第三十六話
前回、 すぐそこまでフィエレンテに到着する所まで来た一行。
その道中、 思わぬところでテフィーと再会し、 彼女からフィエレンテで行われる『全国魔試』について話を聞いたエイン。
話の中で、 試験を行う魔法管理協会の創始者に興味が湧いたエインは、 その試験に挑むことに決めた。
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森の中を進む事数日、 テフィーを含めた一行はようやく森を抜けた。
視界が開けた一同の前方に大きな街が見える。
その街こそ、 一行が目指していた魔法都市 フィエレンテである。
遠くからでも分かる、 フィエレンテは他のどの街よりも発展している。
王城程の高さはあろう大きな塔のような建物がいくつも見える。
……建造物の高さは技術の高さ……フィエレンテは相当高度な技術を使っていると見える……
街を見たガルンは感心する。
エインは街を見た途端、 興奮を抑えきれず駆け出してしまった。
一同は慌てて彼女を追いかけた。
魔法都市 フィエレンテ……
そこはフィーレイで見たような看板を含め、 空を飛ぶ馬車や、 宙に浮く道など、 今まで見たことも無い技術で作られた物に溢れていた。
これにはエインは大興奮、 遊園地に来た子供のようにはしゃぎ回る。
「ナニコレナニコレ! ? 道にも建物にも光る線がある! 面白い! 」
「目的を忘れないで下さいよ、 師匠……」
一瞬でも目を離すとどこかへ行ってしまいそうな彼女を宥めるガルン。
そんな事をしつつも、 一同は魔法管理協会に到着した。
ここまで一緒に付いて来させられたテフィーは、 何故自分までと文句を言うと
「エインは肝心な時にツイてねぇからよ、 気休めだがお前の運にあやかる事が出来ればと思ってな……それに卵の借りもあるし♪ 」
ウルはしてやったりと言うような表情でそう返す。
四年に一度しかやっていない『全国魔試』、 その時期を知らずして偶然街に来た時と開催時期が重なる事なんて奇跡に近いだろう。
故にウルはテフィーの持つ幸運に賭けてみる事にしたのだ。
……まぁ……一回くらい、 いいか……駄目だったらすぐズラかればいいし……断ったら後が怖いし……
あまり気が進まなかったテフィーだったが、 断れば何をされるか分からなかったため、 大人しく付いていく事にした。
そして魔法管理協会にて、 受付に『全国魔試』のことについて聞く。
すると幸運なことに、 試験は今年に開催されるらしく、 なんと開催日は一週間後だと言う。
ギリギリであるが受験は可能かを聞くと、 何とか大丈夫だと言われエインとウルは喜ぶ。
……という事は……魔法を使えない俺達は……留守番という事か……
エインの受験が可能だと判明した時、 そもそも魔法使いではないガルンとカミツグはそう思った。
すると何を思ったか、 ウルも試験を受けたいと言い出す。
彼女曰く、 自分の数百年間の魔法研究がどこまで通じるのかを試してみたくなったそう。
という訳で、 『全国魔試』にエインとウルが受ける事となり、 ガルンとカミツグは宿で留守番という事になった。
そしてテフィーは、 またいつか勝負に挑みに戻って来る と書かれた手紙を残し、 いつの間にか一行の前から姿を消していた。
その晩、 宿にてエインはウルから試験の内容について聞く。
「テフィーの奴からチラッと聞いたと思うが、 試験は一次から三次試験まであるんだ」
ウルの話ではこうだ。
『全国魔試』の試験は全て実戦的かつ生死にも関わる危険な内容ばかり。
まず、 一次試験は協会が独自で開発した『ヴァガーレ』との模擬戦闘。
創岩命とは、 岩石地帯などでよく目にされる魔物 ロガウーレとは違い、 人の手によって生み出された『兵器』の一種である。
見た目は作り手によって様々な改造が施されるため基本バラバラだが、 生み出された際の姿は岩の装甲を纏った人型のデザインとなっている。
言わば、 我々の良く知る『ゴーレム』と同じモノである。
因みに、 ヴァガーレの開発は大陸南側にあるというドワーフの国が発祥である。
これは制限時間が設けられており、 時間内にヴァガーレを機能停止させれば合格。
ヴァガーレがまだ起動したままタイムアウト、 もしくは受験者が戦闘不能となった場合は失格となる。
また、 魔法以外の攻撃でヴァガーレを倒す事は禁止されており、 それを破った場合でも失格である。
一次試験を突破したら次は二次試験、 これは受験者同士で三人のパーティを組み、 定められた領域内で課題をこなすといったもの。
領域は試験の度に森、 荒野、 巨大地下空洞などと変わる為、 会場がどこになるのかはその時にならないと分からない。
そして課題というのは、 領域内に設置されているいくつかのメダルの内一つを探し出し、 それを試験終了まで所持しておくというモノである。
領域内には当然魔物がいる他、 他のパーティとの争奪戦となる為、 いかにしてメダルを守り切るかが鍵となる。
また、 試験では魔物との戦闘や受験者同士での争いで死亡者が出たとしても問題はないとされており、 メダル争奪戦では度々死亡者が出ているという。
主な失格条件としては
・メダルを所持せずタイムアウト
・パーティメンバーの中で一人でも脱落者が出た場合
・試験時に領域の外に出てしまった場合
・魔法以外の手段を用いて戦闘を行った場合
この四つとなっている。
試験時間は開始から五日間であり、 試験内では一番長い試験時間となっている。
そして最後に三次試験、 試験官との実戦試合である。
受験者は協会が指定した試験官と試合を行い、 制限時間内に試験官を戦闘不能、 もしくは降参させる事ができれば合格となる。
一見、 二次試験と比べて単純そうに感じるが、 全国魔試における試験官は皆、 国家魔導士の資格を有している。
使う魔法は全て大きな脅威となる上、 相手は魔法使いとの戦いに慣れている手練れだ。
これまでの試験とは比にならない難易度と言えよう。
無論、 お互いに魔法以外での攻撃は禁止となっている他、 殺害行為も認められていない。
以上、 二次試験後の準備期間を含め、 これらを七日間に渡って行われる。
そうして三つの試験を突破した後、 協会の創始者 カルミスとの面接を得て試験は終了となる。
この時に試験合格者は望む魔法を一つ授けられるという。
因みに協会からの話では、 面接においては受験者の合否には関わらない為、 何を話すも自由とされている。
「ってのが大体の試験内容だ」
解説を聞いたエインは少し理解に時間が掛かった。
……えぇっと……つまり全部の試験に合格しないとカルミスさんに会えないって事か……
複雑な規則みたいなモノはあまり覚えられないエインはそんな形で試験内容を理解した。
そこでウルに警告される。
「お前、 絶対剣術も体術も使うなよ……お前の場合、 回避も下手すれば失格だからな」
「えぇ~! ? いつもみたいに避けちゃダメなのぉ? 」
ここでようやくいつも使っている武術を完全に封印されてしまった事を理解したエイン。
そんな彼女に呆れつつ、 ガルンはふとある事が気になり、 エインに質問する。
「そう言えば師匠、 普段から戦闘では全く魔法を使いませんよね……あれ程の魔法の技術を持っておきながら、 なぜ魔法を使って戦わないのですか? 」
それに対しエインは、 父からの言い付けだからと話す。
聞けば、 剣術の修行をしている時はいつも『魔法に頼るような剣術ではいざという時に痛い目を見る』と口酸っぱく言われていたらしい。
すると、 話している内に何か思い出したかのように、 彼女ふと呟く。
「……まぁ……パパからの言い付けっていうのもあるけど……それよりも、 たぶん私にとって魔法は……『戦うための道具』じゃないんだと思う……」
エインにとって『魔法』とは、 『命の奪い合いで使う武器』ではなく『人を楽しませ、 生活を豊かにするためのモノ』。
故に、 彼女は父が見ていなくとも普段から魔力を封印し、 どうしても必要な時以外でふとした時に魔法を使わないようにしているのかもと話す。
……普段は何も考えてねぇアホだと思ってたが……意外と筋が通ってる部分もあるんだな……
エインの意外な一面を知った三人は感心する。
「まぁ、 これはあくまで私の考え方だから、 ウルみたいに魔法で戦ってる人達の事を否定するつもりは無いよ♪ 」
「お前、 ホントたまにだけど大人みてぇな事言うのな……」
「『たまに』は余計でしょ~! 」
ウルの言葉に頬を膨らませるエイン。
そんな話をしつつ、 一行は試験開始の日までフィエレンテの観光を楽しむ事にした。
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観光中のある日、 エインは街の魔道具店を見て回っていた。
その時、 見覚えのある女性が目に留まる。
赤髪のロングヘアーに、 琥珀色と赤のオッドアイをしている。
……あれ……何か見た事あるような……確かアミィラ村の時に……
まさかと思い、 彼女はその女性の背後に近付き声を掛けてみた。
すると……
「え……あ……アンタは……! 」
女性はエインの姿を見た瞬間、 青ざめた顔になる。
彼女の顔を見てやっぱりと言って笑顔を見せるエイン。
なんと、 その女性はエインがアミィラ村に来た頃、 村を訪れた草紋級の勇者と共にいた女魔法使いだったのだ。
女魔法使いは慌てて彼女から逃げようとする。
「待ってよぉ、 別に戦うつもりは無いからさぁ」
そう言いながらエインは音も無く素早い動きで距離を詰め、 彼女の服を掴んで捕まえる。
逃げられないと悟り、 仕方なく女魔法使いはエインと話をする事にした。
そして二人は場所を変え、 適当な喫茶店に入った。
「何でアンタがこんな所に……」
「それはこっちも聞きたいよぉ、 勇者のお兄さんはどうしたの? 」
そう言うと、 女魔法使いはため息を付きながらコーヒーを一口飲む。
話によると、 彼女はアミィラ村の件から勇者は実家で引き篭もるようになってしまい、 今では話をする事もままならない状態だという。
その勇者は自身の強さには高いプライドがあったらしく、 エインと闘って敗北した事でそのプライドは完全に崩れ去り、 挙句には訴えようとするも王族に阻まれ、 最終的には精神的に参ってしまったとの事。
それを切っ掛けに見限った女魔法使いは、 パーティメンバーにいた盗賊の少女と共に勇者から離れて行ったのだそう。
後に盗賊の少女はどこかで商売でも始めようと言いだし、 それで別れてからの行方は分からないという。
……なんか……悪い事しちゃったかなぁ……
話を聞いたエインは少し申し訳なくなった。
その様子を見て察したのか、 女魔法使いは別に気にする事は無いと言った。
実は彼女は前々から勇者の我がままにはうんざりしていたようで、 ご機嫌取りの為に彼の調子に合わせていただけなんだそう。
故に、 エインのお陰でパーティから抜ける口実が出来て良かったと言い、 寧ろ感謝していた。
「まぁ……アンタに喧嘩を吹っ掛けたのは今思うとホントにバカだったと思うけど……あの時はごめんなさいね」
初めて出会った時とは打って変わった態度にエインは少し困惑しつつも、 お互い様だと言ってこの話は終わった。
すると、 女魔法使いはふと思い出したようにガルンの事を聞いてきた。
彼は自分の弟子として今も一緒に旅をしているとエインは話すと、 彼女は少し安心したような表情を見せる。
そこで女魔法使いはエインに聞いた。
ガルンと出会ってから、 今までどんな旅をしてきたのかを……
それに対し、 エインは待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべ、 楽しそうに語り出した。
氷竜の大口で出会ったシュネイト族の事……度々立ち寄った遺跡や洞窟でのアクシデント……街や村でやった依頼の事……新たな仲間との出会い……フィーレイの闘技大会……国崩九魔との戦い……
彼女は全てを話した。
話を聞いた女魔法使いは度々驚愕していたが、 彼女の強さを身をもって知っていたからか、 その話に何一つ嘘は無いと直感した。
……そう……本当にこの子は根っからの『旅人』なのねぇ……こんなに楽しそうに話して……
無邪気な笑顔で語るエインを見た彼女はそんな事を思い、 少し微笑ましくなった。
「……あぁ、 そう言えば……どうしてアンタはこの街に? 」
再び思い出したように彼女はエインにフィエレンテへ訪れた理由を聞く。
エインは『全国魔試』を受ける旨を話すと、 女魔術師は固まった。
そう……何を隠そう、 彼女もその試験を受けにフィエレンテに来ていたのだ。
勇者と別れて以降、 金銭関係で困っていた彼女はより良い仕事に就きたいと思い、 資格の為に受験を決めたのだ。
……ま……まぁ、 あの時とは違って……この子のお得意の剣術は封印されるだろうし……魔法勝負だったらまだぁ……ね……
常識外れな強さを持つエインを前に不安を隠し切れない女魔法使い。
そんな事を話している内に、 外を見ればもう真っ暗になっていた。
そろそろ宿に戻ることにした女魔法使いはエインの試験の健闘を祈り、 席を立つ。
その時、 エインは彼女の名前を聞いていなかったと言い、 別れ際に女魔法使いの名前を聞く。
「……私はフィロウよ……おやすみなさい、 エイン……」
そうして二人は別れた。
……あのお姉さん……私の名前覚えててくれてたんだ……
エインはしみじみと喜びを感じながらフィロウの背中を見つめていた。
そんな思いもしない再会がありつつ、 試験当日を迎える。
会場には百人以上もの受験者が集まり、 そのどれもが卓越した魔術師の風格を漂わせている。
そして、 試験官は受験者に試験の内容を説明する。
エインは説明に興味がないのか、 話はそっちのけでずっとキョロキョロしながら部屋の装飾や受験者達の顔を見ていた。
そんな中、 エインを含めて受験者全員の事を見ていた試験官が二人いた。
一人は眼鏡を掛けた背の高い男、 名はメテスフ。
もう一人は目隠しをしているが、 ウルより少し年上に見えるエルフの少年、 名はアフィーレ。
二人は今回の受験者はそこそこ期待できそうだと話していた。
その時、 アフィーレがエインの事を見て不思議そうな顔をする。
「……ねぇ、 あの帽子を被った女の子……全く魔力が感じられないんだけど……」
彼は今回の合格者は如何程になるのかを予想するため、 受験者達の魔力の量を測っていた。
その中で、 普段から魔力を封印しているエインを見て不思議に思ったのだ。
……まさか魔力の制限……いや、 でも……僕の魔力探知に引っかからないレベルの制限なんて……ありえるのか……?
そもそも自分の魔力を封印するなんておかしいと感じていた彼は訳が分からず首を傾げる。
そんな事がありつつ、 試験官が説明を終えると、 早速一次試験を始める事となった。
続く……




