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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第三十九話

前回、 二次試験にてそれぞれメダルを手に入れたエインとウル。

しかし、 ウルの方はヤヴィルドの襲撃に遭い、 戦闘となってしまう。

試験区域の森の中、 上空で二人の魔法使いが凄まじい戦闘を繰り広げている。

ウルとヤヴィルドである。

ヤヴィルドは幾つもの魔法陣を展開し、 魔力で出来た光の剣や氷の槍を飛ばす。

それをウルは二種類の防御魔法を駆使して攻撃が当たる寸前で防いでいく。

……このジジイやりやがる……エネルギー系と物理系を同時に使って攻撃するなんて……


普通、 攻撃魔法には物理系とエネルギー系の両方を多重魔術式展開以外で同時に発動させる方法はほぼ無い。

訓練次第で可能ではあるものの、 想定される訓練の厳しさと気が遠くなるような時間が必要な事から現実的ではないとされている。

ただ、 ヤヴィルドは違う。

彼は生まれ持ってスバ抜けた魔術の才能がある、 加えて貴族出身である事から環境にも恵まれていた。

そのような奇跡と、 長い研鑽が彼を攻撃魔法の二種類同時発動が可能とした。


そんな彼が何故、 今になって全国魔試を受ける事にしたのか。

欲しいのは権力か、 または名誉か……否、 そのどれでもない。

彼にとってこの試験はただ単に名誉や権力を手に入れる為のモノではなかった。


魔法使いとは誇り高きモノでなくてはならない。


幼少の頃からそう教えられてきた彼は、 現代の魔法使いの水準に疑問を持っていた。

人間が魔法を使い始めたのは遥か数千年前、 そこから幾度の研究と開発を経て人々は魔法の技術を進歩させてきた。

しかし、 それは必ずしも良い事ばかりではなかった。

完成され過ぎた魔法技術は人間達を怠けさせたのだ。

前よりも効率的に、 前よりも簡単に、 そんな誰もが使えるような魔法を目指し、 研究に研究を重ねて開発された現代の魔法技術。

人々はその魔法技術に満足してしまう。

結果、 魔法技術の進歩は停止してしまったのだ。


……終わりなんて存在しない筈の魔法に対し……人間は現状に満足してしまっている……嘆かわしい……そんな現代の魔術師が、 『国家魔導士』の称号が本当に相応しいのか……

そう考えていたヤヴィルドはこの試験で現代を代表するであろう魔法使い達を試そうとしていたのだ。


「……エルフよ、 今の人間の魔法をどう思う……」


戦いの最中、 ふと彼はウルに突拍子もない質問を投げかけた。

ウルも思わず攻撃の手を止め、 少し考える。


「……進化はしてるが面白味に欠ける……そんな感じだな」


意外にも彼女は真面目な顔で答える。

その返答にヤヴィルドは自分もそうかと聞くと、 ウルは首を横に振る。

彼女曰く、 ヤヴィルドのような強い魔法使いはカルミスを除いて他にいないとの事。

それはまるで今より数百年も昔、 魔法研究が最も盛んだった時代にいた魔法使いと戦っている気分だそう。

そう語るウルの表情は少し楽しげだった。

すると、 懐かしむ表情を見せながら彼女は言った。


「だがなジジイ、 今の魔法使いも捨てたモンじゃないぜ? 」


彼女は信じているのだ。

大昔だろうと現代だろうと、 全ての魔法使いには大陸最強に届く程の『野心』と『可能性』を秘めているという事を……

…………

一方、 ヴェイロとジードは追手の二人と戦闘していた。

ヴェイロが召喚した分身達は近接戦闘で二人の相手をしている。

しかし、 流石と言うべきか、 追手の二人もヤヴィルドに劣らず強い。

十体もいるであろうヴェイロの分身をたった二人で捌き切っているのだから。

……相手の二人はヤヴィルド程ではなくともどちらも手練れだ……現状からするにこのままでは俺の魔力が無くなって終わるのは目に見える……

ヴェイロは戦況の分析をしつつ、 少し焦りを感じている。

そんな事をしていると、 二体の分身が倒されてしまった。

魔力が枯渇してきた事で分身の動きも鈍くなっているのだ。


「……まずいな……思ったより奴らはやり手だ……」

「ウルさんの言っていた通りですね……」


それは試験開始から二日目の夜の事……

ウルはヴェイロの固有魔法について聞き、 この試験における彼の戦い方について話をしていた。

彼の『影を操る魔法』は、 全てが影の中と言ってもいい『夜』では最強の魔法と言ってもいい。

しかし、 事は全てそう都合よく起きるモノではない。

ヴェイロの魔法は根本的に魔力の消費が激しい傾向にあるため、 連続的、 もしくは長期的戦闘には向いていない。

故に、 必然的に戦い方は短期決戦に絞られてしまうのだ。

加えて敵が襲撃してくるのは日が出ている内という事も十分あり得る。

そうなれば彼の持ち味は発揮できず、 苦戦する事だって考えられる。

そう考えたウルはある提案をする。


「ヴェイロ、 お前は何があってもジードと行動しろ……昼のお前の力を最大限に引き出せるのはこいつだけだ」

「それってどういう事ですか……? 」


彼女の言葉に疑問を抱くジード。

ウルが言うに、 ジードの『光の反射を操る魔法』は『影を操る魔法』との相性は抜群だという。

出来るかどうかはジード次第であるが、 原理的には彼の魔法で指定範囲を影で覆う事も可能だそう。

しかし、 そんな芸当はやった事も無い彼にとって、 それは至難の技である。

流石に無理だと言うジード。

だが、 ウルは不敵な笑みを浮かべる。


「いいや……お前はやってのけるさ……」


彼女は人間が秘める可能性を信頼していた。

何百年と人間の進化を見て来た故に、 よく知っている。



危機が迫った人間は時として、 可能性の壁を打ち破ると……



「全く……無茶言ってくれますよ……やった事も無い事をやらせるなんてッ……! 」


そう言いながらジードは魔法陣を展開する。

……影とは、 光が遮られ届かなくなる事で現れる……実に簡単だ……僕の魔法は『光の反射を操る魔法』……影を作るなら……そう、 空間内の全ての光を反射させればいい……

その時、 彼がイメージしたのは『外側に光を反射するドーム状の鏡』だった。

すると、 その場にいた全員が影で覆われる。

それを見たヴェイロは察し、 分身を消して一気に畳みかける。

次の瞬間、 追手の二人の周囲から無数の黒い棘が飛び出し、 防御魔法を貫いて二人の手足に突き刺して拘束した。

ヴェイロとジードの勝利である。

決着が着くや否や、 魔力の消費で疲弊した二人は魔法をすぐに解除する。

……勝てた……が、 やはり俺の魔法は燃費が悪過ぎるな……今日はもう魔法は使えない……

それはジードも同じだった。

無理も無い、 自分の魔法とは言え慣れない事をしたのだ。

しかし、 まだ敵は残っている、 疲れている場合ではない。


その頃、 ウルの方では


「……やっぱ無理か……」


ボロボロになりながら膝をつくウル。

その眼前にはヤヴィルドが彼女を見下ろしている。

彼女は敗北してしまったのだ。

……攻撃魔法も防御魔法もどちらを取ってもあのジジイの方が上……まぁ、 分かってた事だが……

相手は遥か格上、 逃げる事も出来なかったウルは始めからこの結果は目に見えていた。

無理もない、 彼は五つもの固有魔法を生まれながら持っている。

固有魔法を持たないウルにとって、 彼に挑むのはネズミが像に挑むようなものだ。


そうして、 ヤヴィルドは持っているメダルを差し出せと言い寄る。

しかし、 ウルは不敵な笑みを浮かべたまま動こうとしない。

最後の悪あがきかと思ったヤヴィルドは構え、 留めの魔力光線を発射した。

次の瞬間、 ウルの目の前に人影が現れ、 光線をかき消した。


「……へっ、 やれば出来るじゃねぇか……」


彼女の前に現れたのはヴェイロの分身だった。

分身は自分の身体を盾にして守ったのだ。

本体のヴェイロはジードと共に追手の二人から逃げていたため、 遠い場所にいる。

戦いが終わって急いで駆け付けようとしても時間が掛かる。

彼はウルの敗北を予期して、 分身を彼女の元まで送っていたのだ。

それを見たヤヴィルドは一瞬驚くも、 空かさず追撃を放とうとする。

すると、 分身はウルの肩に触れ、 一瞬で彼女を影の中に沈めた。


前にも述べたように、 ヴェイロの『影を操る魔法』は自由自在だ。

そう、 その能力は分身や攻撃手段だけではない。

自分を含めた対象が影にいる場合、 その中に沈めて潜伏させる事が出来るのだ。

影の中にいる間は如何なる攻撃も届かないだけでなく、 気配や魔力による探知からも逃れる事が可能。

そして、 その効果を破る方法は今のところ存在しない。

言わば現代では最強の潜伏魔法という訳だ。


「逃げおったか……」


メダルを持った標的はいなくなり、 追跡も不可能だと悟ったヤヴィルドは微笑する。

……儂の探知にも引っ掛からんとは……あの男、 やりおるな……

そして彼は静かにその場を立ち去った。

…………

無事危機を乗り越えたウル達は森の茂みの中に隠れていた。

我ながらあの状況からよく脱出できたと安堵するヴェイロ。

ジードはさっきの戦いで魔力を使い果たし、 動けずにいる。


「しっかし頭の回る奴だなお前、 そっちでも戦ってるってのにこっちに分身を送ってくるなんてよ」


安全になった途端に軽い表情を浮かべてヴェイロを褒めるウル。

ヴェイロ曰く、 自分は見習いの頃からヤヴィルドの逸話をよく聞いていたらしく、 彼の恐ろしさを誰よりも知っているという。

故に、 今回の戦いでウルはヤヴィルドには確実に勝てないと分かっていたそう。

それはウル自身も重々承知の上だった。

しかし、 それでもウルは試したかったのだ。

何百年と重ねてきた自分の魔法技術が、 大陸最強に手が届くのかを。

そんな思惑を語るウルに それで手は届きそうか と、 ヴェイロは呆れ口調で聞く。


「……いいや、 無理だなありゃ……大陸最強があのジジイである限り、 俺に大陸最強の称号が回ってくる未来は無いね」


寝転びながら彼女は潔くそう言い放つ。

同時に、 不敵な笑みを浮かべながら言った。


「だが、 エインなら届くかもな……」

「エイン……先日話していたウルさんの仲間ですか……」

「そいつの本領は剣術だろう、 それに加えて大陸最強級の魔法使いだなんて……それはもはや神の域だぞ」


試験中、 エインについてウルから少し聞いていたヴェイロとジードはいくら剣が強くとも魔法まではと否定する。

……神の域か……確かに、 アイツの強さを表現するなら……その言葉は言い得て妙かもな……

二人の話を聞いてウルはそんな事を考えつつ、 空を見る。

空は曇り、 その中から時々僅かな閃光が走る。

遠くからはパラパラと音が聞こえる辺り、 結界の外は雷雨に見舞われているのだろう。


その頃、 エイン達はとあるパーティと戦闘になっていた。

フィロウとラファーテは杖を構え、 魔法陣を展開する。

敵パーティの内二人は彼女らの攻撃に対処する。

もう一人、 フードを深く被った男はじっとエインの方を見ている。

恐らくその男が敵のリーダーなのだろう。

エインは男の視線に気づき、 空かさず構えると


「場所を変えようか……」


男は怪しく光る水色の瞳を覗かせながら言い、 手を前に出して魔法陣を展開する。

次の瞬間、 エインのすぐ隣にいた筈のフィロウとラファーテの姿が掻き消え、 周囲の景色が一瞬歪む。

空間が分断されたのだ。

エインはパーティから分断され、 一人の男と戦う事となる。

男の名はベスタ、 魔物狩りをしながら世界を放浪する無名の魔法使いである。

ただ、 彼の噂は同業者達の間では有名で、 その実力は大陸最強のヤヴィルドにも届くのでは……とまで言われている。

その所以となったのは、 彼の固有魔法にある。

それは……


「君と僕がいるこの空間は僕が魔法で創り出した想像の世界、 何もかもが僕の思い通りになるんだ……」



『想像した空間を創り出す魔法』



その性質は至って単純、 ベスタの脳内で想像した世界を現実に具現化し、 指定した対象を空間に引きずり込む事が出来るのだ。

加えて、 その空間では重力や地形など、 あらゆる物理法則が彼の思い通りになる。

故にこの魔法を発動すれば、 戦況が一気に有利となるのである。

そして彼曰く、 この魔法を破った者は今までに誰一人としていないそう。


そんな彼の魔法を目の当たりにしたエインはじっと辺りを見渡しているだけだった。

……この魔法すっごいなぁ……色んな術式の線が複雑に絡み合ってる……解くのは難しいなぁ……

彼女には魔力が見えている、 故にその魔法がどのような術式でどのように構築しているのかが全て解る。

ただ、 今回の魔法は概念的かつ規模が大きい、 その分術式も非常に複雑であり模倣も解除も短時間では行かない。

他に魔法を解除する方法と言えば、 術者を倒す事だ。

しかし現在、 ベスタは自分の思い通りになる空間にいる。

この空間で彼を倒すのはとてもじゃないが現実的とは言えない。


そんな事を考えながらも彼女は地形が常に変化する空間の中、 ベスタの攻撃を防御する。

防御をしつつ、 多重魔術式展開で作り出した様々な魔法で空間を構成する魔術式の破壊を試みる。

しかし……

……物理的にもエネルギー的にもこの空間じゃ影響が少ないかぁ……もうちょっと観察したいけどあまり時間かける訳にも行かないよねぇ……私が大丈夫でも外の二人が大丈夫か分かんないし……


この世界の魔法は、 主に『三つ』の種類に分類する事が出来る。



まずはエネルギー的魔法、 これはどの魔法使いでも必ず扱える基本的かつ代表的な魔法種である。

火や風、 電気……基礎的なモノになると、 魔力そのものを固めたエネルギー射出などと、 実体が無い物質を操る魔法の事を指す。

魔力消費が比較的少ないという特徴を持ち、 連発しやすくて使い勝手が良く、 様々な場面で役に立つ魔法種とも言われている。

故に、 歴史的に見ても一番多く術式が開発されているため、 実戦においても最も目にする魔法とも言えよう。


次に物理的魔法、 これは前者とは対を成す魔法種と言えよう。

主に水や岩、 植物などの実体のある物質を操る魔法の事を指す。

エネルギー的魔法よりも魔力の消費が激しい物が殆どであるため、 好んで使用する魔法使いは比較的少ない部類である。

ただ、 攻撃性で言えばエネルギー的魔法よりも確実なダメージを与える事が可能なモノが多いため、 一概に使えない魔法という訳ではない。

因みに、 物理的魔法の魔力消費に関して、 近年ではカルミスを始めとした魔法管理協会全体が『燃費の良い物理的魔法の術式』の開発に注力している。


最後は概念的魔法、 これは世間一般ではあまり馴染みの無い魔法種である。

速度、 重さ、 または言葉といったような、 エネルギーでも物体でもないモノを操る魔法の事を指す。

分かり易い例を挙げるならば、 ウルの『引力の方向を変える魔法』や、 ヒュリデの『指定した物の動きの速度を十分の一にする魔法』などが当てはまる。

他二つと違う点は、 この種の魔法の殆どは才能に左右されないという所だ。

つまりその概念に対する『原理の理解』、 または『術式として可視化』さえされれば、 理論上誰でも扱う事は可能なのである。

実例として、 先ほどウルとヤヴィルドが使っていたような『空を飛ぶ魔法』が正にそれである。

『空を飛ぶ魔法』は数百年前にカルミスが可視化した魔法術式を開発した事で、 原理を完全に理解していない者でも扱えるようになった『世界で初めて民間魔法化した概念的魔法』とされている。

ただ、 それでも未だ発展途上ではあるため、 他二つと違い、 想像力と技術に偏る部分が大きい概念的魔法は、 かなりの物好きでない限り手を出す者はいない。



エインがこの空間で使ったのはエネルギー的魔法と物理的魔法の二つ。

ただ、 いずれも空間を少し揺るがす程度の効果だった。

だとすれば残すは概念的魔法。

そんな事を考えつつ、 エインはベスタの魔法術式の観察を続ける。

すると、 彼女は何かに気付く。


「……あれ……なんだろう……」


……この糸……


続く……

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