秘密 ~法廷~
法廷には多くの貴族、王様、宰相様までいらっしゃいました。
いったい何に対しての裁判なのかも聞かされていない私は現状を把握するので精一杯でした。
原告側に旦那様が、被告側に私の祖父、がおります……。
祖父を見た瞬間、幼少から結婚前までの出来事がフラッシュバックし、
呼吸が浅くなり顔を上げる事ができませんでした。
「国王、発言をお許しください」
旦那様の言葉に王がうなずき会場に語り掛けるように発言します。
「今の彼女の反応を入場からしっかりと見た方は大勢いらっしゃることでしょう」
私は何も発言していませんが、視線がグサグサ刺さります。
「社交界では氷の貴婦人と言われるほど表情の変化の乏しい彼女ですが、この場に来て実の祖父を目にして安心するどころか強張っていた。私は彼女が共犯どころか何も知らなかったのでは…?むしろ幼少期より抑圧を受けていたのではないかと、」
会場が騒めきます。貴族にはよくある事、表情が無いのはそのせいか?両親はどうしていた?
ざわめきは波となって押し寄せます。〝静粛に〟王の一声に静かになる会場――
「ローズリアル・ハイム伯爵夫人、こちらへ」
そう言って通されたのは、発言台。もういっその事、倒れてしまえたらどんなに良かったか……。
ですが、幼少期から祖父によりプレッシャーを与えられながら生活してきたおかげかこの程度では
気絶すらできません。
「ここでの発言にウソ偽りはないと神に誓えますね?」
「…はい、私、ローズリアル・ハイムはここでの発言にウソ偽りは無いと誓います。」
「では、ハイム夫人。貴女のお爺様、前ユチル伯爵が隣国に人身売買及び、我が国で禁止されている薬物を秘密裏に栽培及び販売していたことをご存じでしたか?」
宰相様が読み上げた質問を理解するまでにしばらく時間を要してしまいました……。
うつ向いていた顔を上げ、もう一度聞き返してしまった私が愚かなのでしょうか?
被告側の席から、射殺さんばかりに睨みつけるお爺様の〝この愚図が!〟という声が聞こえてきそうです。
「えッ?あッ、なッ…、私は…、なにも……何も知りません――…」
あまりの混乱に、自分でも何を言っているのかわかりませんでした。
「……あの、あの、母は?父はどこにいるのでしょうか?」
今までの人生で、こんなに狼狽えたことなどありません。でも、姿の見えない二人に胸騒ぎが収まりません。
「ユチル伯爵夫人は軽度の薬物依存、ユチル伯爵は重度の薬物依存により現在治療中です。」
足元がなくなったような錯覚がし、その場に崩れてしまいました。
私の頭の中は、なぜ?どうして?…もう混乱の極みで、気が付くと先ほど通されていた部屋へと戻ってきていました。
「……ッ様、…ッ-ズ様、……ローズ様!」
そこにはソファーの下に膝を付けて私の氷のような手を握りしめているエルダがいました。
「ローズお嬢様、大丈夫ですか?エルダはここに居ります。お嬢様の側を決して離れません」
「ッあ、エルダ……、私いつの間に戻ってきたの?」
「つい10分ほど前に、旦那様が抱きかかえて連れてまいりました。お嬢様、旦那様より伝言です。」
〝一緒に帰ろう、話がある〟
【離縁】――この時の私にはこの言葉しか頭に浮かびませんでした。