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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第二十八話

前回、 国崩九魔の一人であるミドガを単独で討伐に成功したエイン。

帝国からは感謝され、 莫大な報酬を渡されるも、 彼女は全く興味がないと言い受け取る事は無かった。

その後、 闘技大会で共にしたカミツグがエイン達の元を訪れ、 旅仲間として加わる事となった。


その後のベリスタにて、 旅人と名乗る謎の英雄が、 何百年もの間国を支配していた国崩九魔を一人で討ち倒し、 颯爽と去っていったという伝説が生まれたのは……また別のお話……


準備を終えた四人はフィーレイから旅立ち、 街道を歩いていた。


「ん~~~♪ 楽しかったぁ~~♪ 」

「国崩九魔と戦う事になって、 一時はどうなる事かと思いましたが……」

「俺も久々に大会見れていい退屈しのぎになったぜ」


フィーレイでの闘技大会を満喫したエイン達は満足げだ。

そんな中、 カミツグは考えていた。

……旅に出たはいいが……何を目的に進んでいくべきか……エインには弟子の申し出を断られてしまったし……故郷だって……

故郷を襲った国崩九魔は倒され、 彼はこれからの人生の目的を失っていた。

そんな時、 エインは彼の様子を察したのか、 話し掛けてきた。


「ねぇ、 カミツグのふる里ってさ……東の大陸だっけ? そこから来た人たちが作った街だったんだよね? 」

「あぁ……歴史ではそうだ」

「だったらさ、 いつか東の大陸にも行ってみようよ! 」


……東の大陸……そうだな……俺の故郷の祖となった国がそこにあるというのは聞いていたが……もしかしたら、 俺の探しているモノも……そこにあるかもしれない……

エインに言われてそう考えたカミツグは、 東の大陸へ行き、 故郷の祖先となった国へ行くことを最終的目的とした。

そんな会話をしていると……


「待ってたわよエイン! 」


聞き覚えのある声がどこからか聞こえてきた。

すると、 四人の前に見覚えのある盗賊の少女が現れた。

茶髪のショートヘアーで紫の瞳。

エイン達がフィーレイに来た際に出会ったあの盗賊、 テフィーである。

エインは彼女の顔を見るも、 うろ覚えなのか複雑な表情を浮かべる。


「えっと……誰だっけ? 」

「テフィーよ! 最近会ったばっかでしょ! 」

「あぁメッキ盗賊さん♪ 」

「その名前で呼ぶなぁ! ! 」


と、 出会い頭にそんな掛け合いをする二人。

ウルとガルンはまた来たのかと呆れ顔を見せる。

カミツグに関しては初めて会ったのでイマイチ話が読めていない様子。

そんな彼にウルが事の経緯を説明している間、 テフィーはエインに話をする。

どうやら彼女はまだ諦めていなかったようで、 エインが大会に参加している間もずっと隠れながら監視していたのだそう。

……ずっとつけ回してたんだ……言われてみれば街にいる間ずっと誰かに見られてる気がしてたなぁ……

身に覚えがあったエインは思わず苦笑いする。


すると、 テフィーは短剣を構え、 エインに勝負を挑んできた。

それを見た他三人も戦闘態勢に入る。

しかし、 エインはそんな三人を止め、 笑みを浮かべながら前に出る。

次の瞬間、 テフィーが持っていた短剣が何故か真っ二つに折れてしまった。

エインはいつの間にかテフィーの目の前に立っており、 微笑みながら彼女の顔を見つめていた。

状況が読み込めないテフィーはしばらく放心状態になるも、 見ていた三人は何となく理解していた。


(((……今の瞬間で斬ったんだ……)))


三人は同じことを思った。

そう、 エインは前に一歩踏み出た瞬間に、 目にも留まらぬ速さで間合いを詰め、 テフィーが持つ短剣を斬ったのだ。


「……まだやるぅ? 」


そう言うエインの表情は笑顔でありながら、 その奥底に鋭い殺気が感じられた。

その殺気に、 テフィーは思わず腰を抜かしてしまった。


「あぁ~あ、 さっさと諦めてればよかったものを……」

「自業自得だ……」


日頃エインの稽古で彼女の恐ろしさを知るウルとガルンは呆れ顔をする。

……大会の時より速く見えた……末恐ろしいな……エインの成長力とは……

見ていたカミツグも、 実戦での彼女の恐ろしさを初めて実感した。

しばらくして、 テフィーは立ち上がり


「きょ……今日はここまでにするわ! 次はこうは行かないんだから! 」


と、 足を震わせながらそう言い、 煙玉を地面に投げた。

こうして前回と同じように彼女は煙に紛れて姿を消した。

テフィーの去り際のセリフを聞いたウルとガルンはまだ来るつもりかと呆れ返る。

……またあの子……煙でむせてたなぁ……

そして前と同様、 煙の中でも全部見えていたエインはテフィーの去り際の姿を思い出す。

気を取り直し、 再び歩みを進める一行。

そこで、 次の目的地の話をする。


「そう言やぁ、 ここから北の山脈を越えた先に……魔法が発達した小さな国があるって聞いた事があるぜ」

「あぁ、 フィエレンテの事か……確か、 世界で唯一魔法使いを管理するギルドがあるっていう……」


ガルンの話によると、 ここから北側に大陸を区切る程の巨大な山脈、 ハフケアヌ山脈が連なっており、 その向こうに独立した魔法文明を持つ都市国家があるのだという。

規模はリ・エルデやベリスタなどの大国には劣るものの、 まだ世界に普及されていない魔道具製法や魔法技術が発達しているらしく、 魔法使いを志す者達にとっては夢のような国なのだそう。

その話を聞いたエインは新しい遊び道具を見つけた子供のように目を輝かせる。

……魔法かぁ……そういえばリエルデでも勉強してる時に試験範囲外の魔法学もチラッと見てたなぁ……私が教わった魔法とは少し違ってたから結構面白かったんだよねぇ

普段剣術しか戦闘では使わないエインであったが、 決して魔法に興味が無いという訳ではなかった。

実際に、 普段の生活でウルからは民間魔法を教わっている程だ。

加えて魔道具に関しては日々旅の役に立たないかと自作、 実験をしている。

マニアとまでは行かないが、 人並には魔法が好きなのである。

という訳で、 エインは次の目的地を魔法都市 フィエレンテに決定した。

ただその前に、 彼女はある場所へ向かうと言った。

それは……

…………

ベリスタ帝国の東、 国境付近にて……

そこには街一つを囲う程の巨大な壁が隔てられており、 所々に見張りの兵士が配置されていた。

兵士の話では壁の向こうは魔物の巣窟となっており、 危険なため如何なる者も許可なしで通す事は出来ないという。

そう、 そこはカミツグの故郷であった街の跡である。

国崩九魔が死んだとしても過去とは戻らないモノ。

そこは相も変わらず多くの魔物が蔓延っており、 人が入れば生きては出られない領域のままだ。

エイン一行はそんな危険地帯のすぐ目の前に訪れた。

案の定、 兵士には領域内への侵入は許可できないと言われ、 壁の向こうまでは行けそうになかった。

何故エインがそこへ向かおうと言ったのか……


「……カミツグ……」

「……まさか、 俺の為に……」


それはカミツグの両親への墓参りの為だった。

……折角近くまで来たんだもんね……カミツグのパパとママはもういないけど……せめてお墓参りくらいなら出来る……

普通なら、 二度と戻ってくるはずも無かった故郷……そんな故郷の近くまで来たのだ。

立ち寄らない理由は無いだろう。

それに、 あくまで旅人であるエインは、 一度立ち寄った場所を離れてしまえば、 戻ってくることは難しいのは知っていた。

最悪、 こうして故郷の近くまで戻って来れるチャンスなんて二度とないだろう。

ならばと、 エインはカミツグを思ってここを訪れたのだ。

そんな彼女の計らいに、 カミツグは深く感謝した。

そして彼は壁の前で地面に刀を置き、 正座をしながら手を合わせた。

ウルが言うに、 それが東の国で行われている死者への追悼らしい。


「……父さん、 母さん……終わったよ……今は共にしているあの旅人が……終わらせてくれたんだ……」


カミツグは手を合わせながらそう呟く。

そして、 あの時助けてくれた両親に感謝し、 自身の新たな人生を応援してくれるよう願った……

『生きて』……その言葉を胸に……

墓参りが済み、 カミツグの故郷を離れた一行は北を目指して歩く。


「そう言えば、 師匠って魔法はどれ程扱えるのですか? 」


これから目指すフィエレンテの話を思い出し、 ガルンはエインの魔法のレベルを聞く。

……思い返してみれば、 師匠が魔法を使う場面は殆ど見たことが無かった……

普段の彼女は戦闘では全て剣しか使わず、 日常生活では使うとしても自作の魔道具か、 ウルから教わった民間魔法程度しか使わない。

それ以外だと暇つぶしに使っている程度だ。

ただ、 それらの制限は父からの言いつけだというのは彼も知っていた為、 普段からそのことについてはあまり気にしてはいなかった。

そんなガルンの質問にエインは少し考え込み、 まぁいいかと呟き答えた。


「多重魔術式展開だったかな……それが出来るくらいには♪ 」


そう言うと三人はやっぱりとでも言いたげな表情を見せる。

……出会った時も魔法は使えるみたいな事言ってたが……まさか多重魔術式展開まで使えるレベルだったなんてな……

エルフの水準でも多重魔術式展開はかなり高難度の技術らしい。

すると、 カミツグが参考程度にどんな魔法を使えるのか見せて欲しいと言った。

エインは えぇ~、 と面倒くさそうな表情を浮かべつつも、 指を立て、 小さな魔法陣を何重にも出現させ重ね合わせた。

しばらくすると魔法陣から土で出来た人形が生成される。

その姿は正にウルそっくりだ。

そうして完成させた人形をガルン達に渡す。

三人は人形の完成度を見て驚く。


「これ程の再現度は見たこと無いぞ……銅像でもこうは行かん」

「岩石の魔法と水の魔法に熱の魔法……あと武器構築魔法みてぇなのも使ってるな……確かに多重魔術式展開にしか出来ねぇ技だ」

「凄まじい精密性だ……このサイズより大きくすることも可能なのか? 」

「まぁやろうと思えばできるよ、 あとそれ動かす事もできるよ♪ 」


そう言うとエインは指をクルっと一回転させる。

すると人形はまるで生きているかのように動き出した。

それを見た三人は更に驚愕する。

……これは……下手すれば強力なゴーレムも作れるぞ……何という技術……

カミツグはエインの魔法レベルに感心する。

そうしてしばらく眺めていたウルは、 次第に複雑な表情を浮かべ


「……なぁ……何で俺? 」


と、 自分の人形を作った理由を聞く。

それに対しエインは何となくとだけ答えた。

そんな二人を余所に、 ガルンとカミツグは動くウル人形を観察する。

それを見ている内に彼女は恥ずかしくなってきたのか、 さっさと人形を消せとエインに言った。


そんな事もありつつ歩き続ける事数時間、 夕暮れ時になった頃に一行は村を発見した。

しかし、 村に入ってみると、 すぐに異変に気付く。

……村の人達……死んでる……?

村にいた人間達が道端や玄関など、 そこら中で倒れていたのだ。

一行はすぐさま倒れている者達の容態を確認する。

すると、 皆死んでいる訳ではなく、 一種の睡眠状態に掛かっている事が分かった。

カミツグは魔法のせいかと聞くと、 エインとウルは揃って首を横に振る。


「多分これ……毒とかじゃないかな? 」

「あぁ、 魔力の痕跡みてぇなのも無ぇし……まず間違い無ぇ」


それを聞いたガルンとカミツグは周囲を警戒する。

しかし、 すぐにエインは敵は近くにはいないと言って安心させる。

ただ、 村の人間を襲ったモノは何なのか……それが分からずにいた。

その時、 一行の頭上から声が聞こえた。

声の方を見てみると、 家の屋根の上に一人の村人が顔を覗かせていた。

話によると、 屋根の修理をしていたところ、 突然皆が倒れたとの事。

ただ、 何故か屋根の上にいた自分だけは眠る事は無く無事だったという。

それを聞いた一行は下にいるのは危険だと判断し、 すぐに村人のいる屋根に上がった。


「助かった……誰も来なくてこのまま飢え死にするかと思ったよ……」

「それより話を聞かせて……最近、 森とかで変なモノを見たとか無かった? 」


そう聞くエインに村人は少し黙り込み、 ハッとした表情で話し出す。


「……そういえば、 最近村の子供たちが『井戸の中に幽霊がいる』って噂してたな……もしかしたらそれと関係があるかも……」


それを聞いたエインは考え込む。

……幽霊……もしかして幽鬼種の魔物かな……でも……幽鬼種で人を眠らせる魔物なんて見た事も聞いたことも無い……

エインの言う幽鬼種、 もとい幽霊系の魔物は主に病や身体的障害を引き起こす力を持つ。

種類によっては生物を植物状態にしてしまうモノもいるが、 今回はただ眠らせているだけだ。

エインが知る限り、 そういった種類の幽鬼種はいない。

それ故、 相手の像が浮かんで来なかった彼女は更に詳しい話を聞く。

村人曰く、 噂では探検をしていた子供達の一人がある日、 井戸の中を覗いた時、 青白く光る蛇の幽霊を沢山見たという。

……蛇の幽霊? ……青白く……光る……眠らせる……

エインは自身の記憶や図書館などで見て来た魔物の知識を辿る。

すると、 彼女は一つの魔物が浮かんできた。


「……それ、 蛇さんでも幽霊さんでもないね……多分植物だよ」

『植物! ? 』


エインの答えに一同は驚く。

彼女が言うに、 恐らく子供たちが見たのは蛇ではなく、 暗闇で発光する植物のツタのようなモノだそう。

そして、 暗闇で発光し、 獲物を眠らせる花粉をばら撒き、 洞窟に自生する植物が一つだけ存在するという。


その名も、 奪気草(レオウス)……『蝕み草』ともエインは呼んでいる。

生態は先の通り、 獲物を眠らせる強力な毒性のある花粉をばら撒き、 手足のように動くツタを使って捕食する。

花粉の有効範囲は広大で、 成長度によっては国一つを飲み込む程にまで大きくなるとされている。

そんな危険性ゆえ、 知性を持たないながらも、 『厄災魔獣』の一つに分類されている。


その話を聞いたウルとガルンは厄災魔獣の存在を知っていたため、 あまり驚きはしなかったが、 おとぎ話の存在だと思っていたカミツグは更に驚いていた。

……昔森にあった洞窟を探検してる時に見つけた事あったなぁ……その時はなんだかんだ倒せたけど……まさかこんな所にも生えてるなんてねぇ……

エインは昔の事をしみじみと思い出す。


「どうしますか師匠……このまま井戸へ入りますか? 」

「うぅ~ん……この村の規模で収まってるならもしかしたらぁ……まぁ一応試してみよっか♪ 」


そう言ってエインはポーチから何本もの瓶と火種用の紐を取り出す。

彼女の作戦は至って単純、 ポーチから取り出した瓶にはよく燃える油が入っているため、 それらを井戸に投げ込み、 その後に火を点けた紐を投げ込むという。

推測が正しければ、 井戸にいるレオウスはまだ未成熟段階であり、 その段階であれば炎による攻撃が有効かもしれないという。

ただ、 これはあくまでエインの推測であり、 確証はない。

そう説明すると、 村人は一刻も早く倒して欲しいと言い、 その作戦に賛成した。

他一同も、 眠っている村人達を早く起こさねば危険だと判断し、 その作戦を採用した。

そして一行は村人を屋根で待機させ、 井戸があるという場所へ向かった。

続く……

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