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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第二話

前回からの続き……


「エイン……貴様のような奴は初めてだ……ここまで俺を不快にさせるなんて……」


冷や汗をかきながらも勇者はエインに威圧的態度を取る。

しかしエインは物怖じする様子も見せない。

再びお互い距離を取ると勇者は剣を収め、 抜剣の構えの姿勢を取った。


「エイン……誇りに思うがいい……今からお前は俺の剣術を受けるんだ……俺は滅多に技を使わないが、 やむを得ないと判断した! 」

「おぉ~! 私本物の勇者の剣術を見るの初めて! 楽しみぃ! 」


エインは相変わらずの様子。

すると彼女は何を思ったか、 腰に掛けていた剣を地面に置き、 勇者と同じような構えの姿勢に入った。


「……では僭越ながら……私もちょっとした技を……」

「剣を捨てた……? 」

「一体どうして……」


見ていた村人達はどよめく。

勇者はエインの行動に少し動揺を見せるも、 以前として威勢は分からず。


「っ……いい度胸だ……! 」


そして二人はお互いに睨み合う形で構えた。

その雰囲気に村人達は勿論、 勇者の仲間達も思わず息を飲む。

しばらく沈黙が続き、 風の音も聞こえなくなった。

その瞬間

『ビュオッ! ! 』

と、 凄まじい突風と共に勇者は目にも留まらぬ速さでエインに突進し、 剣を抜きながら斬撃を放った。

そして勇者はエインの背後へと通り抜けていった。

エインはというと反応ができなかったのか、 まだ構えた姿勢のままだった。


「あぁ……まさか……負けたのか? 」

「やっぱりね……凡人が勇者に敵う訳が無かったのよ……」


その光景を見ていた誰もがエインの敗北を確信した


……かと思われた





「……無名……参……」





エインが静かにそう呟いた次の瞬間、 勇者が持っていた剣が縦に真っ二つになってしまったのだ。

明らかに普通でない、 剣の破損のし方からするにエインが何かをしたのは明白だった。


「なっ! ? 俺の剣が! 」

「まさか! いつの間に斬ったの! ? どうやって! ? 」

「何も見えなかったぞ! 」


エインを除く全員が何が起こったのか分からず混乱する。


「うぅ~ん……ちょっと微妙だったかなぁ……やっぱり毎日やってないと訛っちゃうなぁ」


エインは余裕な様子を見せ、 そんな事を呟きながら剣を拾う。

そう、 先程の瞬間彼女は、 勇者の剣がすれ違うように躱しつつ、 目にも留まらぬ速さの居合切りで剣を斬ったのだ。


それも剣を使わずに……


普通ではない、 常人を遥かに凌駕する速度と反射神経、 そして技術、 相手の勇者でさえもその速さを捕らえる事は出来なかったのを見るに、 最低でも草紋級の勇者以上の強さなのは確実だ。

そんな彼女の剣術を前に勇者は戦意喪失、 その場でへたり込んでしまった。

それを見た勇者の仲間たちは戦士の男を除き、 エインを囲った。

勇者の仲間曰く、 勇者様にこんな恥をかかせるなんて許せない、 勇者様に謝罪しろだのと無茶苦茶な事を言う。

……え……えぇ……仕掛けたのは勇者の方だと思うんだけど……

当然、 そんな彼らの言い草にエインは困惑する。

そして杖を持った女性魔術師はエインの周囲に炎の球を出現させた。


「今なら許してあげる……今すぐに勇者様に謝罪しなさい! 」

「えぇ……私悪い事してないのに……」


エインがそう言った次の瞬間、 炎の球は一斉にエインに向かって飛んで行った。

しかし……

『バシュンッ! 』

と音を立て、 炎の球はエインに直撃する前にすべて消滅してしまった。


「な……何が……」

「危ないなぁ……飛んできた火が家に燃え移ったら大変だよぉ……」


エインは素手で炎の球をかき消してしまったのだ。


「はぁ……もういいかなぁ? 決闘も終わったし……流石にこれ以上構うのも……」


エインがそう言うと女魔術師はへたり込んでしまった。

そしてエインはもう一人の勇者の仲間である盗賊の少女を見る。

勝てないと悟ったその少女は武器を収め、 知らん顔する。


「……それじゃ私はこれで♪ 」


それだけ言うとエインはその場を立ち去った。

その後、 エインを恐れたのか勇者一行はいつの間にか村から消えていた。

エインはそんな事に気にも留めていない様子だったが……

そしてエインは小屋の中で剣の手入れをしていると


「あの……エインさんいますか……? 」


勇者に殺されかけた村人が訪ねてきた。


「あぁさっきの! 全くとんでもない目に遭って大変だったねぇ~」

「はい……貴女が助けてくれなかったら……俺は今頃……本当にありがとうございました! 」


頭を下げる村人にエインはおろおろする。


「いやいやそんな! 私はただあの勇者危ない人だなぁって思って何となく止めただけで……」

「貴女はあの勇者なんかよりもよっぽど勇者らしいです……せめて何かお礼ができたら……」

「そんなのいらないよぉ……気まぐれでやっただけなんだし」


そんな会話をしていると……


「ここに……先程の剣士はいるか……? 」


エインの小屋にもう一人、 誰かが訪ねてきた。

その人物は……


「あれ? 君は……」

「ゆ、 勇者様の……! 」

「失礼する……」


なんと、 勇者の仲間の中にいた戦士の男だった。

男は小屋の小さな扉をくぐり、 中へ入ってきた。

エインはまた戦いになるのではないかと少し不安そうな様子を見せる。

村人は男から漂う雰囲気に怯えたのか、 小屋から出て行ってしまった。


「……えっと……何か……」


恐る恐る用を聞くエイン。

すると……


「剣士殿……いや、 剣士様……折り入ってお願いがあります……」


男は突然改まった様子でエインの前で正座をし


「どうかこの俺に……貴女様の剣を教えて頂きたい! 」


土下座をしながら言い放ったその言葉はエインの予想を遥かに上回った。

戦士はエインに弟子入りしたいと志願しに来たのだ。

突然の申し出に当然エインは困惑する。


「いやいやいやいや! え、 何で! ? どうしたの急に! ? だって……君は勇者の仲間だよね! ? 」

「俺は以前から彼らの仲間である事に疑問を抱いていたのです……勇者と呼ばれる者があんな者でいいのかと……俺はあんな人間の仲間で本当に良いのかと……そこで理由も躊躇もなく村人を救う貴女を見て気付きました……俺はこのままではいけないと……」


……だからってそんな……私は教えられる事なんてないのに……

彼女はこれまでの人生で誰かに何かを教えるなどといった事は一切したことが無い。

当然、 自分はそんな者に向いてるような人格者ではないのも自覚していた。

そんなエインが困惑しているのを余所に男は


「先程の事を黙って見ておいて虫がいいのは承知の上です……しかしお願いです! 俺に貴女の剣術を教えて頂きたいのです! 」


そう言うと男は再びエインに深々と土下座した。

剣術とは心……優れた戦士であるほどその技を見るだけでその人の心の内が直感で分かるようになるという……戦士の男はエインの剣技を見て、 彼女であれば今の自分を変えられるのではないかと直感していた。

そんな男にエインは一つ心配をしていた。

仲間である勇者たちの事だ。

その事を聞くと男は少し眉をひそめた。


「彼には既に断っておきました……彼らも以前から俺の事を毛嫌いしていたようで……」


勇者のパーティの中で唯一真面目な性格をしていた彼は、 以前から勇者の仲間から浮いた存在であったため、 勇者自身もこれを機に戦士の男をパーティから追い出したのだ。

……私の剣術はパパから受け継いだモノ……私自身、 この剣術はどうやれば使えるようになるのかっていうのはよく分かっていない……かと言って行く宛も無くなったこの人をこのまま追い返す訳にもいかないしなぁ……

彼がこうなった原因は自分にもあると感じたエインは少し悩む。

そうして考えた末にエインは戦士の男を受け入れる事に決めた。


「……名前は? 」


「ガルンと申します……」


するとエインは一つため息をつくと


「私はエイン。 気持ちは分かったよ……ただ私、 誰かに何かを教えるなんてした事ないから……ガルンが求めてるモノが手に入るか分からないよ? 」

「それでも構いません! このガルン、 一生に付いて行きます! 」


こうして、 弟子としてガルンがエインの仲間に加わる事になった。

その夜……

村人達に挨拶を済ませたガルンは早速エインに呼ばれ、 村付近の森へ向かった。

そこでガルンが見たのは……


「……ッ! 」


月明かりに照らされる森の吹き抜けの下で、 まるで踊るように剣術の舞いをするエインの姿だった。

それは踊っているようにも見える、 しかしどの動きも繊細さと力強さを感じさせる。

そして何より、 エインが振っているのはただの棒切れだったのにも関わらず、 ガルンにはそれが白刃の剣に見えたのだ。

……あれが師匠の剣術……今日の決闘でもそうだったが、 人間業とは到底思えん……

ガルンが圧倒されているとエインはガルンに気付いた。


「おっ、 来たね……」

「素晴らしい動きです……師匠」

「ちょっとした準備体操だよ♪ 」


そう言いながらエインは棒を捨てる。

そして、 ガルンはエインが呼び出した理由を聞くと、 エインは少し微笑みながら言う。


「……ガルン……今ここで私と戦おっか」

「え……! 」


それはあまりに唐突だった。

しかし、 ガルンは慌てるも咄嗟に背中の大剣を手にする。

対し、 エインはあの時勇者にして見せた構えの体制に入る。

次の瞬間……


「ウッ……! ! ? 」


ガルンは息が詰まる程の殺気をエインから感じた。

エインは微笑んだ表情でただガルンを見ているだけだった。

しかし、 その瞳の奥から計り知れない覇気を感じる……

ガルンはその凄まじい殺気に全身が凍り付いたように動けなくなってしまった……

すると


「……凄いねぇガルン、 私なんて最初は気絶しちゃってたのに♪ 」


エインはいつの間にかガルンの目の前に立ち、 彼の肩をポンポンと叩いてきた。

気付いた時にはガルンが感じていた殺気もすっかり消えており、 彼は大量の冷や汗をかいていた。


「え……師匠……? 」

「ごめんね急に、 ちょっと試させてもらったんだ……」


それを聞いたガルンは一気に脱力する。


「……殺されるかと思いました……まさかあれ程の殺気を出せるとは……」

「自分を隅から隅までコントロールするのは基本中の基本だからね! 私も最初はここから始まったんだよ? 」

「……師匠の父が……あのような事を……? 」


そう言うとガルンにエインはそっと目を逸らし、 少し苦笑いする。


「……まぁ……うん……あんまり思い出したくないけど……」


……一体何があったのかは……師匠の殺気の凄まじさが物語っているな……

ガルンはエインの身に何があったのかを何となく察する。

そしてエインは気を取り直し、 ガルンに言う。


「……さぁて、 何がともあれ合格だよ! 明日からビシバシ鍛えてあげるからねぇ……」

「えぇッ! これは試験だったのですか? 」

「私なりのやり方だからねぇ……ちょっとはスリルあったでしょ? 」

「は……はぁ……」


試験にしてはやりすぎなのではと感じたガルンだったが、 そこは胸の奥にしまっておく事にした。

そして二人は小屋へと戻った。

「……」


ガルンは一つのランプに照らされる部屋の中でさっきのエインの事を思い出す。

……あれが師匠のレベル……

ガルンは自分よりも遥かに小柄で華奢な少女の殺気に動けなくなったことをまだ信じられなかった。

そしてガルンは呑気な寝顔を見せながら眠るエインを見る。


「……俺は……師匠のような剣士になれるのだろうか……」


ガルンはふとそんな独り言を呟いた……

翌朝……


「師匠……師匠、 起きて下さい……! 」


ガルンは慌てた様子でエインを叩き起こす。

彼女は開かない目でこちらを見る。


「うぅ~……何ぃ……? 」

「大変です……王国の騎士団が……」


「……んぇ? 」


…………

村の入り口にて……

甲冑を来た兵士達が村に押し掛けていた。


「リ・エルデ王国、 バルキス騎士団だ! ここに旅人を名乗る反逆者の女がいると聞いた! 大人しく出頭せよ! 」


一人の兵士がそう言いながらエインの似顔絵が描かれた手配書を突き出す。

その手配書を見た村人たちはどよめく。

そこにエインとガルンが来た。

すると彼女を見た兵士達は武器を構え、 彼女を取り囲んだ。


「エインだな! 大人しく出頭せよ! 」

「し、 師匠! 」


王国からの騎士団の襲来、 一体どうなってしまうのか……

続く……

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