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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第十七話

街の地下、 下水道にて……

少年は吊り下げられているランタンを辿ってある場所を目指していた。

そこは


「……おやぁ、 珍しい奴が来たな……」

「集会にも顔を出さなかった奴が一体何の風の吹き回しだ? 」


下水道に隠された大きな空間。

そこに集まる大勢の男達、 全員盗賊だ。

街の闇組織の本部だ。

早速少年は幹部であろう四人の男達に話した。


「突然だが、 アンタらの組織を抜けさせてもらう事にした……勿論、 この街からは出ていく、 だから俺にはもう関わらないでくれ」


そう言う少年に対し幹部たちは少し黙り込む。

そして


「そうか、 そいつはいい厄介払いだ」

「お前にはよく貢いで貰ったしな、 別に構わねぇ」


あっさりと承諾した幹部。

するとその中の一人が言った。


「ただ、 組織を抜けるとなればタダとはいかねぇな……」


それに対し少年は分かっていたと言わんばかりの表情を見せる。

……やはり報復か……それとも無理な金額を言って組織を抜けれない状態にさせるか……だが……


「……いくら出せばいい……」


組織のやる事はお見通しだった少年は言うと男は不敵な笑みを浮かべる。


「金貨二十枚といったところだな……」


金貨二十枚、 それはこの世界において家を一軒買える程の大金だ。

当然少年にはそんな大金を持ち合わせてなどいない。

そこで少年はどうにかして他の条件で脱退させて貰えないかと交渉する。

すると


「それじゃあ……その体で払ってもらうか」

「ッ! 」


当然と言えば当然だろう、 彼らは盗賊を牛耳る闇組織、 人身売買をした事がない訳が無い。

エルフを売り払えば金貨二十枚とは行かずとも、 十枚は下らない。

ただ、 幹部たちはそれ以上に、 少年のある秘密を知っていた。


「お前、 『女』だろ……」

「何を! 俺は……」

「確かに男なら人身売買をされる確率は低いからな、 上手く隠せばこのまま抜ける事が出来たかもしれねぇなぁ」

「だが俺達は盗賊だぜ、 観察眼には自信あるんだよ」


そう、 少年は女だったのだ。

それを見抜いていた幹部達は端から彼女を奴隷商に売りさばくことに決めていたのだ。

それを知った少女は一歩下がる。

しかし、 背後は既に他の盗賊達で塞がれている。

……逃げ場はない……か……

最早打つ手はない、 そして恐らく彼らは奴隷商に売りさばく前に自分らで楽しむつもりだ。


「……済まねぇな旅人……どうやら明日、 合流できなさそうだ……」


諦めた彼女はそう呟くと……


「あっ、 いたいたぁ! 」


背後から聞き覚えのある声。

振り返るとそこには手を振るエインの姿があった。

普通なら見つけられないはずのアジトに辿り着いたエインに少女は驚く。


「旅人! ? ……どうやって! 」

「フフン、 私の眼を舐めちゃいかんぜお嬢ちゃん♪ 」


……おじょ……何だよ、気付いてやがったのか……

エインも少女の正体には気付いていたようだった。

そんな事をしている間にエインは完全に盗賊達に囲まれてしまっていた。


「何だぁ、 あの子娘? 」

「ここが何なのか分かってるのか? 」

「まぁ丁度いい、 アイツも売り捌いちまうか……身なりの割には結構いいツラしてるしなぁ」


……マズい……俺の所為であの旅人まで!

そう思って魔法を使おうとする少女。

しかし次の瞬間、 少女の首元にナイフが当たる。

幹部の一人が少女の背後に移動していたのだ。

相手は腐っても街一つを裏で牛耳る組織の幹部、 強さが無くては務まらないというモノだ。

身動きを封じられた少女。

それを見たエインは剣の柄に手を置いた。

そして歩み寄ろうとすると


「止まれ、 あと一歩でも動いたらこいつの首を刈っ切る」


そう言って幹部はナイフを少女の首に強く当てる。

ナイフを当てた所から少女の血が滴る。


「……逃げろ旅人、 俺はいいから」

「おっと、 そうは行かねぇなぁ! ここを知られちゃタダで帰す訳には行かねぇからな」


少女はエインを逃がそうとするも、 既にエインの背後にも他の幹部たちが立っていた。

そして彼らがエインの身体に触れようとする。


次の瞬間、 彼女の身体に触れようとする手が宙を舞った。

幹部の手首から血が噴き出し、 辺りに血溜まりを作った。


「ヒ、 ヒィィ! な、 何が起きたんだ! ? 」

「……おじさん達、 悪い人達なんだよね……なら、 斬っちゃっても問題ないよね♪ 」


エインが目にも留まらぬ速さで幹部の手を斬ったのだ。

……先に手を出したのはおじさん達だし……法律的には正当防衛だよね……

明らかな過剰防衛である。

すると、 少女にナイフを当てていた幹部は不可解な出来事に驚愕する。


「クソっ! 何なんだあの子娘! こうなりゃ」


そう言って少女の首をナイフで斬ろうとすると


「ッ! ? 」

「なっ……」


ナイフを持っていた手が地面に落ちる。

気が付くとエインは既に間合いに入っており、 男の手首を斬っていたのだ。

……この旅人……意識の隙間を縫って近づいて来やがった……全く気が付かなかった……

エインの戦闘能力に少女は驚く。


「おじさん、 やめるなら今だよ……それとも……もう一方の手首もいらないかな? 」


蹲る幹部にエインは脅迫する。

一連の出来事を見ていた他の盗賊達はエインに恐怖し、 道を開けた。


「じゃ、 いこっか♪ 」

「お……おぅ……」


そして二人はアジトから出て行った。

もとい、 エルフの少女は無事に組織から脱退する事が出来た。


宿にて……


「いやぁ、 危なかったねぇ♪ 」

「どの口が言ってんだ……どちらかと言うとお前の方が危ねぇよ……」

「俺の知らない間にそんな事が……」


エインはガルンに事の一部始終を話した。

……とは言え、 この街からは早く出た方がいいかなぁ……根に持たれてない訳が無いし……面倒事になる前にさっさと逃げよ……

そんな事を考えていると少女は改まってエインに礼を言った。


「ありがとうな……こんな何処の誰とも分からねぇエルフを……」

「いいっていいって! あぁそうだ、 君名前は? 」

「俺はウルだ、 お前らは? 」

「私はエイン♪ 」

「ガルンだ、 これからよろしく」


こうしてエインの旅にエルフの少女、 ウルが加わった。

その後、 ウルが女だと知り、 男仲間が増えたと思っていたガルンは少し残念そうな顔をしたのはまた別の話……

翌日、 宿で一休みした三人は街から発った。

あれから結局、 盗賊組織の連中はエインに恐怖したらしく、 追手や監視は全く来る事は無かった。

これにはウルも予想していたようで、 改めてエインの力に畏怖した。

それはそうと、 二人の旅の目的を聞いていなかったウルはその目的聞いた。


「私はぁ……世界中の色んなモノを見たいと思って旅に出たの、 そのついでに自分の過去を探してるって感じかな♪ 」

「俺は自分の生き方を見直す為にこの方の弟子として共に旅をしている」

「へぇ、 正に『旅人』って感じだな……」


……そうか……そうだよな……旅をしているからには目的はあるよな……そんな旅人と一緒にいる俺は……大層な目的を持てるか……

ウルは盗人になる以前から、 適当で好き勝手に生きてきた。

きっとこれからも変わる事は無いし、 変わる気もさらさら無い。

彼女は旅に対して各々の目的を持つ二人を見て、 そんな自分との落差を感じた。

そんな様子のウルを察したエインは、 彼女の頭を撫でながら言った。


「旅をする理由なんて人それぞれだよ、 ウルは今までの生活に嫌気が差したから私達の所に来た……今はそれでいいんじゃない? 」


それを聞いたウルは少し呆気にとられた表情を見せ、 クスッと笑った。


「そんな薄っぺらい理由でいいのかよ……」

「いいの! 旅に大義名分なんて必要ないんだから♪ 」

「……わぁったよ、 今はそれでいいって事にしといてやるよ……ってかいつまで頭撫でてんだ、 俺は年上だぞ! 」


そんな事をしつつ、 三人は歩みを進めていくのだった。

…………

その頃、 リ・エルデ王国 首都 ステイロンにて……

バルキスが神妙な表情で王城の廊下を進んでいく。

その先はケイニスがいる王室だ。


「陛下、 ベリスタ国境街の衛兵から伝達です。エインと名乗る旅人がベリスタに入国したとの事……」


部屋に入ったバルキスはケイニスにその旨を報告する。

それを聞いたケイニスは分かっていたと言いつつも少し呆れた表情を見せた。

以前、 魔晶石の鉱山を巡っての戦争にて大活躍をしたエイン。

当然のことながらその話はベリスタ帝国中の軍部に広がっている。

そんな事もあり、 二人は心配でしばらくエインの様子を監視していたのだ。


「なぁバルキス、 もしエインの立場が君だったら……どうする? 」


エインの行動に疑問を感じたケイニスはそんな質問をする。


「私だったら当然ベリスタへの入国はしばらくしないでしょう、 というより近付くのさえ躊躇う程です」

「だよねぇ……」


最近殺し合った敵の国へ行くというのは、 昨日喧嘩した人の家に何食わぬ表情で遊びに行くようなもの。

エインの常識外れぶりを知っているつもりでいた二人は頭を抱えた。

……どうする、 ベリスタに入ってしまったとなれば監視する事も守ってやる事も出来ない……いや、 彼女の場合守る必要は無いかもしれないが……

頼むから余計な騒ぎは起こさないでくれよぉ~……下手したら世界大戦になりかねないから

ベリスタに入ってしまったエインに手も足も出せなくなった二人はただ無事を祈ることしか出来なかった。

エイン達が街を出て二日が経った頃……


「はぁ……はぁ……チキショウ……」

「……相変わらず……隙が無い……」


森のど真ん中で息を切らしながら寝そべるウルとガルン。

その二人を棒切れ片手に見降ろすエイン。

現在、 絶賛稽古中である。

何故ウルも一緒に稽古をつけてもらっているのかと言うと……


昨晩……


「なぁエイン、 お前ってガルンに剣の稽古をつけてるんだよな? 」


夕飯の時にウルはエインに聞いた。


「うん、 まだ発展途上だけどね」

「そうか……なぁ……ついでって感じで悪いんだけどよ……その……俺にもその稽古、 つけてくんねぇか? 」


今まで盗賊として生きてきたウルはエインの剣技を目の当たりにして興味を持っていた。

……一体どれくらい強いのか……明らかに体重差のあるガルンをも圧倒する程の強さ……実際に体感したい、 そして学びたい。

そんな思いでウルはエインに頼み込んだ。

それに対しエインは嫌な顔する訳も無くすんなりと承諾したという訳だ。

……まぁ弟子にするって訳じゃないし……ガルンの稽古のついでだったら立ち合いくらいはいいか……

エインの考えはそんなところだった。


そして現在、 ウルはガルンと二人がかりでエインに挑むも、 惨敗してしまったのだ。

……二人とも剣に関しちゃ素人とは言え……棒切れ一つで戦士と魔法使える盗賊をたった二秒ではっ倒すとか……バケモンだろやっぱり……

エインの圧倒的強さを体感したウルは心の中でため息を付く。


「ったく……それぐらい強いならフィーレイの闘技大会でも優勝出来るんじゃねぇか? 」


起き上がり様にウルはボソッとそんな事を呟いた。


「フィーレイ? 」


フィーレイとは、 これからエイン達一行が向かおうとしているベリスタ帝国の首都である。

そこでは年に一回、 世界中の強者達が集まり、 世界で最も強い者を決める世界闘技大会が開催される。

その大会にルールは無し、 武器の使用良し、 魔法の使用も良し、 素手でも良し、 とにかく相手を倒せば良い。

殺害以外であればどんな手を使ってもいいという、 なんとも滅茶苦茶な試合なのだ。

ただしその分、 普段から過激な戦いを見たがる一部民衆には大人気だという。


「へぇ……」


ウルから話を聞いていたエインは思う。

……闘技大会かぁ……パパから少し聞いた事があるなぁ……確か『賞金』が貰えるとか……

最近エインの旅仲間が二人に増え、 路銀の消費がより一層激しくなることが懸念されつつある状況。

そんな現在の彼女にとって『賞金』はかなり魅力的なモノである。

そして何より、 彼女は世界中の強者が集まるという話に興味が湧いた。

……どれくらい強い人たちが集まるんだろう……あの団長さんよりも強い人が集まるのかな……

そんな事を考えている彼女の表情を見てガルンが察した。


「師匠……まさか大会に参加しようだなんて考えてませんよね……」

「そのまさかって言ったら? 」


エインの答えにガルンはやっぱりと呟く。


「参加するんだったら急いだほうがいいぜ、 今年の大会は春の終わり頃って聞いたからもうそろそろだと思うぞ」

「ホントに! ? じゃあ急がなきゃ! 二人とも支度して! 」

「やっぱりこうなるか……」


そして三人は闘技大会に参加すべく、 予定より早くベリスタの首都に向かう事となった。

続く……

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