第三十七話
前回、 遂にフィエレンテに到着した一行。
目的だった『全国魔試』に関しては幸運な事に開催時期が近く、 受験する事が出来た。
そしてエインとウルは『全国魔試』に挑むのだった。
・
・
・
『全国魔試』第一次試験……
闘技場にやって来た受験者達はヴァガーレを目にする。
ヴァガーレは甲冑のような見た目をしており、 手には巨大な剣と盾を持っている。
それを見た受験者達はどよめいた。
普通、 ヴァガーレというのは岩の身体を持ち、 武器は用いず肉弾戦が主流だ。
明らかに普通ではないヴァガーレの姿に彼らは驚いたのだ。
そんな受験者達を余所に、 試験官は受験者を一人呼び出し、 早速試験を開始した。
一人目の受験者は戸惑いつつも氷や炎の魔法を放ち、 ヴァガーレに攻撃する。
しかし、 ヴァガーレは見た目に似合わない程の速度で動き回り、 受験者の魔法は全く当たらなかった。
動きまで速いのかと困惑する受験者達。
そして一人目の受験者は敢え無くヴァガーレに突進され、 吹き飛ばされてしまった。
戦闘不能となった受験者は脱落し、 試験官は早々に切り替えて次の受験者を呼ぶ。
……なるほどな……ここで粗方選別するために振るいをかけていくって訳か……
そんな調子で次々と選別されていく受験者達。
そして、 遂にエインの出番となった。
呼ばれた彼女はヴァガーレ達の前に立つ。
……あのヴァガーレ……今までの戦いを見た感じ熱にも冷気にも耐性がある……弱点対策はバッチリかぁ……ここまで有効だったのは電気か強い衝撃……あと拘束とかも効いてたっけ……この中で手っ取り早いのは……
前の受験者達のヴァガーレとの戦闘を見ていたエインはその性質を大方推測した。
「じゃ……この魔法かなぁ……」
既に合格者も出ている一次試験を見ていたエインは、 その合格者の戦い方を少し真似する事にした。
すると次の瞬間、 ヴァガーレは一瞬でエインの目の前まで移動し、 剣を振り下ろしてきた。
いつもの体術も封じられているエインは避けられない。
攻撃が直撃すると思われたその時……
『ッ! 』
突然、 ヴァガーレの動きが止まった。
それを見たエインは軽く指を回し、 ヴァガーレに何か命令する。
すると、 ヴァガーレは躊躇なく手にしていた剣で自分を何度も突き刺し、 停止してしまった。
何が起きたのか理解が追い付かない受験者と試験官達。
しかし、 その中でも理解していた者が何人かいた。
……ヴァガーレに刻まれていた術式を自分の物に上書きしたのか……あんな一瞬で……
エインが何をしたのかを理解したアフィーレは驚愕する。
魔法術式の上書き、 それは簡単な技ではない。
魔法には全て決まった術式が刻まれており、 上書きは刻まれている術式になぞって元の魔力よりも強い魔力で描き直す事で完成する。
ただ、 その術式のなぞりが一ミリでもズレれば失敗し、 再び一からなぞらなければならない。
その為精密な魔力操作が必要とされており、 ましてや一瞬で行う事は普通なら不可能である。
それをエインは先の一瞬で術式の上書きを完成させたのだ。
試験では受験者は魔法以外の戦闘は認められない。
しかし、 対戦相手のヴァガーレ自身による自滅であれば、 その攻撃が魔法でなかろうと問題はない。
そう考えたエインは他の受験者のある魔法を参考にやってみたのだ。
その魔法は『視界に入れたモノを停止させる魔法』である。
前の受験者はこの魔法でヴァガーレの動きを止め、 無数の魔法で破壊した。
そこで、 彼女が参考にしたのはヴァガーレの行動そのものを制限する戦い方だった。
では、 何故魔法をそのまま真似しなかったのか……
実はこの時エインは、 前もってウルからある忠告を受けていた。
魔法の模倣は絶対にバレないようにしろと……
理由は簡単、 バレれば対策されるからだ。
優秀な魔法使いが多く集まる『全国魔試』において、 相手の戦力を分析する者も必ず存在する。
そこでエインの魔法の模倣がバレでもしたなら、 決して模倣されまいと彼女の前では手の内を見せなくなる。
不意を突けば一撃で決着の着く魔法を持つ者もいる中、 いくらエインでもそれはマズいと考えたウルは、 前もって彼女にそう言っておいたのだ。
……よし……うまくやってるな……
見ていたウルはエインの戦いを見て安心する。
そんな事がありつつ、 エインは無事一次試験を突破した。
そしてその後、 ウルの出番が来る。
他の受験者の戦いぶりを見ていたウルは、 ヴァガーレの前に立つと余裕の表情を浮かべる。
……ここまで見てたが、 やっぱ皆若ぇなぁ……教科書通りに戦ってるって感じだ……もっと柔軟に考えて戦えっての……
恐らくこの中で最も年長者である彼女は、 手本を見せてやろうと言わんばかりに張り切る。
そして、 ヴァガーレが動き出した次の瞬間
「ほい」
と、 拍子抜けした声でウルは指を弾くと、 ヴァガーレの身体が一瞬にしてバラバラになって吹き飛んでしまった。
彼女が何をしたのか分からず唖然とする他の受験者達。
しかし、 エインは理解していた。
……あぁそういうやり方もあったかぁ……確かに見た目の割には軽い感じだったもんね……魔力ぶつけるだけでも飛んでいっちゃうのかぁ……
そう、 ウルはただ固めた魔力を一気に放ち、 ヴァガーレ達を吹き飛ばしただけだったのだ。
……本来弱点である熱や冷気に対する耐性の他、 機動力を上げる事で魔法発動の隙を極力与えないようにしてやがる……一見すると強敵に見えるが、 柔軟な考え方ができる奴からすれば簡単な問題だ……弱点に対する耐性を上げてる分、 物理的攻撃に弱くなるのは必然……その上、 俊敏な動きの為に軽量化し過ぎてるからちょっとした魔力の爆発を起こせば紙みたいに吹っ飛ぶ……自慢の機動力も爆発みてぇな広い範囲の攻撃をしちまえば役に立たねぇ……
彼女の言う通り、 ヴァガーレとは熱や冷気といった弱点に対する耐性を集中させると、 単純な物理による攻撃にめっぽう弱くなる傾向がある。
これは防御魔法の術式にはエネルギー的攻撃への耐性と物理的攻撃への耐性を複合して構築する事が出来ないという特性から来ている。
加え、 今回の試験に使用されたヴァガーレは機動力が高い。
それは逆に言えばその分軽量化されているという証拠でもある。
つまり、 この試験のヴァガーレは単純な魔力爆発による衝撃波でバラバラに吹き飛ばされてしまうという訳である。
一次試験はそういった知識も試されるのだ。
こうして、 エインとウルは無事一次試験を突破した。
この時点で一次試験の合格者は僅か四十人程、 半数以上の者が脱落している。
…………
翌日の早朝、 続いて二次試験が始まる。
会場は森林地帯だ。
森林地帯には比較的魔物の数は少ない、 ただ、 空を飛ぶ種類が殆どを占めるため無作為に飛翔系の魔法を使うのは危険である。
つまり、 空からの探索は有利である一方で、 そういったリスクも考えられる場所となっている。
そんな会場をエインとウルはどう攻略するかを考えている中、 試験官が説明を始める。
会場の領域は魔法管理協会の創始者 カルミスが構築した結界内とする。
結界は物理攻撃も魔法攻撃も全て分子レベルに分解させて無効化させる効果を持っており、 破壊は不可能。
そんな結界があるというのに、 領域の外に出れば即脱落とすると言う試験官に、 始めから出られる訳が無いのにと皆呟く。
ただその中でウルは違った。
……結界があるってのにそんな事を言うって事は……以前に結界を破壊した受験者もいるって事か……
そう考えたウルはエインの事をチラッと見る。
相変わらず何を考えているのか分からない表情で辺りの景色を眺める彼女。
流石にエインでも結界を破るのは無理かとウルは首を軽く振る。
そんな事がありつつ、 試験官の説明も終わりパーティメンバーの抽選が行われた。
結果、 エインとウルは別パーティとなってしまった。
……ウルとは別々になっちゃったかぁ……まぁ何とかなるかぁ……
知らない者とパーティを組むことに若干の不安を感じていたエイン。
こうして二次試験が開始された。
第二次試験、 エインのパーティにて……
エインと同じパーティとなったのは、 元勇者パーティの魔法使いのフィロウ。
もう一人は水の魔法を得意とする貴族出身の魔法使いの少女、 ラファーテである。
既にエインの事を知るフィロウは彼女と同じパーティとなった事に安心感を覚えつつも、 少し恐怖も感じていた。
ラファーテはそんな彼女の様子を見て、 二人は既に知り合いなのかと尋ねる。
「知り合いと言えば知り合いだけど……まぁ腐れ縁みたいなモノね……」
「短い間だけどよろしくね♪ 」
関係性の想像が付かない二人を見てラファーテは困惑する。
……この人達……一緒にいて大丈夫かな……
そんな事がありながらも三人は早速メダルの捜索に掛かる。
一方、 ウルのパーティでは……
彼女は二人の男魔導士と組んでいた。
一人は頭に傷跡があるのが特徴の中年の男、 ヴェイロ、 元はベリスタの貴族付きの魔導士をやっていた。
それ以前は対魔物戦闘員で構成された軍隊に所属していた経歴も持っており、 戦闘に特化した魔法を扱う。
もう一人は眼鏡を掛けた青年のジード、 リ・エルデにある魔法学校の新卒業生である。
彼は学校を首席で卒業しており、 数少ない固有魔法持ちでもある。
ただ、 現在まで彼は固有魔法を使用していないため、 その内容は謎である。
……戦闘経験があるヴェイロはともかく、 ジードは不安がある……魔法学校の生徒ってのは大抵教科書通りの事しか頭に無ぇからなぁ……臨機応変に戦えるかどうか……
ウルは二人の内、 特にジードの事を心配していた。
一次試験とは違って限りなく実戦に近い二次試験において、 魔物との実戦が少ない者がパーティにいるのは正直足手まとい。
下手をすれば全滅、 すなわち死だ。
そんな事を考えている傍から三人の頭上から巨大な鳥の魔物が何匹も襲い掛かって来た。
しかし、 一早く反応したヴェイロは防御魔法を展開して全員を守る。
「……ヴィウレーソか……空の魔物と言えば定番だな……」
ヴェイロは呟く。
大鳥魔、 空に生きる巨大な鳥の魔物である。
翼を広げると全長十メートルを超え、 図体の割に動きが素早い。
主に空で旋回しながら獲物を探し、 見つけると特殊なフェロモンを放って仲間を集め集団で襲う習性を持つ。
森を歩いているとたまに遭遇する程度には数が多く、 度々ヴィウレーソが原因で行方不明となる旅人や商人がいる。
故に別名『人攫いの鳥』とも呼ばれている。
因みに、 エインは以前にその卵を盗もうとして襲われた経験がある。
ヴィウレーソの攻撃を防いだヴェイロを見たウルは空かさず風の刃でその翼を斬り落とした。
しかし、 一匹を倒したところで別の個体が群れを成して三人に襲い掛かって来る。
ヴィウレーソは一度フェロモンを出すと周辺数キロに渡って仲間を集めるからだ。
埒が明かないと理解していたウルとヴェイロはジードを連れてすぐにその場から逃走した。
…………
その頃、 試験区域から少し離れた丘で待機していたメテスフとアフィーレは雑談をしながら茶を飲んでいた。
「どうだ、 今回の試験……合格者は出そうか? 」
「さぁね……ただ……面白いと思う人は何人かいるよ……」
アフィーレはそう言いつつ、 頭ではエインの事が気になって仕方が無かった。
……あの少女……恐らく、 他者の魔法を真似する事が出来る技術を持っている……一次試験のヴァガーレに刻まれた術式を読み解く能力とあの速さ……相当訓練されたか、 才能があると見れる……
そんな事を考えながらアフィーレは試験区域を囲む結界を眺める。
しばらく沈黙し、 彼は不穏な表情を浮かべながら まさかな、 と静かに呟いた。
こうして試験は順調に進み、 早くも三日が経過した。
その中で魔物に襲われて全滅し、 またはメダルの争奪戦で脱落してしまうパーティも現れ始めた。
試験開始直後は十を超えるパーティがいたのが、 今では僅か五組。
その中でエインとウルのパーティは生き残っている。
ウルのパーティでは無事メダルを入手し、 近くにあった洞穴で身を潜めていた。
一方、 エインのパーティでは……
「……見つからないわね……メダル」
「私ってこういう時は全然ツイてないんだよねぇ……」
「どうします、 このまま闇雲に探しても時間の問題です……やはり他のパーティから奪うしかないのでは……」
そう言うラファーテにエインとフィロウは悩む。
他のパーティからメダルを奪うという事はすなわち、 殺し合いになるという事。
なぜなら、 単にメダルを奪うだけでは奪い返そうとそのパーティは確実に追ってくる、 ならば追われないためにはどうするか。
相手パーティの内一人でも殺す事。
二次試験の不合格条件はパーティの内一人でも死亡した場合も含まれる。
もしメダルの奪い合いとなった時最も早く決着をつけるなら、 どちらかのパーティの内一人を殺すのが最も合理的と言える。
しかし、 エインにとって殺し合いは最終手段。
……あくまで試験だしなぁ……人殺しとかは出来ればしたくないんだけど……このままじゃ不合格になっちゃうのも事実だし……
試験開始から三日も経っていれば、 設置されているメダルはほぼ取られてしまっているだろう。
まだ発見されていないものを探すにしても望み薄だ。
そして考えに考えた結果、 三人は他パーティのメダルを奪う事に決めた。
ただ、 問題の奪い合いをどう制するかだ。
流石に不策で挑んで勝てる程、 この試験の受験者は甘くはない。
そこで作戦を立てようと提案するフィロウとラファーテ。
しかし、 エインは必要ないと言って歩き出す。
「いやいや、 流石にアンタでも作戦も無しに戦うのは無理でしょ……」
「罠の一つでも仕掛けた方が……」
考えなしに行動しようとするエインを慌てて止めようとする二人。
すると彼女は微笑みながら言う。
「大丈夫、 一次試験で全員の魔法は大体分かったから♪ 」
それを聞いた二人は首を傾げる。
しばらくして、 エイン達は森の中で身を潜めている一組のパーティを見つける。
メダルを探す様子も無く隠れているだけのパーティ、 確実にメダル持ちだ。
すると、 パーティを一目見たフィロウとラファーテは少し表情を曇らせる。
二人とも、 そのパーティにいる人物を知っていたからだ。
その人物は青い瞳の隻眼で金髪の男である。
彼の名はデフィート、 普段は魔物狩りをしている魔法使いである。
あらゆる街を転々しており、 他の魔物狩りでは倒せない魔物の討伐依頼を受けている事で有名であり、 通称『大物喰らい』と呼ばれている。
彼が何故強い魔物ばかりを狩るのかは不明、 噂では死に場所を探しているのではとも言われている。
そんなデフィートの噂話を知っていたフィロウとラファーテはまず敵パーティの中でデフィートを一番に観察する。
デフィートは一見警戒していないように見え、 周囲には敵を探知する魔法を蜘蛛の巣のように張り巡らせている。
それに加え、 彼は完璧に魔力を隠蔽している。
魔法使いの実力は魔力の隠蔽を見れば大体分かる、 優れた魔法使い程魔力を隠すのが上手い。
何故なら、 魔法使いにとって魔力量を知られるのは致命的であるからだ。
魔力量によって長期戦に持ち込むか、 火力勝負に出るか、 たった一つの情報だけでも対策のし方が分かってしまう。
故に、 フィロウやラファーテを含め、 この試験の受験者達の殆どは普段から魔力を隠している。
だがフィロウとラファーテと比べ、 デフィートは遥かに魔力の隠蔽が完璧だ。
それを感じ取った二人は勝てないと見て他を当たろうと提案する。
しかし、 エインは至って余裕そうな表情を浮かべている。
「……大丈夫、 勝てるよ」
そう言うと一人で敵パーティの方へ歩いて行ってしまった。
続く……




