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秘密 ~一杯のお茶~

あれから数時間裁判は続いたが、証拠もそろっており言い逃れの余地はなく、ユチル伯爵家は取り潰し。



私の関与は先ほどの裁判の様子を見て連座は免れた。



お父様も、お母様も病気療養という名目の監視が付くこととなった。



お爺様一人で出来る規模ではない事から、余罪を聞き出したのち処刑が決定した。



こんなお荷物でしかない名ばかりだった妻が、その唯一誇るべき名まで無くなってしまえば、もう用無しだろう。



揺れ動く馬車の中、窓の外を見ながらこれからの事を考える。



修道院に行けば何とかなるかしら?これ以上旦那様に迷惑はかけられない……。



エルダは付いて来てくれるかしら?私の持っているものなんて、裁縫の腕と礼儀作法ぐらいかしら…?



そんな事を考えていると、前の席に座っている旦那様から声をかけられた。



「食事は食べられそうか?屋敷に帰ったらまずは食事にしよう。」



いつもの習慣で夕食は一緒にとる事がクセになっているのだろう。



「旦那様……、もういいのですよ。今までありがとうございました。名ばかりの妻でしたが、本当に良くしていただきました。離縁した後、速やかに修道院に行こうと思います。最後に修道院の紹介までしていただけると幸いです。何もできない妻で申し訳ありませんでした。」



そう言って深々と頭を下げる。沈黙が馬車の中を支配した……。



ちょうどタイミングよく屋敷についたのか緩やかに速度が落ち、止まった。



何も言わない旦那様。体を起こしたタイミングで執事のラセルが扉を開けた。



その瞬間、私は旦那様に抱きかかえられ馬車を下りズラリと並んでいるメイドや従者の間を皆のポカンとした顔を見ながら通はめになった。




「だッ、旦那様!」



ラセルが慌てて後ろから追いかけてくる。それでも足を止めず大股で私を抱えながら歩く旦那様。



「ラセル、すまないがしばらく妻と二人で話したい。お茶は僕が入れるからワゴンだけ部屋の前に持ってきてくれ。」



出てくるまで邪魔をしないように念押しして旦那様は器用に足で扉を開けて私をソファーへとゆっくり降ろしてくれた。



ラセルのかしこまりましたと言って閉めた扉の音を最後に、部屋にはまた静寂が戻ってきた。



混乱の極みパート2――… 旦那様を怒らせてしまったのだろうか…?



私たちは結婚して、食事を共にすることはあったが会話はほとんどなかった。



もう私には旦那様が何を考えているのか分からなかった。



どれ程の沈黙が続いたのか分からなかったが、ドアの外でかすかに物音がした。



旦那様が扉を開けて確認するとワゴンの上にティーセットと軽食が置かれていた。



この屋敷の主が自らワゴンを押し、セッティングをしお茶の用意までする。



私も慌てて立ち上がろうとしたが、穏やかな表情の旦那様に制止されてしまった。



「どうぞ、僕の最愛の人。君に手ずからお茶を入れるのが僕の夢だったんだよ」



ソーサーと共に受け取りながら、ウソとも冗談ともつかない言葉を口にする旦那様。



口を付けたお茶はローズの香りがした。



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