フードを深く被った一人の男が、 とある魔法に関する本を読み漁っていた。
ベスタである。
本の内容は魔法術式の原理と応用技術に関するものだった。
第二次試験以降、 エインに敗北した彼は彼女が使った魔法に興味が湧いたのだ。
……あの時、 僕が体感したのは術式や詠唱も用いない……恐らく、 全く新しい体系の魔法……僕が『魔法』として認識すらできなかった……
彼が体感した『魔力の神髄』、 それの一端でも知ろうと図書館の本を片っ端から漁っていた。
しかし、 どの本にもそれに関する記述は見られなかった。
無理もない、 『魔力の神髄』は現在まで殆ど研究が行われていない未知の分野だからだ。
その領域を知る者は、 カルミスを除いて世界中を探しても片手で数えられる程しかいないだろう。
所詮は一介の魔法使いでしかないベスタは、 その領域への理解が及ばず頭を抱えていると……
「……あら、 誰かと思えば……エインに打ちのめされた『イキリ魔法使い』じゃない……」
背後から一人の女魔法使いが声を掛けてきた。
フィロウである。
「おや、 誰かと思えば……あの旅人様と一緒だった『雑魚魔法使い』じゃないか……」
ベスタはそう言い返すとフィロウの方を見る。
彼女もまた、 ベスタと同じように大量の魔法に関する学術書を持っていた。
どうやら目的は彼と同じのようだ。
「……」
「……」
二人はしばらくギスギスした雰囲気で睨み合いつつも、 相席となる形で本を読み始める。
……こんな事しても無駄だって……分かってるんだけどねぇ……
本を読み漁りつつも、 フィロウは自身では『魔力の神髄』に踏み込むことは不可能だと理解していた。
しかし、 彼女もまた魅了されていたのだ。
エインが見せた、 より深く……不可解で……神秘に満ちた、 未知の世界……
その一端に……
そうして時が過ぎていき、 一通り本を読み終えたベスタは彼女に話しかけた。
「君は……何故魔法使いに? 」
何の関係もない、 唐突な質問だった。
それに対し、 フィロウは本を読みながら静かに答える。
「別に……ただ私は魔法の才能があって、 成り行きでって感じ……」
フィロウは、 何の変哲もない普通の家庭で生まれ育った人間だ。
両親は普通の仕事で普通なくらい稼ぎ、 普通の生活をしていた。
そんな両親がいつも口にしていた言葉は、 『普通に生きられるならそれでいい』だった。
その影響もあって、 フィロウ自身も将来は普通の人間として生きていくのだろうと思っていた。
自分に魔法の才能がある事に気付いたのは、 成人して間もない頃だった。
それはありふれた日常の中で、 火を扱っていた時だった。
気付いた時、 彼女は大いに喜んだ。
魔法がそれだけ扱える者には稼げる仕事が多いからだ。
これで両親にもっと楽な生活をさせてやれる……そう思っていた。
しかし、 両親はあまり嬉しそうではなかった。
稼げる仕事にはそれなりの危険が伴う。
両親にとって、 我が子が危険な道を歩むというのを受け入れ難いのは当然の事だろう。
その時、 彼女にとって初めて親と大喧嘩をした。
自分が正しいと思う事を否定された気分になったからだ。
そんな事があって以来、 彼女は家出をして戻る事は無かった。
……結局、 魔法の勉強と訓練を重ねてここまで来たけど……自分が何をしたいのかも分からず仕舞い……
『両親にいい生活をさせてやりたい』という動機も無くなったのに、 自分は何故魔法使いになったのか……
自分を否定した両親への反抗心か……金を稼いでいい生活を送りたかったからか……才能ある自分を褒め称えて欲しかったからか……
否……そのどれでもない……
彼女はずっと自分の本心が分からずにいたのだ。
エインに出会うまでは……
「……でもまぁ……今回の試験で少し見えてきた気がする……」
「ふぅん……? 」
独り言のように過去を語る内に、 フィロウは段々分かってきた。
自分は何故魔法使いになったのか……そして、 何故今になっても魔法を学ぼうとしているのか……
あの時、 エインが見せた魔法に何故魅力を感じたのか……
それはきっと、 初めて魔法を使った日……彼女が見た魔法の炎と同じモノを感じたからだ。
美しかったのだ
初めて魔法を目にしたその時から、 既に彼女は魔法に魅了されていたのかもしれない。
「……きっと、 魔法が好きなんだと思う……私……」
静かに笑みを浮かべながらそう言うフィロウに、 ベスタはただ頷きながら素朴な返事をした。
すると、 今度はフィロウがベスタに過去の事を聞いた。
しかし……
「ご想像にお任せするよ……」
彼はそう言うだけで、 その場で語る事は無かった。
ただ、 穏やかな表情を浮かべる彼を見るに、 境遇はフィロウと似通うモノがあるのだろう。
「フン……イキリ魔法使い……」
「雑魚魔法使い……」
お互い憎まれ口を叩きつつ、 二人は再び本を漁り始めた。
・
・
・
夕刻……
四人の男達が何か大荷物を背負って街に戻ってきた。
ガルン、 カミツグ、 デフィート、 ヴェイロの四人である。
一同は命崩竜の討伐に成功し、 その戦利品を持って戻ってきたのだ。
「いやぁ~アンタらがいて助かったぜ! 特にガルン、 アンタの素早い防御が無かったら今頃お陀仏だったよ」
「カミツグの兄ちゃんも凄まじい剣裁きだったよ、 俺も剣の鍛錬でもしてみるかね……」
二人の戦いぶりに大絶賛するデフィートとヴェイロ。
ガルンとカミツグも、 二人の魔法が無ければ討伐は困難だったろうと称賛する。
……今回の戦いで魔法使いの存在がいかに重要か分かった気がする……試験が終わる前にウルへの日ごろの感謝の品でも買うか……
デフィートとヴェイロと話をしつつ、 ガルンとカミツグはそんな事を考えていた。
そして、 命崩竜の戦いを通し、 すっかり意気投合した一同は、 その後酒場で一晩明かすのだった。
続く……




