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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第十二話

ベリスタ帝国へ向かう為にリ・エルデ一寒い地域とされる場所『氷竜の大口』に入ったエインとガルン。

そこで20年前から滅んだと思われていた民族、 シュネイト族のカディと出会い、 二人は彼女らが暮らすシュネイト族の村に訪れる事となった。

二人が村を訪れた日の晩……

エインとガルンはカディの家で夕飯をご馳走になっていた。


「さぁ、 これがシュネイト族の郷土料理、 雪猪のスープだ! 」

「わぁ~……! 美味しそう! 」

二人の前に出てきたのは脂の乗った猪肉と野菜がゴロゴロ入ったスープだ。


雪猪は雪原に生息する動物であり、 白い体毛と青い瞳が特徴。

その肉はとても柔らかく脂が乗っており、 体力が消耗しやすい寒冷地帯で暮らす者達にとってはありがたい食料の一つでもある。

シュネイト族は主にスープや燻製にして食べる事が多い。


「いただきまぁ~す♪ 」


腹を空かせていたエインは我慢できず一番に食べ始めた。

……香りに反してスパイシーな味わい……そして臭みが全く無い柔らかいお肉とスープが染みたお野菜の絶妙なバランス……


「うまぁい! ! 」

「これは……美味い……! 」


スープの味に二人は絶賛だった。

そんな二人を見てカディは笑った。

その後、 エインはスープを五回もおかわりした。

…………


「二人ともいい食べっぷりだったじゃないか! 村の男共でもそんなに良く食う奴はそうそういないよ」


カディはエインとガルンの食べっぷりに感心する。

……本当に美味しかったぁ~……後で作り方教わろうかなぁ

腹が膨れたエインはそんな事を考えていると


「……ん? また吹雪か……」


既に暗くなった外から強い風の音が聞こえてきた。

外の様子が変わったのを見たカディはふとため息を付く。

話を聞くに、 こうなる前は頻繁に吹雪が来ることは無く、 来てもせいぜい五日に一回程度だったそう。

それから吹雪が多くなってからというものの、 狩れる動物達の数も減り、 村人も狩りに出れる日が少なくなっている。

故に村は現在食糧難の危機に陥っているのだという。


「村の子供達に十分食べさせてやれないせいか、 身体が弱い奴らが増える一方なんだ……このままじゃシュネイト族は本当に滅んじまうかもしれないねぇ……」


その話を聞いたエインはある提案をする。


「ならこの吹雪、 私達で止めてあげるよ! 」

「師匠、 流石にそれは無理があるのでは……あくまで自然現象ですし……」


そう言うガルンにエインは首を傾げる。


「え……自然現象なんかじゃないよ? これは誰かが魔法で起こしてるものだよ」

『何だって! ? 』


それは驚愕の真実だった。


実のところ、 二十年前にもリ・エルデ政府は吹雪の原因は何者かによる仕業ではないかと調査を行っていた。

しかし、 当時は何も発見はされず、 自然現象だという事で片付けられている。

その事を話したガルンにエインは調査不足だと呆れ返った。


「そもそもこの吹雪からは魔力の残影が見えるし……明らかにおかしいじゃん」

「え……そんなものが? 」

「……もしかして皆見えてないの……? 」

「え……? 」

「え……? 」


エインは幼い頃から剣術以外にも魔術に関する鍛錬も積んでいる。

普通の子供と違って遊び道具も無い環境で育った彼女にとって、 魔術とは玩具同然であり、 魔力と触れ合うのも当たり前の日常だった。

それに加えて世間の常識も知らない彼女は、 魔力とは見えて当たり前の物質だと思い込んでいたのだ。

魔力が見える者はエイン以外にもいる事にはいる。

ただ、 それは生まれ持って才能があり、 尚且つ長年の鍛錬を積む事で初めて見えるようになるもの。

普通の人間が魔力の可視化を試みれば少なからず五年は掛かるというのが常識。

話ではエインはそれをたった二年で習得していたとの事。


それを初めて知ったエインは顔を覆う。

……パパ……そういう常識くらいは教えておいてよ……

思わず心の中で父にそう言った。


「ま、 まぁその話が本当なら明日にでも族長に話すべきだね」

「師匠、 明日赴きましょう」


翌日……

二人は吹雪の事を話す為に族長の家にやって来た。

カディは族長の家に案内すると他の用があると言ってそそくさとその場から立ち去ってしまった。

その表情はどこか浮かない様子であった。

……シュネイト族の族長って……怖い人なのかな……

カディの反応を見たエインとガルンは共にそんな事を考えた。

ただ、 このまま家の前で立ち尽くしている訳にも行かないので意を決して扉を叩く。

すると扉の向こうから


「おや、 誰かと思えばカディが世話してる遭難者じゃないか」


ガルンの背を優に超える大男が出てきた。

顔には大きな傷跡が入っており、 顎には立派な白髭が生えている。

どうも彼が族長で間違いないようだ。

族長の威圧感に圧倒されながらもエインは吹雪の事について族長に話す。

それを聞いた族長は髭を撫でながら考える。

そしてしばらくして二人を家の中へ招き入れた。


「まぁ座りたまえ……先の話が本当なら、 君達に話しておかねばならん事がある……」


そう言って族長は二人を椅子に座らせ、 テーブルに茶を出す。

一息つくと、 族長は話し出す。


「先に自己紹介を……私はシュネイト族の十四代目族長のグラエスだ……」

「旅人のエインです」

「ガルンと申します」

「早速本題に入ろう……まぁ実のところ、 私も吹雪の原因については大方見当が付いているんだ……」


それは意外な事実だった。

ならば何故自らが動こうとしないのかを聞く二人。

するとグラエスは自身の昔の事を話し始めた。


「私が若かりし頃、 それを見たんだ……吹雪の中にぼんやりと映る悪魔の影を……とても恐ろしかった……それから吹雪を見るとその記憶が蘇ってしまって……」


見た目に反して恐れる姿を見せるグラエスに二人は同情する。

誰しもトラウマというものは存在する。

それは例えどれだけ鍛えても、 どれだけ成長しても拭いきれない程に深く刻まれる。

もう恐れない……そう思っていても体は恐怖を覚えてしまっている。

その感覚を知るエインとガルンはそれ以上彼を咎める事は無かった。

すると、 グラエスはエインに頭を下げる。


「族長として恥ずるべきなのは百も承知……だがどうかお願いしたい、 あの吹雪を……あの悪魔を……どうか討ち取ってくれないか……」

「……任せて、 族長さんのトラウマは私達が払ってあげる」


エインは微笑みながらそう答えた。

それからグラエスは吹雪の悪魔について自身の知る限りの情報を二人に話した。

悪魔は未知の強さを持っており、 見かけたシュネイト族の男が度々挑むも、 全員が行方不明となっている事。

それを知るのは族長のみで、 村の人々には男達は吹雪で遭難したと伝えられている事。

悪魔の出没時間は全て夜の吹雪の時であり、 場所は決まって東側の谷付近だという事。

それらを聞いたエインは考える仕草を見せる。

ガルンも彼女の様子に何かを察した。

兎にも角にも、 二人は吹雪の問題を解決すべく動く事となった。


族長の家を後にした二人は早速グラエスが言う悪魔の討伐の為の準備を進めた。

その時、 ガルンはエインに聞く。


「師匠、 まさか吹雪の悪魔の正体について見当が? 」

「……うん、 まだ予想だけどね……多分相手は魔族だと思う」

「魔族! ? 」


魔族、 それは『火の時代』より存在する魔物の一種。

彼らは生まれ持って魔力を操作する技術に長けた種族であり、 知能と姿は魔物の中でも最も人間に近い。

しかし、 思考性は人間とはかけ離れており、 彼らにとって人間は自分達の姿を真似ただけの劣等種族であり、 寿命の短い使い捨ての道具のようなものとしか思っていない。

そんな彼らの好物は魔力であり、 他生物から奪い取る事で腹を満たせる。

ただ、 この世界において魔力とは生物を動かす動力源の一つ。

それを奪うという事は命を奪うも同義なのである。

また、 彼らは人間の血肉も食す。

故に人間からはこの世界で最も邪悪な存在として恐れられている。

他にも様々な話があるが、 それは後に説明するとしよう……


「しかし、 魔族なんてとっくの昔に勇者によって滅ぼされたのでは……」

「それは勘違いだよ、 魔族は人間並みの知能があるだけに狡猾な生き物だからね……天敵である勇者に見つからないように隠れるなんて造作もないんだよ」


……実際私が旅に出たばかりの頃に何回か会ってるし……

魔族の習性を理解していたエインは何か思うような様子で準備を進めていた。


そして翌日の晩……

二人は吹雪の中、 カディから借りた防寒具を着込んで『氷竜の大口』の東へ向かった。

……最初に来た時より視界が悪くなってる……それに魔力の残影も濃い……これは……警戒されてるのか……

しばらく進んで吹雪の様子が少し違うのに気付いたエインは辺りを見渡す。


「……見られてるね」

「え……」


エインは視界が悪い吹雪の中、 遠くから氷狼の群れがこちらを見ているのに気付く。

しかし、 何故か攻撃を仕掛けて来ようともしない氷狼にエインはある推測をする。

……一昨日見たあの氷狼と言いあの熊さんと言い……あの頭に付いていた紋章……そっか……いかにも魔族らしいというか……


「ガルン……相手はここら辺一帯の魔物を操る魔法を使ってるのかも……」


そう言う彼女にガルンはやはりといった表情を見せる。

……やはり……あの額に刻まれていた魔術式は洗脳と肉体の支配権を奪うものだったか……

するとエインは防寒具を脱ぎ、 身軽な格好になった。

どうやら既に近くに来ているようだった。


「……ッ! 」


身構えていると二人の周囲から氷狼や他の魔物を含めた群れが襲い掛かってくる。

その殆どをガルンが請け負い、 エインは群れを操る者の気配を探した。

すると彼女は妙な事に気付く。

……いた……魔物じゃない気配……でもこれって、 下にいる……?

そう思った次の瞬間、 足元が崩れ、 巨大なクレバスが出現した。

ガルンは間一髪で端に掴まるも、 エインはそのまま底へと落ちてしまった。


「師匠ーーー! ! ! 」


暗闇の中、 クレバスの底へ落ちていくエイン。

そして地面が見え始めた瞬間


「……ヨッ! 」


彼女は空中で身を捩り、 剣を岩壁に突き刺して速度を落とした。

難なくクレバスの底に着地したエインはポーチからランタンを取り出し、 辺りを照らす。

そこにいたのは……


「驚いた……そんなか細い身体で無事だなんて……」


白い髪の女だった。

妖艶な笑みを浮かべながらこちらを見る赤い瞳はまるで蛇のようだ。

そして明らかに人ではないと気配で分かる。

魔族である。


「その赤くて蛇さんみたいな目……魔族だね」

「その通り……私の名前はスティーリア、 冷気を操る魔法が得意なの」


スティーリアを名乗る魔族は自己紹介する。

……相変わらずだなぁ魔族は……中身は獣と変わらない癖して人間のマネばかりする……見てて胸糞悪くなる……

彼女の自己紹介を聞き流しながらエインは剣を抜く。

するとスティーリアはあからさまな態度で怯えだす。


「やだぁ怖~い、 もう少し穏やかにいきましょうよぉ~」

「悪いけど、 私あなた達のやることは大体分かってるから……今だって他の魔族達が機会を伺ってるし」


そう言うエインの周囲には怪しく光る無数の赤い瞳がこちらを見つめていた。

そう、 スティーリアはあくまで冷気の魔法を使うだけ、 魔物達を操っていたのはまた別の魔族によるものだった。

……『氷竜の大口』全体を覆う規模の吹雪を起こすくらいの魔法なら魔力の消費も激しい……だから魔物達を操る魔術を使う程余裕は無いはず

スティーリアと対峙する以前からそう考えていたエインは端から敵が一人ではないという事を見破っていたのだ。

騙し打ちが無駄だと理解したスティーリアは不敵な笑みを浮かべる。

次の瞬間、 エインの首を囲うように氷柱が地面から突き出してきた。


「ざぁ~んねん、 もう少しお話ししたかったのにぃ」

「……どうしてここを拠点に? 」


危機的な状況になっても平然としていたエインはふとスティーリアに目的を聞く。

その答えは単純だった。


「ここがいい所だったからよ、 吹雪を起こすだけで無知な人間がわらわら入ってくる……魔力にも暇つぶしにも困らなかったわ♪ 」


それを聞いたエインは珍しく神妙な面持ちになる。


「やっぱり嫌いだなぁ魔族は……命は玩具なんかじゃないのに……」


次の瞬間……




無名……壱……




エインを囲っていた氷柱が粉々に砕け、 周囲の暗闇から次々と魔族の首が落ちてきた。

この時の彼女は全く身動きをしていなかった。

否、 していないように見えていたのだ。

その光景を見たスティーリアは何が起きたのか理解が追い付かず呆然と立ち尽くす。


「……へ……嘘……何が、 え……? 」

「吹雪の時に見えていたあの魔力の残影、 あれって魔道具の効果とかを妨害する魔法だったんでしょ……この空間でも同じ魔力を感じたのを見るに、 私に魔道具を使わせない為の予防策だったんだろうけど……残念、 私戦う時は基本的に剣以外の道具は使わないんだ」


そう言いながらエインはスティーリアの目の前まで歩み寄る。

エインの圧倒的強さを前にスティーリアは腰が抜け、 命乞いをする。

しかし、 そんな彼女に対しエインは睨み付けるように見下しながら


「謝るなら今まで殺してきた人に言って来たら? 」


そう言ってスティーリアの首を刎ねた。

…………

その頃、 地上ではガルンがエインの心配をしていた……

すると


「……! 吹雪が……! 」


突然吹雪が止み、 空に満天の星空が広がった。

そこにエインがクレバスから這い上がって来た。


「ふぃ~、 いきなり足元が無くなったのはびっくりしたよぉ」

「師匠! ご無事で」


彼女の無事に安堵したガルンは底で何があったのか聞いた。

敵が一人ではなかった事に一時は驚いた彼だったが、 エインの強さを知っていた為、 すぐに彼女が無事だったことに納得した。

そうしてすべてが終わった事を知ったガルンは早速エインと共に村へ戻る事にした。

続く……

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