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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第二十話

前回、 ベリスタ帝国の首都 フィーレイに到着したエイン達。

目的だった闘技大会のエントリーも無事済ませ、 いよいよ大会に挑む。


『ご来場の皆さま、 大変長らくお待たせいたしました! これより、 第二十八回 フィーレイ世界闘技大会を開催いたします! 』


そのアナウンスと共に会場に大喝采が巻き起こる。

そして開会式に選手たちが入場する。

その数は総勢二百人を超え、 その中には普段表社会には決して現れないであろう者まで混じっている。

そんな多彩な参加者達にエインはキョロキョロと彼らを見渡す。

すると彼女の隣にいた山賊らしき男が突っかかる。


「おいガキ、 何ジロジロと見てんだ……ぶち殺すぞ……! 」

「殺したらルール違反だし捕まっちゃうよ? 」


山賊の威圧にエインはそう答えると、 男はエインの胸倉を掴む。

しかし、 それをある青年が止めた。

顔に傷のある、 刀を携えたあの青年だ。


「やめろ……試合前から問題を起こしたら無条件で失格だぞ……」


そう言う青年の鋭い眼光に山賊の男は怯み、 エインから手を離した。

一旦その場は落ち着いたものの、 山賊はエインに必ず殺すと捨て台詞を吐いた。

そして無事に開会式は終わり、 選手は控室へ戻っていった。

…………

闘技場の廊下にて。


「あっ、 さっきのお兄さん! 」


エインは先程自分を庇ってくれた青年に声を掛ける。


「さっきはありがと♪ 」

「……あぁいう連中には下手な事は言わない事だ……面倒を避けたいならな……」


青年は彼女に背を向けながらそう言い、 立ち去った。

素っ気無い態度の彼にエインは首を傾げながら思う。

……あのお兄さん、 何かパパみたいな事言うなぁ……

そんな事がありつつ大会の一回戦目が始まった。

一方は本大会で三回連続でトップテンに入賞している実力者、 槍使いのシュピレン。

その相手は……


「お兄さんが最初の対戦相手なんだね♪ 」


エインである。

……初戦から大会経験者か……しかも上位者と来たか……前から思っていたが所々ツイてねぇなアイツは……さぁどう出る、 エイン……

観客席から見ているウルは心配しつつもエインに期待を寄せていた。

……あの槍使い……凄まじい闘気を感じる……師匠はどのように戦うのか……

選手の入場口から見ていたガルンは、 エインがどう戦うのか興味津々の様子だった。


「始めッ! 」


そして試合が開始された。

次の瞬間、 シュピレンはエインの目の前まで高速移動し、 音速とも思える速さで突きを放った。

エインは体を大きく仰け反らせてそれを回避し、 その勢いに乗って宙返りをしながら距離を取った。


「おっほぉ~♪ 速いねお兄さん♪ 」

「アンタもな、 今のを避けるとはかなりの手練れだろ」

「まぁねぇ……それより私、 お兄さんの事何も知らないからさ……もっとお兄さんの色々、 見せてよ♪ 」


……この子……俺のこと知らないのか? じゃあ今のを初見で……俺の十八番だから知ってて避けたのかと思ったが……こいつはかなりの厄介者だぞ……

自分の技を初見で避けられた事に驚くシュピレン。

エインはそんな彼を余所に次の攻撃を待っていた。

……槍と戦うのは魔物以外で初めてだなぁ……ヒトが使うとどんな事が出来るのかな……

そう心を躍らせていると


『ビュオッ! 』

「おっ……? 」


エインに目掛けてシュピレンの槍が飛んできた。

それを難なく横に躱すエイン。

すると彼女の視界に一本の線が映る。

それは槍とシュピレンを繋いだ一本の糸だ。

……糸……? あぁそういう事ね……

エインが何かを察した次の瞬間、 シュピレンは素早く糸を引っ張り、 槍をブーメランのように回転させながら自身の方へ戻した。

その軌道上には当然エインがいる。

しかし、 エインは分かっていたのか、 余裕の表情で帽子を押さえながら素早くしゃがんで回避した。


「スゲェなアンタ……確かエインだっけ? 旅人って聞いたが何者なんだ」

「またお話し~? それよりもっと戦おうよ~、 折角の試合なんだよ~? 」


シュピレンの話にさほど興味の無いエインは彼を急かす。


「悪い悪い、 俺の癖でな……アンタは戦いを大事にするタチなんだな……そんじゃ存分に付き合ってやるよッ! 」


そしてエインとシュピレンの攻防が始まる。

とは言っても、 エインはただシュピレンの攻撃を避けるだけで全く手を出そうとしない。

その内、 この試合はシュピレンの勝ちだと予想する者が多くなる中、 見ていたウルとガルンは違った。


「……師匠……完全に遊んでるな……あれは」


……ったく……見ててあんなにヒヤヒヤしない戦いは稀だぜ……アイツの実力を知っての事だが……

二人はエインが相手の技を見て楽しんでいるのを分かっていた。


『エイン選手、 シュピレン選手の凄まじい槍技に手も足も出ない様子! これは決まったか! ? 』


司会がそう実況すると、 エインは少しムッとした表情を見せる。


「失礼な、 私だってやろうと思えばできるもん……」


その言葉にシュピレンは手を止め、 不敵な笑みを浮かべる。


「やるか? なら俺もとっておきを見せてやる」


そう言うとシュピレンは地面を強く踏みしめ、 槍を水平にし両手で構える。

その構えを見た観客達は知っているのか、 歓声を上げる。

……あれは……シュピレンの必殺技……竜の鱗も簡単に貫くって言うヤベェやつだ……エイン、 まさか受ける気じゃねぇよな?

ウルも知っていたようで、 エインの出方を伺った。

肝心のエインは


「お兄さんのとっておき! ? 見せて見せて! 」


相変わらず子供のようにはしゃいでいた。

そして次の瞬間、 会場に凄まじい衝撃音と共に爆弾でも爆発したかのような衝撃波が生じた。

リング中を覆い尽くす程の砂煙が舞い、 しばらく何が起きたのか分からなかった。

次第に煙が晴れ、 リングが顕わになる。

そこにはシュピレンから一直線上に何かが抉ったような跡が地面にくっきり残され、 その延長線上にある壁にクレーターが出来ていた。


『出たぁー! ! シュピレン選手の必殺技ぁー! エイン選手は一体どうなってしまったのか! ? 』


リングの惨状を見た観客は歓声を上げつつ、 エインの敗北を悟った。

大会の救護班も終わったと思ってリングに出ようとする。

しかし、 それをガルンが止めた。


「……まだ終わっていない……よく見てみろ……」


すると……


「わぁおスゴイ! 地面が抉れちゃってるぅ♪ 」

「なっ……」


気付かぬ間にシュピレンの背後にエインが立っていた。

その表情は正に余裕、 まるで何事も無かったかのように無傷だった。

シュピレンは驚きながらも再び身構える。

……な……何が起きた……技は当たっていたはず……なのに奴は無傷……しかもどうやって俺の眼を欺いて背後に回ったんだ……

エインの得体の知れなさに疑問と恐怖が湧き上がるシュピレン。

……う~ん……もういいかなぁ……そろそろ別の選手の戦いも見てみたいし……

そう考えたエインは再びシュピレンの視界から姿を消した。

今度は一瞬にして彼の懐まで接近しており、 低い姿勢で構えていた。

シュピレンは咄嗟に距離を取ろうとする。

次の瞬間……


『……ヒュッ……』


と、 静かに何かが風を切る音がする。

シュピレンは無傷のままエインから距離を取った……

と思った……


「……」


この時、 シュピレンの本能は感じた。


斬られた……


と……

実際は何処も切れてはいなかった。

しかし、 頭では分かっていても、 シュピレン自身の肉体と奥底にある本能がそう訴えていたのだ。

その内、 彼は自分の腹から生暖かい何かが流れ出る感触に襲われる。

無論それもただの錯覚だった。

そして

あ……死んだ……

そう思った時には、 彼は立ったまま意識を失っていた。

しばらくして、 動かないシュピレンを不審に思った審判が駆け寄り、 彼の容態を確認する。

そして彼の意識不明を確認すると、 司会に向かってバツのポーズを見せる。


『な、 何と! いつの間にかシュピレン選手がダウンしていた模様ッ! よって勝者、 エイン選手ぅー! ! 』


そのアナウンスと同時に会場に喝采が巻き起こる。

見ていた観客も何が起きたか分からないながらも、 エインの得体の知れない強さに心惹かれつつあった。

……エインの奴……一体どんだけ強いんだ……最後何をしてたのかも分からなかったぞ……

試合を見ていたウルも、 改めて彼女の強さに感心した。


「えっと……こんなので良かったのかな? 」


エインは今の決着で良かったのか分からないまま退場した。


『強い、 強いぞエイン選手! 謎に包まれた新参の旅人少女、 一体何者なんだぁー! 』


会場は初戦試合から大盛り上がりとなった。

…………

闘技場の廊下にて……

試合を終えたエインは伸びをしながら控室へ向かっていた。

すると


「あなた……強いね……」

「ん? 」


エインの前に一人の女性が立っていた。

白銀の髪に黄金の瞳をしており、 シルクのような白い肌が特徴的な美しい容姿をしている。

その背中には三尺はあろう長い太刀が背負われていた。

彼女もまた選手だ。


「えっと、 お姉さんも選手なの? 」

「えぇ、 私もあなたと同じ初参加の選手……この大会に集まる世界中の猛者に興味があってね……」


透き通るような声色にエインは不思議な感覚を覚える。

……この人、 私と同じだ……

彼女の雰囲気にエインは自分と何か似たものを感じる。

すると女性は手袋を外し、 手を差し出す。


「……私、ヘリア……あなたとはどこかで当たる気がする……よろしく」

「私エイン♪ もし当たったらよろしくね♪ 」


そして二人は軽く握手を交わす。

エインは挨拶が終わるや否や控室の方へ戻っていった。

……あのお姉さん綺麗だったなぁ……早く戦ってみたい!

相変わらず緊張感の無い彼女だった。


「……」


廊下で一人になったヘリアはエインと握手を交わした方の手を見つめる。

……あの子……全く底が見えなかった……こんな得体の知れない相手……初めて……

エインと触れ合った彼女は密かに心を躍らせていた。

…………

控室にて、 ガルンがエインを迎えた。


「一回戦突破おめでとうございます、 師匠! 」

「ありがとー♪ ガルンも頑張ってね! 」

「はい! それはそうと先程の試合、 お見事でした。 相変わらず剣を抜く動作が全く見えませんでしたよ……」


そう言って試合を振り返るガルンにエインは首を傾げる。


「私、 剣は抜いてないよ? 」

「え……じゃあ何故シュピレンは……? 」

「私はただ斬る真似をしてみただけ……あのお兄さんはそれを本当に斬られたーって勘違いしちゃっただけだよ♪ 」


……そんな事が……いや、 師匠であればあり得ない話ではないか……殺した訳ではないが、 それでも末恐ろしい人だな……錯覚で人を気絶させるなんて……


「そういえばこの大会ってあと何回戦あるんだろう? 早く次の人と戦いたいなぁ……」


部屋にあったお菓子を食べながら、 エインはふとそう呟いた。


「え……師匠、 開会式の時聞いてなかったんですか……? 」


大会の形式を全く聞いてなかったエインにガルンは呆れながら改めて解説する。


この大会では予選と本戦に分かれており、 予選では五つのグループに分かれ、 トーナメント形式で戦っていく。

その予選で残った各グループの一位と二位、 合計十名の選手が本戦に出場する。

本戦では十人でトーナメントを行い、 最後に勝ち残った一名が優勝となる。

また、 本戦第二回戦の前に第一回戦で敗退した選手の復活戦が行われ、 そこで残った一名が第二回戦に進むことが出来るという。

要は、 他でもよくある大会形式である。

因みにエインとガルンは違うグループに充てられているため、 予選試合でぶつかる事は無い。


「師匠は一回戦を突破したので、 今日はあと五回戦程でしょうか……他のグループの試合もありますので結構間は空くかと思います」

「えぇ~、 じゃあずっとここで待ってろって言うのぉ? 」

「選手でも観客席には行けますし、 ウルと一緒に試合を観戦しては? 」


そう言われてエインはすぐに観客席の方へ向かった。

…………


「……っで、 俺の方に来たってか……」

「うん♪ 」


観客席に来たエインはウルの隣でポップコーンのようなものを食べながら試合を観戦していた。

周りの観客は選手であるエインの存在にすぐに気が付き、 チラチラとこちらを見られていた。

が、 エインはそんな事は気にも留めず

……あの選手も中々面白そうだなぁ……鎖が付いた鎌なんてどうやって戦うんだろう……

出場選手の様々な戦い方に興味津々だ。

そんな中、 いよいよガルンの出番がやって来た。

その対戦相手は……


『こちらも同じく、 本大会初出場! 刀を携える謎の剣士、 カミツグ選手! 』


顔に傷がある、 あの青年だった。

続く……

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