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第10話 秋田と青森の県境

「どうも、拓斗です。みなさん一週間ぶりです。俺らのことはテレビやネットのニュースになってましたね。なんか『あの二人はすでに消された!』とか『異世界人のアミーリアは実験動物にされている!』とか陰謀論が流れたみたいですけど、ご覧の通り、俺もアミーリアさんも無事です。むしろ高級ホテルで快適に暮らしてました」


「あんな、ふっかふかの布団で寝たのは初めてですよ! ご飯も美味しいし、日本っていいところですね!」


「そして今さっき、ヘリコプターで秋田と青森の県境まで運んでもらいました。ダンジョン庁のヘリがいなくなったんで、配信再開しまーす」


〝おおおおおお! 待ってました!〟

〝やはり無事だったか〟

〝役人ごときに拓斗さんを消すとかできるわけないもんな〟

〝なんかされそうになったら拓斗さん暴れるだろうし〟

〝ダンジョン庁がまだ存在してるってことは、ダンジョン庁がなにもしなかった証拠〟

〝俺は拓斗さんの心配なんかしなかったよ。むしろダンジョン庁の心配してた〟


「……タクトさん。凄い言われようですね」


〝ん? アミーリアたんにもコメント見えてる?〟

〝やべぇ、滅多なこと言えないじゃん〟

〝こっちの世界の服も似合ってますよ!〟


「あ、ありがとうございます。この服、自分で選んでみました」


〝センスいい〟

〝そういう大人っぽい落ち着いた服が合うな〟

〝いやぁ、こんだけの美人ならなんでもいける。制服着たら普通に高校生だよ〟

〝スク水おなしゃす〟

〝拓斗さん、ちゃんと褒めてあげた?〟


「あ、拓斗さんにはいっぱい褒めてもらったので大丈夫です。えへへ」


〝えへへ、だって。可愛い〟

〝なんだ、ただの天使か〟

〝俺らが見てないところでラブコメしやがって……〟

〝国家機密ってのはラブコメのことだったのか〟


「アミーリアさんもコンタクト型デバイスを入れてる。だからあんまり変なコメントしないでください。あとダンジョン庁から新型のドローンをもらったんで、今までより画質がよくなったはずですけど、どうです?」


〝言われてみると発色が綺麗になった気がする〟

〝音も聞きやすい〟

〝ダンジョン庁グッジョブ〟


「この一週間なにがあったか、みなさん知りたいですよね。国家機密とか言ってましたけど、そう大した話じゃないです。たんに職員と俺たちの会話をリアルタイム配信されたくないってだけで。あとダンジョン庁の建物に何度も行ったんで、うっかり本当に国家機密が映っちゃう可能性もありますし」


〝そりゃそうだな〟

〝省庁どころか市役所の手続きでもリアルタイム配信なんてさせてくれんと思うw〟


「異世界のことをメッチャ聞かれました。俺の動画を見ながら解説したり。配信してなかったときの様子とかも話しましたね。そう大した情報なんてないんですけど、向こうは真剣でした」


〝拓斗さんラブコメしてるだけだもんな〟

〝ダンジョン庁のお役人様だってハーレムの作り方が知りたいんだよ


「そして異世界のことだけじゃなくて、青森県のことも気になってるみたいです。電話もネット回線も生きてるので、青森県の存在そのものは確認できる。けれど瘴気で近づけないから詳細が分からない。なんか青森県が丸ごとダンジョン認定されてるみたいですね」


〝県まるごとダンジョンは草〟

〝いうてネットが繋がってるなら情報は来るのでは?〟

〝けど検索してもほとんどなんも出ないんだよな〟

〝ラーメン食べ歩きブログみたいなのしか出てこん〟

〝青森県を調べてたら青森県のラーメン屋に詳しくなってしまった。美味そうだが瘴気のせいで行けない。悔しい〟


「俺が言うのもなんですけど、青森県民ってあんまりハイテクに関心ないっていうか……スイカとSuicaの区別ついてないですし。だから動画とか配信する人が少ないので、情報が断片的になるんですよ」


〝スイカとSuicaの区別ついてないwww?www????w??wwww〟

〝青森県って自動改札機あるの?〟

〝むしろ電車あるの? 汽車じゃなくて?〟


「さすがに汽車じゃなくて電車です。JRは自動改札だし」


〝JRはって、私鉄は自動改札じゃないのか!〟

〝駅員に切符渡すの? 昭和の映画で見たわ〟

〝むしろ貴重。大切にして〟


「ありがとうございます。そんなわけでダンジョン庁は、俺に青森県の様子を配信して欲しいんだそうです。最初はダンジョン庁にだけ映像を送れと言われたんですが断りました。俺はあくまでダンジョン配信者。みなさんに映像を届けるのが仕事なので」


〝かっけえええええええ!〟

〝国家権力に屈しない。配信者の鏡〟

〝それに拓斗さん、配信者として有名になって両親の情報提供を呼びかけるんでしょ〟


「はい。よく覚えていてくれましたね。というわけで改めてお願いします。星野拓斗の両親の情報を知っている人がいたら、ぜひ提供をお願いします。もちろん本人が見ていたら、名乗り出てください」


〝泣ける〟

〝会えるといいね……〟

〝お父さんお母さん出てきてえええ!〟


「ありがとうございます。では今から青森県に帰ります。アミーリアさん、気をつけてね。この先、見た目はただの森だけど、瘴気がたちこめている。青森県民でも具合が悪くなるほど濃い。魔法で防御できるけど、魔力がゴリゴリ削られる」


「分かりました。気合いを入れてついていきます!」


「ちなみにここは矢立峠って場所。まだ秋田県だけど、この辺から瘴気が出てくる」


「……すでに気持ち悪いです」


「頑張って。これからどんどん濃くなる」


〝魔女ちゃん顔が青い〟

〝二日酔いの俺の顔色だ〟

〝なんか建物が見えてきたぞ〟


「あれは矢立峠の道の駅ですね。食堂や売店だけじゃなく、温泉もあるってばあちゃんが言ってました」


〝へえ〟

〝つまりアミーリアたんの入浴シーン配信か〟


「そんな配信しません! 私にもコメント見えてるんですからね……!」


「ちなみに瘴気のせいで客が来ないし、そもそも従業員も出勤できないので、道の駅は閉鎖中です。俺も中に入ったことはないです」


〝がっかり〟

〝入浴配信はしばらく我慢だな……〟


「う……ごめんなさい、吐きそうです……」


「マジ? 我慢できない? ……一回配信切ります」


〝数分で限界か〟

〝アニメだったらゲロをキラキラさせて誤魔化せるんだけどな〟

〝実写の嘔吐は駄目だろ〟

〝俺はいけるぞ。かけてほしい〟

〝すまんがガチの変態はNG〟

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