第三十一話
前回、 鉱山の街 ユレフェイにて、 鉱爵竜の討伐依頼を受け、 見事討伐に成功したエイン達一行。
その際に怪我を負ってしまったカミツグだったが、 それは誰かを守れた証だと言っている事から、 彼の心の変化が伺えた。
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翌朝、 一行は引き続きユレフェイにて滞在し、 各々休息を楽しむことにした。
因みに賞金を無駄遣いしたエインは、 罰として鉱爵竜の卵を売り、 路銀の足しにされてしまった。
その際、 彼女は子供のように泣きながら駄々を捏ねていた為、 ガルンとカミツグは慰めるのに苦労した。
そんな事がありつつも、 エインはすぐに立ち直り、 ガルンと共に街周辺の鉱山跡を探検する事にした。
彼女はしゃぎながら坑道内を駆け回る。
それを見失わないよう追いかけるガルン。
まるで親子である。
そんないつものやり取りをしている中……
……最近思うようになったが……俺は……自分の人生を見直せているのだろうか……
そう思った彼は、 坑道内に転がっている石を物色するエインを見る。
その表情はいつもみたく目を輝かせる子供のようだった。
……師匠は強い……だが……心はいつでも子供のままなんだな……
ふとそんな事を考えたガルンは、 そんなエインを少し羨ましいと感じた。
彼女と旅を続けてかなり経つガルン、 思えばエインについて行こうと思った動機は、 自分の人生の在り方を見直す為だった。
だが、 まだその答えはまだ見つかっていない。
ただ目的を持たずに、 闇雲に彼女の弟子という理由を付けて共にしているだけ。
目的があり、 やりたい放題で人生を楽しんでいるエインとは正反対だ。
……俺は……本当に師匠と居てもいいのだろうか……
気付いた時には、 ガルンは以前勇者と共にしていた時と同じ考えが頭を過る。
ただ、 それはエインに失望したからではない、 太陽のように輝いて見える彼女に、 果たして自分は相応しいのだろうかという疑問からだった。
その時、 エインがガルンの元に駆け寄り、 拾った石を見せてきた。
「見てガルン、 お魚さんみたいな石見つけたぁ♪ 」
そう言いながら笑顔で石を見せるエイン。
そんな彼女を見て、 耐え兼ねたガルンは思わず心の内を打ち明けた。
「師匠……俺は、 このまま貴女と一緒にいても良いのでしょうか……? 」
「ん? どうしたの急に? 」
キョトンとするエインに、 ガルンは今の自分の心情を話す。
すると、 一通り聞いた彼女は優しく微笑む。
「……別にいいんじゃない? ガルンがいたいって思うなら……」
「それは当然、 貴女と共に旅をしたいと思ってます……ですが……」
「あぁもう、 ガルンはいつも難しく考えすぎなんだよぉ! 私がいいって言ってるんだから一緒にいればいいじゃん」
そう言う彼女に、 ガルンは少し心が軽くなる感じがした。
……そうだな……この人はいつもそうだ……難しい事なんて一切考えない……ただ闇雲に、 やりたい放題やっている……先の事は一切恐れない……目の前の物事を楽しみ、 突き進んでいる……
共に旅をしてきた事を思い出し、 ガルンは彼女を見習おうと思った。
「……そうですね……貴女がそう言うなら、 俺は自分の心に従います……」
気持ちが少し晴れたガルンは微笑みながらそう言った。
彼の様子を見て安心したエインは、 再び坑道の探検を始める。
……急にあんな話してどうしたんだろうガルン……最近実戦的な修業しかしてなかったからかなぁ……なんかいつもより思い詰めてるみたいだったなぁ……
探検中、 ガルンの事が少し心配になったエイン。
弟子である彼と長い事旅をしていて、 師匠らしい事をあまりしてやれてないという事は彼女自身が一番分かっていた。
そして今回の話で、 少し考えたエインは、 後ろを付いて歩くガルンの方を振り向く。
すると徐に彼の胸に手を沿えた。
「……師匠? 」
ガルンは少し困惑する。
そして、 エインは目を瞑りながら言った。
「……大丈夫……ガルンにもきっと答えを見つけられるよ……探し求め続ければ、 いつかは絶対辿り付くから……」
それは、 自分は何者か……その答えを探し旅をするエインからの、 師匠として……心の底から彼に送った初めての言葉だった。
その言葉に彼は胸が温かくなる感覚を覚える。
……師匠……
「ありがとうございます……師匠」
「ちょっとは師匠らしい事、 言えたかな? 」
その時、 エインはふと父との過去を思い出す。
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それは、 エインが森から旅立つ直前の頃……
彼女は父から離れ、 旅立つのを楽しみにしていた。
しかし、 同時に不安も感じていた。
身を守る方法や旅で生きていく術は、 父に教えられ、 十分過ぎる程に身に付けた……
ただ、 それらを持ってしても、 拭いきれない思い……
自分はこの旅で見つけることが出来るのか……自分は何者で、 どこから来たのか……そして何故、 記憶を失くして森の中をさ迷っていたのか……その答えを……
私……見つけられるのかな……答えを……
そんな思いが彼女の中をぐるぐると駆け巡る。
不安に押しつぶされそうになり、 涙まで出そうになった。
その様子を見た父は何かを察し、 徐に被っていた帽子を取る。
そして、 それをエインに被せた……
エインは父の顔を見上げる。
「……エイン、 お前なら大丈夫だ……探し求め続ければ、 いつかは必ず辿り着く……『答え』とはそういうモノだ……自分を信じろ……」
「パパ……」
「その帽子をやろう……『お守り』だ……」
父にその言葉を送られた彼女は、 帽子を大事そうに押さえる。
そして、 満面の笑みで
行ってきます!
そう父に告げ、 彼女は旅立った。
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……そういえば、 私が旅に出る時……パパも同じこと言ってたなぁ……
エインは思い出し、 まさか自分が誰かに言う事になるとは と、 少し感慨深くなる。
「そうだガルン、 あのドラゴンさんと戦ってた時、 いい動きしてたね♪ 」
「あぁ、 師匠の戦い方を参考にしたんです」
「ちゃんと弟子らしく勉強できてるじゃん♪ 」
そんな話をしつつ、 二人は再び坑道の探検を始めた。
…………
その頃、 ウルは一人で街をぶらぶらとしていた。
……何か落ち着くなぁ……俺がいたあの街に雰囲気が似てるからか……どこか見慣れている気がする……
そんな事を思いながら彼女は街の風景を楽しむ。
すると、 ふと何かに気付いた彼女は足を止め、 薄暗い裏路地に入っていく。
そして路地の真ん中で立ち止まる。
「……分かってるんだよ……後ろからこそこそと……」
誰もいない空間、 彼女はふとそう言うと、 背後の角から盗賊らしき男が二人現れた。
……組織の連中か……こんな所まで追って来やがるとは……幹部共め、 俺達が遠くにいるからって安心しきってるって訳か……
男達を見たウルはすぐに盗賊組織の者だと察する。
組織が送っていた刺客はテフィーだけではなかった、 幹部達は組織の者全員に懸賞金を賭け、 エインを殺し、 ウルを取り戻すよう指示を出していたのだ。
男達は短剣を取り出し、 ウルに襲い掛かろうと構える。
……やれやれ、 エイン達の事を知ってるからか……俺一人ぐらいなら倒せると思ってるみてぇだな……四人の中で一番ちんちくりんなのは俺だからなぁ……だが……
「……舐められたモンだ……」
舐め切っている男達を見て彼女はそう呟くと、 早撃ちのように素早く風の刃で二人の持っていた短剣を弾き飛ばす。
ウルが得意とするのは風の魔法。
エルフである彼女はその長い寿命の中、 その魔法を鍛え上げた事で、 予備動作も見せる事なく早撃ちの如く素早く発動させる事が出来るようになっている。
初めてエインと出会った時、 不意打ちで風の刃を飛ばせたのもそれが理由である。
しかし、 そんな彼女の得意技を知っていた男達は、 ナイフを糸で指に繋いでいたようで、 それを素早く引っ張って彼女の方へ飛ばしてきた。
それを彼女は風の刃を纏うようにし、 防御した。
「流石同業者って訳か……俺への対策はバッチリってかぁ? 」
彼らが不意打ちをしてくることは想定していた彼女は、 不敵な笑みを浮かべながらそう言う。
「……防御魔法を施してある鎖帷子も装備している……抵抗するのは勝手だが、 今の内大人しくした方が身の為だぞ」
男達はそう言うと、 服の中から別の短剣を数本取り出す。
……あの短剣……魔法が付与されているな……次攻撃されたら魔法での防御では突破されるかぁ……
すぐに短剣の特性を理解したウルは身構える。
しかし、 表情から余裕は消えなかった。
その時、 彼女は男達に不意に話をする。
「……お前らよ、 盗賊やって数年ってとこだろ……鎖帷子着てるとか手の内ベラベラと明かしやがってよ……盗賊同士での戦いにおいて重要なのは、 自分の手の内を明かさない事だぜ……」
「? ……何を言っている……お前だって、 風の魔法が得意だというのは知れ渡っているだろうが……」
そう言い返す二人にウルは馬鹿にするように笑う。
「そんなのほんの一部に決まってんだろうが、 俺は奥の手は最後まで出さないようにしているんでね……普段使ってる魔法だって得意ではあるが奥の手じゃない……そしてッ! 」
次の瞬間、 男達の真横の壁からレンガが一つ、 高速で飛び出してきた。
レンガは男達の頭に命中し、 倒れ込んだ。
その隙を逃さず、 ウルは服の袖から何かを伸ばす。
それは重りが着いたワイヤーを普通の糸で包んだ特性の紐だった。
ウルはその紐を飛ばし、 倒れて無防備になった男達の首に絡ませた。
そして、 彼女は高く跳び上がり、 紐を頭上にあった鉄骨に引っ掛けた。
彼女は紐で男達の首を締め上げるつもりらしいが、 明らかに体重差がある。
するとウルは自分に何かの魔法を掛ける。
次の瞬間、 彼女の身体は突然重くなり、 地面へと落下する。
それと同時に男達の身体は持ち上がり、 首が締まる。
「……これは『引力の方向を変える魔法』だ……さっきレンガが飛んだのも、 その引力の方向を変えたからだ」
そう、 彼女のもう一つの得意とする魔法、 それは『引力の方向を変える魔法』。
この世界では既に引力の概念は存在する。
それを見つけたのは現在から三百年以上も前の時代、 とある魔法学者が雷魔法の実験中、 偶然命中した金属製の武器が同じ金属を引き寄せる力を帯びたのを発見し、 「この世には特定の二つの物体を引き寄せ合う力が存在する」という事を考え、 その力を総じてそう名付けたのだ。
また、 その研究の中で、 地面にもあらゆる物体を引き寄せる力があるというのは発見されているが、 原理はまだ分かっていない。
そして二百年以上も前の事、 その引力について知ったウルは、 実験と研究を重ね、 それを操る魔法の術式を開発したのだ。
……流石に魔法を作るとなると苦労するぜ……これを作るのには十年掛かっちまったが……それだけの価値はある……!
この魔法も彼女が生きて来た数百年の中で作って来たほんの一部の駒に過ぎない。
ウルはそうやっていくつもの独自で開発した魔法を隠し持ち、 何重にも重ねて手の内を隠して生きてきたのだ。
「……ッ~~」
首が締まった男達は宙ぶらりんになりながらもがき苦しむ。
「その紐は魔法じゃねぇから、 いくら魔法に対策しても意味が無ぇよなぁ? 」
そう言いながらウルは笑みを浮かべる。
しばらくして、 二人の内一人が気を失ってしまう。
このままではもう一人も気を失い、 窒息死してしまうのも時間の問題。
紐はワイヤーが編み込まれている為、 短剣でも簡単には切れないし、 そんな余裕も無かった。
そして彼女は残った一人に言う。
「俺達から手を引くってんなら解いてやるぜ……無論、 今俺が使った魔法についても口外禁止な」
すると、 男は必死に頷き、 ウルは紐から手を放す。
最後に、 喉を押さえながら息を切らす男に彼女は人差し指を押し付けながら
「……今、 お前らに秘密を喋ったら体が爆発する魔法を掛けた……もし俺の魔法の事を少しでも喋ったら……ボンッだからな」
そう脅迫して釘を刺し、 男達を追い払った。
……ま、 そんな魔法無ぇけどな……
「嘘も盗賊の嗜みだぜぇ……坊や達♪ 」
男達がいなくなった時、 ウルは笑みを浮かべながらそう呟いた。
ついでに、 彼らが持っていた金貨袋を手にしながら……
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その晩、 一行は再び宿に集まり、 雑談をした。
その中でウルは今日あった襲撃の事を話し、 一つの場所に留まるのは危険だと警告する。
「俺が買い出ししている間にそんな事が……」
「追手は俺達が街に来る前から待ち伏せしてたみてぇだ……早めに出発した方が良さそうだぜ」
……あぁ……あの人達はそういう……
話を聞いていて何かを納得するエイン。
実は、 エインとガルンの方でも襲撃はあったのだ。
ただ結果は目に見えていた。
エインはいつもの剣術で敵の武器を斬り刻み、 ガルンが殴り飛ばして撃退したのだった。
……まぁ……エイン以上に頼もしい護衛なんていねぇわな……
その話を聞いたウルはそう思いながら苦笑いする。
続く……




