表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/38

第16話 明日香、青森に向かう

 中村明日香はたった一人で山道を歩いていた。


「うぅ……私が先に拓斗さんと会ったのに。なんで魔女とばっかり仲良くしてるの……」


 スマホで拓斗チャンネルの配信を見る。

 彼はついにアミーリアを実家に連れて行き、おばあちゃんに紹介してしまった。

 羨ましい。妬ましい。

 ついスマホを握る手に力が入り、液晶をバキバキに割ってしまう。


「待っててね、拓斗さん。私もそっちに行くから!」


 岩手県から青森県へと向かう。

 アミーリアは瘴気に耐えた。ならば自分だって耐えられるはずだ。明日香はそう信じて歩き続ける。

 しかし――。


「うっ!」


 うずくまって嘔吐。

 明日香チャンネルの配信中じゃなくてよかった。


「無理……ここからもっと瘴気が濃くなるとか……絶対に死ぬ……」


 拓斗に会いたい。

 別に彼のそばにほかの女がいたっていいのだ。

 ただ会って、新宿ダンジョンで助けてもらったお礼をもう一度言って。

 それから改めて一緒にダンジョンを冒険したい。

 その一心でここまで来たが、県境を越える前に心が折れそう。


「拓斗さん……」


 座り込んだ明日香は、スマホに映る彼を見つめる。

 過去の動画ではない。リアルタイム配信している今現在の拓斗だ。

 ダンジョン探索ではなく、実家の様子を映した景色。

 近所の子供たちがジャンプのバトル漫画でも通用しそうなほど強いが、それを除けば、和やかな田舎だ。

 明日香は東京出身なので、帰るべき田舎がない。


「行ってみたかったぁ……拓斗さんの実家……」


 これ以上は進めない。引き返す力さえない。

 自分はこのまま瘴気の中で朽ち果てて死ぬのか。


「ごめんなさい、拓斗さん……せっかく助けてもらった命を無駄にしちゃいそうです……」


 画面に向かって謝る。

 配信中の拓斗は、アミーリアを連れて家の外に出た。住宅街の中を並んでゆっくりと歩く。

 青森県は昭和の家ばかりかと思っていたけど、案外、今どきの家もあるんだなぁ。と、拓斗に知られたら怒られそうなことを明日香は思う。


「え、待って。手を繋ぐ? は、この女なに言ってるの!?」


 急展開だった。

 コメントが盛り上がっている。

 拓斗とアミーリアの手と手が接近。

 指と指がからむ。手のひらと手のひらが重なり合う。


「はあああああああああああああああっ!?!? そんなことしたら……赤ちゃんできちゃうでしょうがあああああああああああああああああっ!」


 分かっている。できない。

 だが――。


「小さな子供ならともかく、いい歳した男と女が手を繋ぐってのは、それはもう性行為の前戯みたいなものでしょ! このあとラブホテル行ってエッチするんでしょ……うわああああああああっ!」


 明日香はラブホテルなど行ったことがないし、性行為も未経験だ。なんなら男性と最後に手を繋いだのは、小学校のとき。

 異性に免疫がない。

 男女交際の機微など知らぬ。

 明日香には出会いがなかった。そのことが逆に『自分以外は出会いがありまくりでヤリまくりに違いない』という歪んだ認知を引き起こしていた。


「止めなきゃぁぁぁっ! このままじゃ拓斗さんがパパにされちゃうぅぅぅううっ!」


 獣のような雄叫びを上げながら明日香は立ち上がる。

 瘴気の苦しさなど忘れて走り出す。

 そして明日香は無事、生きたまま青森県南部地方への侵入を果たした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ