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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第三十三話

前回、 一行は目的地 フィエレンテへ向かう途中、 その道中にあるという村に向かう行商人と出会う。

それに便乗し、 一行は行商人と共に雪原の村へ向かう事となった。


ベリスタ帝国北東部 国境付近にて……

国境を出てすぐそこには一面雪が積もっており、 遠くにはハフケアヌ山脈が見える。

天気が良いと雪が光を反射し、 まるでダイアモンドのように煌めく事から、 そこは『白き財宝の雪原』と呼ばれている。

そしてこの日は珍しく幸運にも快晴、 一行はその美しい景色を拝むことが出来た。


「わっはぁ~♪ スゴーイ! 」


エインははしゃぎながら雪原を駆け回る。

……氷竜の大口の時よりも広く感じるな……山脈に囲まれていないから閉鎖感が無いのか……

氷竜の大口に訪れた事を思い出したガルンはそんな事を思った。

そして、 エインはいつの間にか超巨大な雪だるまを作っていたり、 逆さまになって雪に埋もれていたりしていた。

まるで犬のようにはしゃぐ彼女を見た一同は、 彼女に犬の耳と尻尾が生えているように見えた。

先を急ぐガルンは遊ぶエインを担ぎ上げ、 連れて行った。

そんな事がありつつも、 一行は行商人が言う雪原の村を目指した。


歩く事数時間、 一行は雪原にぽつんと建つ村に到着した。

行商人は一行にお礼を言い、 その場を立ち去った。

その際、 彼が持っていた食料を少し分けてもらった。


「この村は外部の人間じゃ案内無しに見つけるのは難しいらしいからよ、 しばらくいても組織の連中は追っては来れねぇだろうよ」


前もって行商人から話を聞いていたウルはそう言い、 路銀も浮いた一行は山脈を越える準備の為にも村にしばらく泊まっていく事にした。

それから数日はのどかな毎日だった。

時に村からの依頼をこなし、 時に稽古をし、 時に探検したりと、 各々好きな事をしていた。

その中である日、 エインは村の村長と話をしていた。

村の歴史や山脈に関するおとぎ話など、 様々な話を聞いていたのだ。

エインは他にも何か無いか聞く。


「……そうだねぇ……あぁ……そういえば、 旅人に関する古い言い伝えがあるのを……私のお婆様から聞いた事があったねぇ」

「旅人の言い伝え? なになにぃ♪ 」


エイン自身も旅人である故、話に興味津々だ。


村長の話によると、 大昔、 ハフケアヌ山脈には氷の力を使う恐ろしい悪魔が住み着いていたそうで、 幾度も数多の勇者がその悪魔を討伐しようとするも全て返り討ちに遭う程、 もはや誰の手にも負えない強さを持っていたという。

その悪魔の所為で山脈を越えられず、 大陸は長きに渡って分断されたも同然の状態にあったそう。

しかしそんなある時、 突如として現れた一人の旅人が、 その腰に携えていた一本の剣のみで悪魔を討ち滅ぼしたという。

勇者でもない筈の旅人だったが、 悪魔と渡り合うその姿は正に勇者そのものだったと伝えられている。

当時その地域に住んでいた人々はその旅人に感謝し、 英雄として称えた。


……ほぇ~……そんな凄い旅人さんがいたんだぁ……

自分も大概であることをあまり自覚していなかったエインはその旅人に感心する。

続けて彼女は、 その旅人の名前や特徴なども伝えられていないのかを聞く。


「名前ねぇ……お婆様もそこまでは知らなかったわねぇ……ただ、 この村の近くにその旅人様を奉った石像があるという話は聞いた事があるねぇ……もしかしたらそれに名前が……」


それを聞いたエインはすぐに行動を起こす。

彼女は村長にお礼を言い、 ガルンと共にその石像を探しに出た。


「師匠の他にもそのような旅人が……世の中は広いですね……」

「もう五百年以上も前の話らしいけどねぇ」


……石像もどこにあるかまでは分からないし……

そんな手掛かりも無いままに、 二人は村周辺の林や洞穴を探し回った。

ウルとカミツグにも協力してもらい、 一行は村長が言う旅人の像を捜索した。


捜索をしながら山越えの準備を進める事数週間、 遂にカミツグが村はずれの林の中に石像を見つけた。

石像には雪が積もっており、 苔やツタが絡まっていた。

そして残念ながら、 名前が彫られていたであろう部分はあったものの、 その部分は欠けていて分からなかった。

……こんな状態じゃ仕方ないか、 もう五百年も前の話だもんね……

像を見たエインはそう思いつつ、 石像を軽く掃除する。


すると、 石像の人物の顔が見えてきた。

旅人と思しき人物は男、 背が高く、 女性のような美しい顔立ちをしながらもどこか凛々しさと勇ましさを感じられる。

そして左目には傷が入っている。

しかし、 それよりも一行が驚いたのはその旅人が身に着けていたモノだ。

……あれは……師匠の帽子と同じだ……

エインと同じ帽子が被されていたのだ。

見比べてみてもそっくり、 ただの偶然かもしれないが、 どうも違う物には見えなかったのだ。

すると、 エインは少し驚いた表情で固まっているのにガルンは気付く。


「……師匠? 」

「……この人……パパだ……」


その言葉に一同は声を上げて驚愕する。

見間違いではないかと聞くも、 彼女は間違いなく石像の人物は父親だと言う。

……見間違える筈ない……パパの顔はちゃんと覚えてる……この人は間違いなくパパだ……

生涯の殆どを共にしてきた父親。

それを彼女が見間違えるはずが無かった。

しかし、 何故エインの父が五百年も前にいたとされる旅人なのか。

それが本当だとしても、 時系列がおかしい。

容姿を見る限りではエルフには見えない、 村長の話を聞く限りでも彼がハーフエルフという可能性は低い。

では何者か……

考えていると、 ウルが口を開く。


「……神……か……? 」


それを聞いたガルンとカミツグはいくら何でもそれは無いと言う。


「けどよぉ、 エインの親父って神霊の樹海に住んでいたんだろ? それにあのザルビューレとも知り合いときた……そして今目の前にあるのは五百年前の人物の石像……これはもう……」

「だが……にわかに信じがたい……それが事実だとは……」

「エインがそんな嘘を付くと思うか? 」


そう、 エインは隠し事をしても、 決して嘘は付かない。

日頃の彼女を見ていた三人もそれは分かっていた。

……だが、 事実だとして、 エインの父が神だなんて……

情報が少な過ぎる現時点では分からなかった。

ただ、 一つ分かったことがある。


「……師匠の父も……旅人だったのですね……」

「……うん♪ 」


自分は、 気付かない内に父親と同じ旅路を辿っているのかもしれない。

……私はやっぱり……パパの子なんだなぁ……

像を見ながらエインは微笑み、 そんな事を思った。

その後、 準備を終え、 十分に休息を取る事が出来た一行はいよいよハフケアヌ山脈を越える事にした。

結局石像を見つけてからというものの、 村長から話を聞いても旅人の正体は分からなかった。

ただ、 エインは直感していた。

……あの石像がパパだとしたら……この先の旅で分かるかも……パパが一体どんな人だったのか……それと……私が何なのかを……

遠くとも、 着実に答えに近付いている。

彼女はより一層、 この先の旅に心を躍らせた。


「行きましょう、 師匠」

「うん♪ 」


そして一行は、 ハフケアヌ山脈へと向かって行った。

…………

ハフケアヌ山脈、 麓にて……

そこでは視界が遮られる程の猛吹雪が吹き荒れていた。

最悪の天候にウルは顔を手で覆う。

彼女曰く、 冬に近付くとハフケアヌ山脈は雲に覆われ、 何か月にも渡って猛吹雪が吹き荒れるという。

石像の捜索に気を取られてすっかりその事を忘れていたそう。

だが、 村に戻って待つにしても、吹雪が収まるまでには少なくとも数か月は掛かる。

そんな時間を掛けてはいられない。


「う~ん、 まぁ大丈夫でしょ♪ 私とガルンは初めてじゃないし、 もし魔物に会っても任せて♪ 」


そう言ってエインは寒さ対策で、 寒さから守ってくれるタリスマンを全員に渡した。

それは氷竜の大口の時、 ガルンに渡したものと同じモノで、 準備をしている間にもしもの時の為にと全員分の物を用意していたという。

また何かに妨害されないかと心配するガルン。

しかし、 今度は魔力による妨害がされないよう対策した改良品だと聞き安心した。

こうして一行は猛吹雪の中を進むことにする。


しばらく進んでいく一行、 しかし視界が悪いのでは自分たちがどの方向に進めばいいのか分からずにいた。

……これじゃ進んでるのか進んでないのか分からないなぁ……もしパパがここを通ったとしたら……どうやってこの山を越えたんだろう……

エインはふと父の事を思い出す。

氷の悪魔がいた頃のこの山脈は、 今と同じように猛吹雪が吹き荒れていたという。

なら、 父はそんな猛吹雪の中をどう進んだのだろう。

無いかもしれないが、 もし父が普通の人間で、 まともに進んでいたとしたら、 悪魔と戦う頃には体力が消耗してしまっている。

そこで、 ある可能性が浮かぶ。

……他にも道があるのかな……山頂に繋がる道が……

その考えが浮かび、 皆にその事を話そうとした次の瞬間、 凄まじい風が一行を襲う。

するとその風はエインが被っていた帽子を一瞬にして浚って行ってしまった。


「アワっ! 帽子がぁ! 」


エインは慌てて帽子を追いかけようとする。

しかし、 走り出した瞬間、 足元の地面の感覚が無くなる。

見てみると彼女の真下には底が見えない程の深い崖があった。

油断していたエインは足を滑らせ、 崖の底へ真っ逆さまに落ちて行ってしまった。

それを見た三人も彼女を助けようと飛び込んでいった。

…………

崖の底にて……

一行は落下の衝撃で雪に埋もれていた。

しばらくして、 エインを始め全員が顔を出す。


「……ったく何考えてんだこのバカッ! 」

「師匠、 一体何が……? 」

「急に崖に飛び込むから驚いたぞ」


エインの身に何があったのか聞く一同。

しかし、 本人が何かを言うまでもなく、 彼女の姿を見て察した。

エインは帽子を失くしてしまったのだ。


「うぅ……パパから貰った大事な帽子……お守りだったのに……」


エインはいつになく悲しそうな表情を見せる。

涙まで溢していた。

そんな彼女を見た三人は、 巻き込まれた事に関して怒ろうにも怒れるような雰囲気ではなかった。

とりあえずガルンが泣いている彼女を慰め、 ウルとカミツグは崖から脱出する方法が無いかを模索した。

……壁は凍っていて登れねぇな……おまけに吹雪が届かねぇくらい深い……転移でも脱出は出来ねぇな……

ウルは分析するも、 正面からの脱出は不可能だと判断した。

一方カミツグは崖のどこかに洞窟などが無いかを探していた。

すると……


「……ねぇ、 あの雪が積もってるところ……なんか変だよ? 」


涙を拭いながらエインが壁の方を指さす。

そこは雪が他よりも積もっており、 まるで何かを塞いでいるようだった。

ウルとカミツグはその雪をどかすと、 そこから洞窟が姿を現した。

それを見てやっぱりとエインは呟いた。


「きっと、 パパもこの洞窟を使って悪魔の所まで行ったんだよ……私の予想が当たってたらだけど……」

「……まぁ、 他に進める場所はここぐらいしか無いからな……どの道行くしかないだろう」

「だな……ってかいつまで泣いてんだ……そろそろ持ち直せ」


そんな話をしつつ、 一行は洞窟の奥へと進んでいった。


洞窟の中は真っ暗で、 ランタンを点けても十メートル程先から全く見えない。

ただ分かるのは、 洞窟は上り坂になっているという事だ。

……このまま進めば、 もしかしたら山頂に行けるかもしれない……

希望を持ち始めた一行。

しかし、 そんな中でもエインは帽子を失くした所為か、 ソワソワしていた。

すると次の瞬間、 彼女の真上から巨大な蛇の魔物が顔を出し、 襲い掛かって来た。

危ないと声を掛けようとしたガルン。

しかし、 心配する間もなくエインは目にも留まらぬ速さで大蛇の首を斬り落としてしまった。


「……これはシュレドゥラギーだね……暗い場所とかによくいる蛇さんだよ」


エインを襲ったのは 闇蛇(シュレドゥラギー)と呼ばれる蛇の魔物である。

主に洞窟などの暗い場所に潜んで獲物を狩る習性を持っており、 毒は用いず絞め殺して獲物を食らう。

巨体でありながらも瞬発力は非常に高く、 魔物狩りでも度々やられる事もある。

因みに肉は鶏肉のようで美味い。


……帽子を失くしてもキレは変わらねぇんだな……

相変わらずのエインの強さに三人は安心する。

そんな事がありつつ、 一行は殺したシュレドゥラギーを料理し、 食事にしてから再び先に進むことにした。

食事中も、 エインは体育座りをし、 元気が無い様子だった。

無理も無い、 彼女にとってあの帽子は父から貰ったお守りのようなもの、 どんなモノにも代え難い。

それを失くした彼女は魂を抜かれてしまったかのように覇気が無くなっていた。

エインを心配したガルンは、 落ち込んでいる彼女を慰めようとなるべく傍にいてやる事にした。

そして先に進んでいく一行。


洞窟内は奥に進んでいく毎に明るくなっていく。

壁に光る苔やキノコが生えているからだ。

近くに水が流れている証拠だ、 そしてその水は恐らく山頂付近から流れているもの。

洞窟が山頂に繋がっている可能性が高くなり、 一行は進む速度が上がる。

続く……

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